電力の供給システムは、「発電」「送配電」「小売り」の3部門に大きく分かれている。このうち、発電部門に関しては1995年に自由化が実現。自社で発電施設を持つ製鉄会社・石油会社などが独立系発電事業者(IPP)となり、電力会社に電力を供給できる体制になっていた。
小売り部門についても、段階的に自由化が進んできた。2000年には、大規模工場やオフィスビル、デパートなど契約電力が原則2000kw以上の特別高圧需要家に対する電力販売が自由化。2005年には、中小規模の工場・ビル、スーパーマーケットなど契約電力が原則50kw以上の高圧需要家にまで自由化が拡大された。そして今回、契約電力量による制限が撤廃されたことで、小売りの全面自由化が実現することになった。
新電力は、発電会社、卸電力取引所などから電力を購入。電力会社に送配電網の使用料(託送料)を払うことで、電力の小売りを行う。送配電網には各発電所で発電した電力が一緒になって流れているため、新電力で買う電力と従来の電力会社から買う電力に違いはない。もちろん、電力購入者が新しい設備を用意する必要はなく、今までのコンセントを使えばよい。
トラブルなどによって新電力が供給する電力が不足した場合には、地域の電力会社が不足分を補うことになっている。そのため、新電力が確保する電力が足りなくなっても停電などの心配をする必要はない。
電力小売り全面自由化によって新たに生まれる市場は、年8兆円規模といわれている。すでに、この巨大市場をめぐり、さまざまな業種の企業が参入を表明している。
新電力の中でも有力との声が高いのは、自社で発電施設を持つエネルギー各社だ。東京ガスは東京ガス横須賀パワー、東京ガスベイパワーなど天然ガスによる火力発電所を首都圏に5カ所持っており、豊富な発電量を誇っていることがアドバンテージとなる。「ENEOS」ブランドで知られる石油元売り最大手のJX日鉱日石エネルギーも、大阪製油所、大分製油所など各地の製油所にある発電施設でつくった電力を一般家庭に販売する。
通信各社も新電力市場に積極的だ。ソフトバンクは、東京電力と提携。グループ子会社であるSBパワーが太陽光を利用して発電した電力とともに、東京電力から供給を受ける電力を一般家庭向けに販売する。KDDIも家庭向け電力販売を2015年10月に発表しており、4400万のau携帯電話ユーザーを中心にエネルギーサービスを展開する。
NTTグループではNTTファシリティーズが、PPSとして、東京ガス、大阪ガスと共同出資でエネットを設立。すでに大規模事業者などに電力を供給している。現時点で新電力の中で最大手であるエネットは、今後、家庭や小規模事業者などにも販売を拡大する方針だ。
そのほか、大手ハウスメーカーのミサワホーム、大和ハウス、コンビニエンスストアチェーンのローソン、東急電鉄、旅行業のエイチ・アイ・エスなど多様な企業が電力販売を手掛けることを発表しており、競争は激しくなっている。
各社が新料金を発表、セット割などを考えて総合的に判断
電力小売り全面自由化は、事業者の事業機会の拡大などとともに、自由競争による電力料金の抑制が目的の一つとなっている。現在、発表されている各新電力のプランでも、地域電力会社の現行料金より数パーセント安くなる見込みだ。
一戸建てに家族4人が暮らす場合、契約電流50アンペア、平均使用量が月700kWhというのが一つの目安になる。その場合、現行料金体系では2万300円だ(東京電力、契約種:従量電灯B、2016年6月1日以降の適用料金で算定)。同じ条件で新電力各社の料金を試算すると、2万円以下になる。
もちろん、地域の電力会社も顧客維持に手を打ち始めている。例えば、東京電力では電力使用量の多い世帯向けなどの新プランを多数用意して、価格面でも新電力に対抗する方針だ。つまり、新電力を活用するにしろ、地域の電力会社の利用を継続するにしろ、電力料金を下げられる可能性があるということだ。
その際に、考慮したいのがセット割などの存在。ガス会社の新電力ならガス料金、通信会社の新電力なら携帯電話料金とのセット割を用意しているなど、付加サービスを打ち出しているケースがある。こうした各種のサービスを総合的に考えれば、かなりの節約につながる可能性もある。せっかくの電力小売り全面自由化の恩恵を最大限に享受できるように、真剣に検討したい。