2016年、年明け早々に世間の注目を浴びたのが女性タレントのベッキーさんの不倫騒動です。これには、企業の危機管理を考えるうえで参考になる点がいくつもあります。
まず、教訓になるのが、ベッキーさんの会見の失敗です。週刊誌の報道を否定しましたが、それが記事よりも信ぴょう性が低く、視聴者は納得しませんでした。否定するからには、それを納得させる根拠を示す必要がありました。それが用意できない場合は、言い訳か虚偽説明としてしか受け取られず逆効果になってしまうのです。
一貫性のない対応をしたことも失敗です。最初の記事に対しては素早く否定会見を開いたのに、次の記事に対してはアクションをとりませんでした。2回目の記事は、自らが行った否定会見の信憑性を覆すような内容でした。にもかかわらず何も対応しなかったので、週刊誌の記事が真実で、会見では嘘をついてごまかそうとしたと認識されたのです。これで、視聴者の信頼を失ってしまいました。「騒動を起こした」×「嘘をついた」のダブルパンチでダメージが膨らんでしまったわけです。…
トラブル対応において大切なのは、真実を明らかにするという「姿勢」です。虚偽の説明をして、それが明らかになった場合、取り返しがつかないダメージを受けかねません。公益通報者保護法の制定などで内部告発者の保護も図られていますから、真実を隠すことは非常に難しくなっています。
都合の良い見通しを語るのは危険
トラブル対応のまずさで、ダメージが膨らむ失敗は大企業も犯しがちです。トラブルに素早く対応するのは良いのですが、その際、虚偽の説明をするつもりはなくても、論拠が明確でなく都合の良い見通しを語ってしまうことがあります。昨年起きた横浜市マンションのくい打ち偽装事件でも、当初旭化成は、そのマンションの担当者に限った不祥事のように説明してしまいました。それが詳しく調査すると別の担当者の偽装も次々に明らかになり、非難を浴びたことは記憶に新しいでしょう。
少し前になりますが、まるか食品の「ぺヤングやきそば」への異物混入事件の際も、当初は被害者への対応で「異物混入は考えられない」としながら、その後「否定できない」という見解に変更しました。このことが同社の傷を大きくする一因となりました。
詳細を調査中の場合は、どういう理由で時間がかかっているのかを説明して、自分に都合の良い見通しや推測は語らないほうが得策です。旭化成もこのことが身に染みたのか、その後の調査結果については、約束した期日をたびたび延期して、できる限りデータがそろうまで発表しないようになりました。
■平時からの準備が、危機管理の鍵を握る
トラブルへの対応を誤らないためには、平時の準備が大切です。そのポイントをまとめておきます。
(参考:一般財団法人企業広報センター企業広報プラザ 企業広報の基本 危機管理)。
●リスク管理マニュアルを作成する
・リスク管理を行う組織を整備し、企業固有のリスクを整理する。
【1】「社会リスク」と「経営リスク」の両面で潜在・予測されるリスクを洗い出す
外部に情報源をおく「社会リスク」[(1)国会の動き (2)官公庁発表の情報 (3)情報サービス会社・機関の有償情報 (4)既存メディアからの情報 (5)ソーシャルメディア上での自社関連情報の収集など]
企業固有の「経営リスク」[(1)お客様相談窓口へのクレーム件数・内容 (2)企業倫理委員会などの窓口への相談件数・内容 (3)ソーシャルメディアでの風評など]
【2】リスクそれぞれの重要度や発生予想頻度などを整理・分析する
【3】自社の危機を定義し、用語を統一する
【4】以上をまとめてリスク表の作成を行う
・想定したリスクそれぞれの未然防止策を策定し、社内体制や手順、役割分担などを明確にする。これらをまとめてリスク管理マニュアルを作成する。
・過去に不祥事が発生していれば、その原因や対応などを記録として残しておく。リスク管理について定期的にミーティングを行い、意見交換・マニュアルの見直しなどを図る。
●ソーシャルメディア上のリスク対策が重要に
ソーシャルメディア上でリスクが発生した際には、情報伝達のスピードが速いため、より迅速な対応が必要になる。すばやくトップまで連絡する経路や報告基準を策定し、発生した事態ごとに、リスク管理マニュアルを定めておく。
ソーシャルメディア・ガイドラインを策定し普及を図ることは、企業として矛盾のない対応を可能とするとともに、社員の発言を起因とした企業批判を未然に防ぐ重要なリスク管理につながる。ソーシャルメディア上で炎上しやすい例として、(1)反社会的な表現や行為 (2)主義主張の対立 (3)やらせ広告記事・捏造・サクラ行為 (4)情報の隠蔽など不適切な対応 (5)消費者による企業へのクレームのオープン化 (6)内部情報漏洩 などがあげられる。