2016年7月20日、日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)、Perform Group、NTTグループによる協業契約の締結が発表された。このコラボレーションは、日本のスポーツ観戦スタイルを劇的に変える可能性を秘めている。
スポーツ関連のデジタルコンテンツ企業である英国Perform Groupは、ライブストリーミング(動画配信)サービスである「DAZN」(ダ・ゾーン)を運営している。「DAZN」サービスは、インターネットに接続したテレビ、パソコン、スマートフォン、タブレットなどを使ってサッカー、テニス、野球をはじめとする各種スポーツの中継を見ることができる。今年夏に開始予定だ。今回の契約により2017年から10年間にわたってJリーグ(J1、J2、J3)の全試合が生中継されることになる。放映権料の2100億円超は、日本のスポーツ業界では史上最高額だ。
今回の協業契約には、さまざまな部分で日本初となるポイントが見られる。例えば、外国企業の本格的な投資を受け入れたスポーツ競技団体は、Jリーグが第1号だ。放送メディアではなく、インターネット配信を専門に行うDAZNと主契約を締結したこと、放映に関する動画の著作権をJリーグ自身が保有すること、なども新たな点だ。
注目すべきは最先端のIT活用法…
これらの施策は、従来のメディア主導型から主催者主導型へとかじを切ることで、Jリーグの成長と経営安定化を図りたいとの意向が感じられる。
巨額の放映権料に関心が集まりがちな今回の協業契約だが、もう1つ注目すべき点がある。それは、サッカーの試合会場に先進のIT技術を導入する「スマートスタジアム事業」に関する契約が締結されたことだ。
観客の満足度を高めることは集客力アップにつながり、ひいては競技全体の発展に結び付く。全国に多くのファンを抱えるJリーグと、その全試合を配信するDAZN、そして、ITに関する高度な技術を持つNTTグループ。この3社が一体となって取り組むことで、スマートスタジアム実現に向けた取り組みが一気に本格化する可能性がある。
スマートスタジアムの構築に際し、まず必要になるのがWi-Fi環境の整備だ。訪れた観客にさまざまなサービスを提供するためには、快適なインターネット接続が欠かせない。今回の協業では、J1クラブのホームスタジアムが最優先で整備対象となる。
NTTグループは事業の第1弾として、NTT東日本、NTTドコモがパートナーとなっているJ1クラブ、大宮アルディージャのホームであるNACK5スタジアム大宮でWi-Fi整備を実施し、7月から稼働させている。
スタジアム内ではスマートフォンを使ってチームや各選手の成績を確認したり、プレイバック機能でゴールシーンを自由に再生したり、といったサービスを提供する。例えば、第1弾としてテレビ埼玉が制作したスタジアム内特別番組がある。毎週大宮アルディージャの応援番組を放映しているテレビ埼玉の協力により、スタジアムに足を運んだサポーターに対するスペシャルコンテンツを提供する。
衛星放送「スカパー!」が提供する有料ネットサービス「Jリーグオンデマンド」も視聴可能にする。本来、有料放送だが、スタジアム内に限りその時間帯に開催している全試合のライブ映像などを無料で楽しめる。こうしたコンテンツ提供によって観戦スタイルを変化させ、新たな感動、楽しみ方の発見につなげる。
スタジアム場内だけでなく、より広いエリアでのスマート化を進めることも検討されている。観客にスタジアム周辺のタウン情報や、観光案内などのコンテンツ配信は、地域産業の振興に役立つものだ。また、スタジアムは防災拠点としての役割も担っている。Wi-Fiの整備は、災害発生時の機能強化にもつながる。今回の協業はサッカーファンに限らず、地域社会全体に貢献する有意義な取り組みとして期待されている。