鉄道会社は、駅ビル開発を中心とした不動産事業やホテル事業など、収益源の多様化に積極的に取り組んでいる。さらにコアビジネスである運輸業でも新しいビジネスチャンスを模索している。その具体策の1つが豪華列車の運行だ。2013年にスタートしたJR九州のクルーズトレイン「ななつ星in九州」は、最高料金が155万円(1名1室)という高額な設定にもかかわらず、シニア富裕層を中心に人気を集めている。
高級感にあふれた瑞風の外観
そして6月17日、JR西日本が豪華寝台列車「TWILIGHT EXPRESS 瑞風(みずかぜ)」の運行をスタートさせる。
瑞風は西日本の景勝地を巡る(イメージ)
瑞風は、1989年から2015年まで運行され豪華寝台列車の先駆けとなった「トワイライトエクスプレス」の伝統を受け継ぐもの。人々の夢を乗せて大阪から札幌へと駆け抜けた「トワイライトエクスプレス」に代わり、大阪・京都を起点に山陽・山陰の景勝地を巡っていく。
瑞風で話題となっているのが、そのゴージャスさだ。中でも注目を集めているのが、世界的にも珍しい1車両1室の超豪華客室「ザ・スイート」。寝室のほかにリビング・ダイニング、バスタブ付きバスルーム、プライベートバルコニーまで備えた、まさに走るスイートルームだ。トイレは2カ所あり、車内の別の旅客を招待するシチュエーションにも対応できるようになっている。
ザ・スイートの寝室(左写真)、ザ・スイートのリビング(右写真)
ザ・スイートのバスルーム
ロイヤルツインの客室
客室は「ザ・スイート」も含めて3クラス用意されている。2番目に広い「ロイヤルツイン」は1車両に3室。スタンダードな「ロイヤルシングル」でも車両の4分の1のスペースを取っている。「ロイヤルツイン」「ロイヤルシングル」ともに廊下側の壁が可動式になっているため、客室側はもちろんのこと、廊下側に広がる瀬戸内海、日本海の景色も窓いっぱいに眺められる設計だ。
客室のインテリアは、アールデコ調をベースにしたもの。モダンな中にも古き時代の豪華列車の雰囲気が感じられるため、車内に入ると旅の気分はいやが応にも高まるだろう。
インテリアには木材がふんだんに取り入れられているが、これは山口県産のシイや島根県産のカシなど沿線の産品を使用している。廊下の装飾にも島根県産の石州和紙や萩焼の花器などが使われており、車内で沿線の名産を探すのも一興かもしれない。
豪華な料理に展望車、下車観光もセットに…
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食堂車[/caption]
旅の楽しみの1つである食事に関しては、各地の名店の主人、シェフが料理を監修している。監修者に名を連ねるのは、京都の料亭「菊乃井」3代目主人・村田吉弘氏、広島「あなごめし うえの」4代目主人・上野純一氏、島根の「レストラン ボンヌママン ノブ」オーナーシェフ・上田幸治氏ら7人。オープンキッチン付きの食堂車で味わう名店の味は、それだけで旅の良き思い出となるはずだ。
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豪華な料理も旅の楽しみ(写真は菊乃井の料理のイメージ)[/caption]
食堂車のほかにもオープンエアの展望デッキ付きの展望車、バーカウンターや茶の卓が用意されたラウンジカーがあり、「美しい日本をホテルが走る」というコンセプトに恥じない列車になっている。
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ラウンジカー(左写真)、展望車(右写真)[/caption]
瑞風の運行は、1泊2日で大阪・京都〜下関を結ぶ片道タイプ(山陽下り・上り、山陰下り・上り)と、大阪・京都を起点に2泊3日で山陽・山陰を巡る周遊タイプの計5コース。特徴的なのは、片道タイプでは2回、周遊タイプでは3回「立ち寄り観光」があることだ。
これは、船旅で途中の港に立ち寄るように、途中下車してその土地を観光するもの。
例えば、山陽コースの上りでは1日目に宮島口で下車し、厳島神社を神職の案内付きで参拝。併せて、舞楽の奉納または琵琶演奏を鑑賞する。2日目は尾道で下車し、しまなみクルーズを楽しむスケジュールだ。
料金は、片道タイプの4コースはいずれもロイヤルシングルが2名1室28万円〜、ロイヤルツインが2名1室30万円、ザ・スイートが4名1室59万円〜。周遊タイプはロイヤルシングルが2名1室52万円〜、ロイヤルツインが2名1室55万円、ザ・スイートが4名1室95万円〜となっている(料金はすべて1人当たり)。
6月〜9月に出発する第1期はすでに締め切られ、全コースが完売。平均競争率は約5.5倍で、最高倍率は6月21日に出発する周遊タイプのザ・スイートの68倍という人気ぶりだ。
瑞風は、JR西日本の収益に貢献するだけでなく、沿線地域の活性化にも期待が寄せられている。周遊タイプの立ち寄り駅である鳥取県岩美町の東浜駅では、乗客が利用するレストラン「アルマーレ」を運営する会社を地元住民が設立した。アルマーレは、地元の食材を生かした料理を、日本海を一望しながら楽しめるのがウリ。瑞風のツアー客以外も利用できるようにして、舌の肥えた瑞風利用者を満足させる料理によって東浜を積極的にアピールしていく意向だ。
同じく周遊タイプの立ち寄り駅に指定されている宍道駅では、瑞風の運行をきっかけに、年に数回しか演じられてこなかった伝統芸能の出雲神楽を週に1回披露することにした。新たな観光の目玉としてだけでなく、出雲神楽後継者の育成につながるものとして地元の期待も高い。
瑞風が、人口の減少や過疎化に悩むケースも少なくない山陰・山陽にどのような風を吹きこむか。地方活性化という観点からも、要注目だ。
写真提供:JR西日本