経理部門の業務として、大きな柱の1つに給与計算に関連した業務がある。より具体的には、従業員への毎月の給与支払いとともに、従業員個人に代わって所得税を納付する「源泉徴収」が挙げられる。一連の業務では、複雑な計算をして従業員の所得税額を算出し、適切に納税する必要がある。また、年に1回、経理部門には大きな業務のピークが来る。それが「年末調整」だ。こうした背景からも、経理に携わる部門の悩みの多くが、源泉徴収と年末調整にあるといっても過言ではないだろう。
この源泉徴収とは、そもそも企業の従業員が個人でそれぞれ税務署に納税申告をするのではなく、企業が納税手続きを代行する制度だ。前年給与などを基礎にその年の所得税や住民税を算出し、毎月の給与や賞与からあらかじめ天引きする。従業員は個人で納税申告や所得計算などをしなくて済み、国は税金を確実に徴収できる。双方にメリットがある仕組みではありながら、企業の経理部門にとっては負担の多い業務になっている。
なぜなら毎月の給与などから源泉徴収する金額は、あくまでも「予測」に基づくものだからだ。源泉徴収額に対して、本来納税するべき税額とのズレを修正する必要もある。この調整を行うのが年末調整だ。その年の最終給与支払日に正確な税額を算出し、源泉徴収した年税額との差額を「還付」したり「追加徴収」したりする。ミスが許されないのはもちろんのことながら、多様な業務が並行して進んでいる年末に業務が集中するといった側面も課題をより複雑なものにしている。
通常業務に加え、年末調整も進める時期は経理部門の業務負荷が増大する
では、それぞれの課題をどのように捉え、解決に導いていくのか。そのポイントをご紹介したい。
経理部門の業務を妨げる大きな要因…
毎月の源泉徴収では、給与や賞与を得ている従業員のそれぞれに対して、源泉徴収金額を計算する。給与の場合は、総支給額から社会保険料などを控除し、「源泉徴収税額表」に従って金額を計算する。この点、賞与は計算方法が異なり、「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」から計算する。さらに給与所得者以外に報酬を支払う対象がある場合は、別の算出方法で源泉徴収額を計算する必要にも迫られる。報酬を支払う場合には、消費税の計算との関係も生じる。要するに、面倒でミスが起こりやすい、というわけだ。
また、年末調整では、従業員が「扶養控除等申告書」や「基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」、さらに「保険料控除申告書」「住宅借入金等特別控除申告書」などに必要事項を記入し、書類を添付する。会社員の方ならば、秋が深まる頃に毎年「あれ?去年はどう書いたんだっけ」と悩みながら記入した経験があるだろう。扶養家族の増減や、住宅ローンの開始、新しい保険の加入などがあると前年通りにはいかない。経理部門では、これらの書類を確認して、年間所得金額と控除金額を差し引きした後に年末調整を行うことになる。
年末調整における課題の1つは、冒頭でも触れたように年末に業務が集中する点だ。経理部門の従業員の残業が増え、過重労働により煩雑な書類のチェックにミスも生じやすい。さらに、紙の申告書による申請では、記入を誤った従業員がそのまま書類を提出するケースも起こり得るし、記載方法などの面で経理部門への問い合わせも増える。近年は在宅勤務が拡大したことで、紙による申請が労働実態に即していないなどの事例も出てきている。
実際、経理部門の業務を妨げる要因には、年末調整の書類の不備や、不注意による未提出などが多いとされる。必要書類が不足していたり、記入漏れや記入ミスがあったりすると、個別に対応して修正しなければならず、従業員数が増えれば増えるほど、経理部門の業務負荷も高まってしまう。
勤怠管理や給与計算と連携したサービスの利用も一考の価値あり
源泉徴収や年末調整業務を効率化する1つの方法として、勤怠管理や給与計算と連携した製品やサービスの活用が挙げられる。現在は、人事労務の業務を支援する各種サービスが数多く登場し、これらを使うことで経理部門の業務負担を減らすことが可能だ。
煩雑になりがちな年末調整では、従業員はパソコンやスマートフォンの画面から分かりやすい案内に従って操作し、必要に応じて提出書類の写真を撮ってアップロードするだけで申請が終わるものもある。紙の申告書とにらめっこすることなく、年末調整がペーパーレス化でき、経理部門の担当者のチェック業務もシステム側でチェックが済んでいることから大幅に軽減できる。
システムやサービスを導入する他、もう1つブレイクスルーとなりそうな視点には、アウトソーシングの活用といった方法がある。年末調整業務ならば、必要書類をスマートフォンなどで写真撮影してアップロードできるシステムとの連携、対象者へのメール配信、従業員からのデジタル化した情報登録とチェック、不備対応などを含めて事業者が代行する。経理部門の悩みだった特定の業務を外部の事業者に任せることで、仕事の進め方を変革できるというわけだ。
源泉徴収や年末調整を当たり前の仕事として経理部門に担わせてきた企業にも、こうした新しい波が近くまで押し寄せてきている。源泉徴収や年末調整の業務をラクにして、より発展的な業務にまい進できるようにするためにも、サービス利用などを一考するときが来ているようだ。
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