オーマイグラス 清川忠康社長
従来の常識を覆し、インターネットによる眼鏡販売事業を展開するオーマイグラスは福井県鯖江市に拠点を置く地方ベンチャーだ。連載第2回は、清川忠康社長に眼鏡をネットで買うメリットを説明してもらった(聞き手はトーマツベンチャーサポート事業統括本部長、斎藤祐馬氏)。
斎藤:オーマイグラスのコンセプトは鯖江に昔からある眼鏡作り、ものづくりと「Instagram」世代を結び付けるようなものなんですね。
清川:そういった若い世代って、これをあえて鯖江で作っているとか、そこを押し出さなくても売れます、この値段でも。
斎藤:これはいくらですか。
清川:フレームで2万3000円ですね。これくらいの価格帯のものがすぐに売れます。
斎藤:今は眼鏡業界では、例えば9800円とか1万2800円くらいの低価格モデルがものすごく伸びてきているじゃないですか。そことのすみ分けはどのように考えているんですか。
清川:例えば「JINS PC(パソコン用眼鏡)」や「JINS MEME(かけている人の体調などが分かる眼鏡)」などはまさにプロダクトイノベーションであって、我々のビジネスの戦略とは全然違うと思うんです。我々が進めていきたいのは、ニューSPAモデルとまではいかないものの、業態、流通構造のイノベーションです。ものづくりも、あと店頭販売もそうだし、そういったことを含めて、インターネットを使って横串での効率化というところなんです。
ネットを使って効率的に商品作りをしていくこともそうですし、あと、販売面でも、例えば自社でもフラッグシップ店として渋谷ロフトの1階に店を構えてますけど、店内に展示している物の数は非常に少ないんです。普通の商品数の半分以下。店舗なんですけど、注文はタブレットを使っているんです。
斎藤:オーマイグラスが起こしたイノベーションの1つが、インターネットだと絶対に売れないといわれていた眼鏡をネット上に流通させたことだと思います。実際にやってみて、インターネットだとうまくいかないことあるかと思いますが、例えばそこはどうやって解決しているのですか。
清川:そういう観点でいくと、うまくいかないことはなくて、我々は「眼鏡はインターネットで買ったほうがいい」と言い切っちゃっている(笑)。そう信じてやっているんです。眼鏡って、これまでは店に行く。検眼を受けて、フレーム選定する。レンズを選ぶといった購買のプロセスがあります。買った後にはアフターサービスや、度数情報を保管するとかあると思うんですけど、基本的にできることはネットでやったほうが楽だと思うんです。
その理由としてまずフレームを選ぶところですが、そもそも店にある商品からしか選べない。そこに欲しいものがないというのはよくある話ですよね。
斎藤:一般的な店舗だとどれぐらいで、オーマイグラスにはどれくらいのバリエーションがあるのですか?
2万種類以上から選んでもらえます…
清川:店舗だと大きいところで1000本ぐらいですかね。うちは2万種類以上あるので。
斎藤:そんなに違うんですね。
清川:もう全然違います。ただ、多すぎても逆に選べないということにもなります。実際に眼鏡屋さんにいっても、どう選んでいいか分からないという人は多いんです。
斎藤:私自身も店頭で積極的に接客されたことはあまりなくて、なんとなく自分で選んでかけてみて、これかなという感じで選んでますね。
清川:そうなんですよ。それをまた何個も試しがけするのは結構面倒くさい。なんとなく店員さんにも遠慮してしまうというか。実は眼鏡って単価がそこそこ高くて、たまにしか買わないものなのですからゆっくり選びたい。それに、家でほかの洋服とも合わせて試着できたほうがいいじゃないですか。眼鏡って実はいろいろな服と合わせなきゃいけない。
斎藤:確かに確かに。
清川:だから、本来は店の中でぱっと選ぶのは非常に難しい商材だと思うんです。斎藤さん、眼鏡かけていらっしゃいますけど、最近いつ買いました?
斎藤:2~3年前ですね。
清川:眼鏡買いに行くときって、楽しいですか?
斎藤:半分、病院に行くような感覚がありますよね。
清川:そうなんですよ。服を買いに行くときと気持ちが全然違うんですよ。そこがおもしろくないのと、あと多くの人がいつも同じ店に行っているんです。同じ店に行って、覚えていませんか、店の人。
斎藤:うんうん。覚えてますね。
清川:そうですよね。カルテとかもありますしね。そういうことなんです。何かというと、店の人と信頼関係がないと買いづらい商材なんです。だって、見えづらいとかちょっと言いづらいですよね。検眼していて、これちょっと見えないですとかあまり楽しい話じゃない。老眼でもそう。また、女性の場合は、似合わないですよ、とかはっきり言いにくいですし……。コンプレックス商材という側面があると思います。
本当はネットで誰にも会わずに買えるほうが気持ち的にも楽だと思うんです。だからこそ、眼鏡ってネット販売にこそチャンスがあると思っています。検眼だけは今のところインターネットではできないので、そこに関しては実店舗と連携しているというわけなんです。
斎藤:どんなユーザーが多いのですか?
清川:我々のところで買ってくださっているのは30代以上の方がほとんどで、視力が悪くなったから初めて眼鏡を買う人よりは、2本目、3本目需要が多いんです。だから、度数も前と同じものでいい。データがあれば検眼しなくても買えるというわけです。
斎藤:なるほど、試したくなってきましたね(笑)。ちょっと詳しい手順を教えてもらいたいんですけど、ネットで選んで送ってもらって、そこからどうすればいいんですか?
清川:5本まで選んでいただけて、自宅に送られてきます。5日間は無料ですから、家でご家族の方の意見を聞いたり、違う服と合わせたりして試着してもらえます。気に入ったものがあった場合は、手元に度数のデータがあれば同封いただいて、いったん戻してもらってレンズを加工してお送りするといった流れです。
検眼は店舗に行ってもらいます
斎藤:検眼が必要な場合は、提携店が1000店あるということですが、それは眼鏡チェーン店とかですか?
清川:チェーン店や個人店さんなどいろいろあります。ネットで近くの店舗を選んでいただいて、そこで度数の確認とレンズの処方は受けていただきます。ただ現状は先ほどお話したように2本目、3本目の方が多いので、検眼を利用されている方はまだ少ないのです。今後はこのサービスをお客様の負荷を減らす方向に改善すれば、まだ伸びしろがあると思っています。
清川:気に入ったものがなければ、返品して終わりです。着払い伝票を貼って、返品するだけです。
斎藤:送料はタダですか?
清川:タダです。
斎藤:レンズを含んだ平均的な価格はいくらくらいですか?
清川:2万円台のフレームに、レンズは5000~7000円ぐらいで、平均単価が2万5000円ぐらいですね。
斎藤:今ユーザー数というか、月間の購入者数ってどれくらいですか?
清川:今、サイト訪問者数は月間40万人ぐらい、購入者数は細かい数字は言えませんが、数千人といったところです。
斎藤:目標としては?
清川:まずは月商1億円を目標に見ていますけど。まだまだこれからです。
日経トップリーダー/藤野太一
※掲載している情報は、記事執筆時点(2015年9月)のものです