オーマイグラス 清川忠康社長
2011年の創業以来、インターネットで眼鏡を売るという流通構造の改革を浸透させてきたオーマイグラス。最終回である今回は、清川忠康社長に今後の目標や戦略を語ってもらった(聞き手はトーマツベンチャーサポート事業統括本部長、斎藤祐馬氏)。
斎藤:オーマイグラスの事業スタートアップ時点では、周囲の反応はどんな感じだったんですか。
清川:最初はもう、地元の店に連絡しても全然会ってもらえないとか、あと電話ももちろん出てくれないし。今でもありますよね。話すことなんかねえ、みたいな。
斎藤:そういう人たちをどうやって口説いたんですか。
清川:そこはもう地道に、本当ちょっとずつですね。何とか耐えしのぎながら、資金調達しながらここまでやってきました。
斎藤:地元の雰囲気が変わったきっかけとかあったのですか。
産業革新機構のサポートで日の丸銘柄に
清川:いくつかありますけど、1つ目はマルイさんとか、大手と提携できたことですね。それから足元の部分だとやはり産業革新機構さんがサポートしてくれたことですね。
斎藤:日の丸の銘柄になったと。
清川:そうですね。まさに日の丸銘柄ですので、そこはぜひ強調していただければと(笑)。産業革新機構さんがこれだけ小さい案件に出資することって、本当に珍しいんです。多くはハードウエアだったり、もっとテクノロジー寄りなんですよね。我々みたいな小売企業に出資することってめったにない。それはやっぱり地方創生の新たなモデルケースになり得ると期待されているんだと思うんです。
斎藤:そしてこれを日本だけでなく、グローバルに展開していくと。
清川:そうです。ただ、私がめざしているのは10兆円、20兆円の数字のビジネスじゃなくて、価値観としては、やっぱりグローバルナンバーワンのほうが大事なんです。規模感ももちろん重要ですが、1兆円で世界10位だったら、100億円でも世界1位の会社のほうが私にとっては重要なんです。
アパレルとかだと恐らくもう世界1位にはなれないと思うんですよね。ルイ・ヴィトンを今から超えられます?でも眼鏡だったら超えられると思います。今からでも世界一になれます。しかも眼鏡という商材はそれほどブランドが立っていない。ほとんどがOEM(相手先ブランドによる生産)で、インターネットがあればどこでも買えるし、小さくて軽いから世界中に手軽にショッピングできます。
斎藤:確かに眼鏡店に行ってブランドで選ぶケースは少ないでしょう。
清川:実はそこに目を付けて今、世界一になった企業がイタリアのルックスオティカです。眼鏡フレームにブランド名を載せてビジネスにして、ライセンスで大きくなった。でも下請けですから、それを脱却するためにブランドを買収しているんです。レイバンとか、オークリーとか、すべて傘下です。あと店舗を持って垂直統合して、自国のマーケットシェアを上げてきちんと価格統制している。日本は分散市場なのでどこも買収してないですが、そういう独占的な市場をつくろうとしています。
斎藤:そんな会社があるんですね。知りませんでした。
清川:今、世界で1兆円ぐらい売っています。
斎藤:なるほど、スタンフォードのビジネススクールを出て、いろいろ分析した結果も含めてこの眼鏡市場に賭けて世界一を取ろうと。面白いですね。
清川:やっぱりグローバルで1位になれるチャンスがあるかどうかという観点で選んでいるので。2番手にしかなれないんだったらやらないですね。だからルックスオティカに勝てないと思うんだったら、最初からやらない。
斎藤:ところで清川社長は眼鏡がお好きなんですか?
もともとは眼鏡のことがすごく嫌いだった…
清川:実は小学校1年生くらいから眼鏡を掛けていて、もともとは眼鏡のことがすごく嫌いだったんです。目が悪くて苦労して、コンプレックスもありました。手術をしてようやく眼鏡を楽しめるようになった。超強度近視だと眼鏡を楽しめないですから。
斎藤:なるほど。それが原体験ですか。
清川:コンプレックスだったものが、眼鏡を少し楽しめるような時期が来て、でも本格的に楽しみ始めたのは米国にいたときですね。なかなか自分が注目されないときに、おしゃれな眼鏡を掛けていると、みんなに声を掛けられるようになったんです。そのクールな眼鏡はどうしたんだみたいな(笑)。中国に旅行に行ったときに安く買ったものとか、当時、すでに20~30本持っていました。
斎藤:相当な眼鏡好きではあったんですね。今後、理想に描いているビジネスモデルを現実化していくに当たって、何から順番に手を付けていきますか。
清川:今年はまず国内に集中します。渋谷のロフトに「Oh My Glasses TOKYO」という店も出しました。そこが今、非常に好調で、ここを活用してブランド認知をもっと上げていきたい。
斎藤:そこはお店としてはどんな特徴があるのですか。
清川:インターネットと実店舗の融合ですね。オムニチャネルによる効率化、店舗効率が非常にいい。場所も小粒で商品も300本ぐらいしか置いてないのに、まず売り上げはどんどん上がっている。それはタブレットを置いてそこで取り寄せができるとか、インターネットを見た人が店でピックアップできるとか、そういうオムニ的な使い方をしています。あと機械の設備投資とかも最小限に抑えていて、普通の眼鏡店って水場が必要なんですけど、うちは水場がない。そういう設備投資もいらない。
斎藤:眼鏡の店舗自体を究極的に絞っていったら、どれぐらいの広さがあって何があれば店が成り立つのですか?
清川:2坪くらいじゃないですか。
斎藤:2坪!
清川:物はいらないですよ。検眼器があって、タブレットがあって、人が1人いればいい。欲しいものは来店前にネットから取り寄せればいい。今、うちのサービスでは5本ですけど、それが10本にできたら、もう究極ですよね。試着して調整までして、あとはラボで加工して後日、自宅に直送すればいい。いずれはそういうふうになるんじゃないかと思います。
斎藤:店舗展開のイノベーションが起こりますよね。
清川:そうなんですよ。そこが我々のめざしているところです。将来的には我々のOh My Glasses TOKYOのモデルを地方に展開していく。地方のお店さんにOh My Glasses TOKYOの看板を掲げてもらって、うちのインターネットの取り寄せシステムとか、試着システムとかを使っていただく。展示は少なくていいですし、在庫も持たなくていいですから、かなり効率化できます。
斎藤:なるほど。確かに地方の小さな店には、もう何年前のものか分からないような在庫が残っているお店っていっぱいあります。うまくいけばこれは相当な地方創生になりますよね。フランチャイズチェーンということですか。
我々の強みはビッグデータ
清川:イメージとしては近いですね。ただ、我々の強みは、インフラや仕組み、あとはフレームづくりの情報を生かすとかビッグデータなのです。労働集約型の店舗運営とかではないんです。眼鏡は在庫の回転率が高くないですから、我々のグループの1000店舗の在庫なんて、もうセントラルウエアハウスで共有化しちゃえばいい。それだけで相当な効率化ができるわけです。
斎藤:今後の事業の課題としてはどんなものがありますか。
清川:まだこのビジネスモデル自体が新しいサービスで、まだまだ認知度が圧倒的に低い。例えば家電を買うときってネットを使って価格比較とか一応するじゃないですか。そういう購買行動って眼鏡業界ではなかなか起きないんです。
斎藤:取りあえず店舗に行ってみようとなるわけですね。
清川:そうなんです。そこをどうやって変えていくのか、そこをどうやってネットでリプレースしていくのかですね。
斎藤:そういう意味では、ネットでの購買が広まっていくのと同時に、地域の眼鏡店さんとか既存店舗と組みながら新しいサービス業に転換していくところが、1つの分かりやすいゴールの形かもしれませんね。
ちなみに海外展開も考えているのですか?
清川:そうですね。2016年度中に具体的な方針を決めて、2017年度中に何かアクションを取れればと考えています。円安ですし、日本産の眼鏡の競争力というのはこれから上がってくると思います。
斎藤:狙いのエリアは?
清川:興味があるのはアジアですね。眼鏡って顔の形も結構重要なので、日本人と系統が似ているほうがいい。それに、そういった繊細なところをきちんとクリアしていかないとメード・イン・ジャパンとして売れないと思うんです。
斎藤:なるほど。近い将来、鯖江の眼鏡が世界一になること、期待しています。
日経トップリーダー/藤野太一
※掲載している情報は、記事執筆時点(2015年9月)のものです