日本環境設計 岩元美智彦社長
2015年10月21日午後4時29分、東京お台場――。名画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」に登場した自動車「デロリアン」が、まさに映画の場面さながらにゴミを燃料にして走り出した。このシーンを演出したのは、不要な衣料品やおもちゃなどを回収して燃料にする技術とネットワークを生み出したベンチャー企業、日本環境設計を経営する岩元美智彦社長だ。この会社の立ち上げから、イベントの狙いまでを聞く(聞き手は、トーマツ ベンチャーサポート事業統括本部長、斎藤祐馬氏)。
斎藤:“日本環境設計”とは個性的な社名ですね。まずどのような事業をされているのか教えていただけますでしょうか。
岩元:分かりやすく言えばリサイクルのインフラをつくって運営する会社です。そこでいうインフラとは何ぞやといえば、弊社には2つの定義がありまして、1つは技術開発、もう1つは消費者目線、消費者参加型であること、これを軸に立ち上げてきました。それで究極の循環型社会をつくる。それを目標に現在も進めています。
斎藤:そこで言われる技術とはどのようなものなのでしょうか?
洋服やおもちゃをボタン1つでリサイクル
岩元:今までにない技術の開発ですね。これまでの技術は“物”のリサイクルでした。紙やプラスチックや繊維をどう元に戻すかということだったんですが、弊社はそれに含まれている原子、炭素に注目して、そこに戻す技術を開発した。ですから分別も必要ありません。プラントに物を入れて、ポンとスタートボタンを押したらリサイクルされて原料に戻ります。
斎藤:それは具体的に言うと何をどうリサイクルするものなのですか。
岩元:例えば洋服ですね。服にはウールとか、綿やポリエステル、ナイロンなどが入っています。あとおもちゃなどはポリプロピレンや塩化ビニールなどでできてきて、そこには例えば電池や無機物なども入っている。そういうものも含めて一緒にリサイクルできます。実はそれは人間も、森も同じです。原子構造としてみな同じで、これらをプラントに入れるとすべてエタノール化できるのです。
家庭から出るゴミは年間約4500万トンあって、この技術を使うと約1100万トンのエタノールができ、そこから約1000万トンのプラスチックができるんですね。1000万トンといえば国内の総使用量です。ですから、石油と同じクオリティーを持ったエタノールが家庭から出るゴミで十分賄える。もはや石油はいらない、というわけです。
斎藤:石油がいらない?そのようなことが実現可能なのでしょうか?…
岩元:ええ、可能です。地球の資源を、地下にあるか地上にあるか、燃えるか、燃えないか、このように分けて考えます。ベンチャーにとって地下資源の開発などはコストも掛かるし難しいわけです。地上にある資源をどう効率的に回収して、再資源化するかと考えたときに、金、銀、銅、レアメタルや鉄のリサイクル技術はもうすでに出来上がっている。ところがこの有機物に関してはほとんど技術がなかった。燃やすか、埋めるかです。ですから今までの物のリサイクルから原子の循環に持ってきたというわけです。
斎藤:要はなんでもエタノールにリサイクルできるということですか。
岩元:基本的にはなんでもできます。今企業から出るゴミは家庭の約10倍あって、4億トンあるんですね。この技術があれば、日本には4億5000万トンの資源があるともいえるわけです。しかも、この技術は物を選ばないというところがすごいところで、有機物は絶対に気体になりますから、気体にして触媒を通してエタノール化していく。エタノールは基礎原理的にいろいろなものに化けやすい性質を持っています。あとはCO(炭素と酸素)の組み合わせですね。実際にジェット燃料なんかも簡単にできます。あとは応用編です。
斎藤:ちょっとしたリサイクルというレベルの話ではなく、日本のすべてを養えるボリュームで行えるということなんですね。
資源は地上に十分にあるんです
岩元:まさに、そうなんです。ですから地下資源ではなく、地上資源でやれることをうちが世界に証明して、それでどんどん地上にヒト、モノ、カネが集まるようにして、循環させていく。それは消費者自らが参加して支えていくと、そういう構図が正しいと思ったんですね。
斎藤:なるほど。地下資源をひたすら掘って消費していくのではなくて。
岩元:ではなくて、地上の有機物で十分に回るんです。これからは埋蔵量の多い資源大国であることよりも技術力のある国が強い。そういう時代が来ると思っていて、そこにヒト、モノ、カネを投資させる方法を考えることが大事なんですよ。
斎藤:ものすごく革新的ですね。もう1つの軸である消費者参加型とはどういうことなんでしょうか?
岩元:そこは仕組みづくりの部分ですね。消費者がどうすればリサイクルに参加したくなるのか。まずリサイクルボックスを設置する場所をどうしようかと。アンケートを取ってみると、やっぱり買った店とか、駅や学校や、そんなところにあればいいよねと。言うのは簡単ですけど、小売店としてはそこに手間が掛かるとか、ゴミをお店に入れたくないといった声もあるわけです。ですからまず、お店にとってのメリットを数値で証明していくわけです。
斎藤:どのようなメリットがあるのですか。
岩元:うちは2010年に“あなたの服を地球の福に”というキャッチフレーズで洋服や繊維製品をリサイクルする「FUKU‐FUKUプロジェクト」を始めました。例えば大手の小売りチェーンさんで実験をしたんですけれども、同一県内約50店舗の半分にリサイクルボックスを設置してもらいました。置いてある店とない店の3カ月後の売り上げを計ったら、4%近く違うわけです。
同じことを大手スーパーで試しても3%くらい違う。粗利からみたとしても、うちにリサイクル代を支払っても十分に収支が合う。そういうことを一つひとつ証明してきたということですね。
斎藤:なぜ差が出たのでしょうか。消費者にとって従来のリサイクルとは違うものだということなのでしょうか?
消費者の「リサイクルしたい」という気持ちに応える
岩元:消費者の「リサイクルしたい」という気持ちと、そのお店でまた新しい物を買ってくれるという消費行動がリンクするということが証明できたんですね。例えばリサイクルしたいのに、家庭の分別では物足りない。リサイクルといえば、ペットボトルとかそういうものしかないわけです。ペットボトルの容器は単一素材なのでリサイクルしやすいんですね。
でも衣類とかおもちゃはいろいろな素材が入っていたり、無機物だったり有機物、燃えるものと燃えないものがあって、結局ほとんど燃やされるか埋められている。それを最先端技術で資源に戻す。その技術があるから小売り企業も信用してくれて、それが消費者に伝っていく。消費者の気持ちを実現することが大事なんです。
実はアンケートを取ると一番捨てたくないものがまず服なんですね。次に、おもちゃや文具、眼鏡、携帯などが挙がるわけです。ですから企業にはそうした消費者のリサイクルしたいものからインフラを広げていきませんかと。これまでリサイクルといえば、CSR(企業の社会的責任)だったものが実は売り上げに貢献しますよ、という話にもっていったんです。
日経トップリーダー/藤野太一
※掲載している情報は、記事執筆時点(2015年12月)のものです