不要な衣料品やおもちゃなどを回収して燃料にする技術とネットワークを生み出したベンチャー企業、日本環境設計を経営する岩元美智彦社長。連載2回目は、リサイクルすれば資源は地上に十分あると語る岩元社長に、事業を動かす仕組みについて聞いた(聞き手は、トーマツ ベンチャーサポート事業統括本部長、斎藤祐馬氏)。
正直に言えば、リサイクル代はまだ高いです。ですけど、例えばリサイクルしたエタノールでプラスチックの容器の製造をしています。うちが集めて、リサイクルして、その容器を買ってくれたら全体のバランスが取れて利益が出る。そしてリサイクル代も安くできますと。通常は商社が介在するようなところを全部自前でやっていて、プレーヤーが少ないことがコスト減になっている。実はいろいろなコンビニの容器なども採用されています。
このプロジェクトは初期も今もそうなんですけど、参加してくださるのは9割が女性なんです。ですから女性の気持ちをつかまないと絶対にうまくいかない。インフラをこちらで作って、大企業とコラボレーションしながら、ブランドとかコンセプトを共有してきた。“プラスチックをプラスに”ということで「PLA-PLUSプロジェクト」も始めました。
やはり一番大事なのは、消費者目線なんです。消費者の行動や気持ちを変えない限りはだめで、うちでもこの技術ができた当初は大企業などから工場のごみをリサイクルしてほしいなんて話が来ましたが、そこは全部断るんです。まず退路を断つ。目先の売り上げじゃなく、消費者の一人ひとりを変えることの方が大事で、そこだけに集中してきました。
だから今うちでは携帯電話もリサイクルさせてもらっています。総務省の発表では700万台が回収・リサイクルされていて、それに参画している企業は350社くらいあります。その中でうちがリサイクルしているのが400万台です。うちが始めたのは3~4年前ですけど、1社で半分以上を占めています。携帯電話のリサイクルも以前は手でバラしてレアメタルを回収してなんて言っていましたが、うちではプラントに入れてボタン1つです。それで金、銀、銅を分けて、有機物を再生する。つまり、コストが合うからうちに集まってくるんです。
斎藤:それはすごい話ですね。ちなみに工場も自前なんですか?
岩元:そうです。愛媛県今治市のタオル工場を再利用した施設で、それも今はフル稼働ですから、北九州に今の3~4倍の規模の工場を建てています。それから、今年は国内だけでなく、海外の事業が始まります。5年をかけて初めてバーゼル条約を突破したんですね。
斎藤:それはどういった条約ですか。
岩元:ごみの輸出入というのは規制が非常に厳しくて、なかなかそれを突破できなかったんですね。うちには技術や仕組みがあって、法律が分かっているので、うまくいきました。これで、海外にも回収拠点をどんどん広げていきます。
斎藤:消費者はなぜわざわざここに来てリサイクルしてくれるのでしょうか? 何か大きなインセンティブを用意しているのですか?
カネよりも夢を掲げるリサイクル
岩元:いえ、店へ来て服を入れるだけです。それがまたポイントなんですね。インセンティブってせいぜい10円か20円しか用意できない。そのときに本当にインセンティブの方がいいのか、それよりも参加した意義の方が大事なのかと、考えたわけです。10円、20円じゃなかなか人の気持ちは動かせない。どきどき、わくわくするものってなんだと考えたときに、だからデロリアンなんです。
服でデロリアンが動くとなったら、やっぱりどきどきして、わくわくするし、自分も動かしたいと思うじゃないですか。それでリサイクルの回収力がグワーっと上がった。エンターテインメントが、このプロジェクトを成功させる重要なキーだったんです。技術や消費者目線があって、そこにエンターテインメント性を加えていく。そこで回収量が増えるとさらにコストが下がって、またぐるぐると回りだす。この連続をしていくということなんです。
斎藤:じゃあ、これは服を持ってきたら10円のようなことはないのですね。
岩元:ないです。そんなの誰でも考えるじゃないですか。それでは人は動かないんですね。10円もらっても面白くないでしょう。それよりもデロリアンを動かしたいとか、何かを実現できる方がよくて、その企画力とかエンターテインメント性をどんどん高めていくことが重要なんです。
斎藤:なるほど。
岩元:だからショッピングモールなどに服の回収ボックスを置くときにも、ただ設置するだけじゃなくて、そこに例えばワークショップや「音楽×環境」のように、環境を軸にエンターテインメント性を入れて企画を考えていくんです。それでイベントを開くと、子どもたちが500人ぐらい集まるんですね。そうすると親も500人以上来るわけで、合計で1000名以上の集客がある。
そこには環境教育があって、エンターテインメントがあって、売り上げも上がるし、リサイクルされてできたプラスチックをまた使ってもらう循環が生まれる。提携している企業も150社くらいあります。イオンもセブン-イレブンもユニーもダイエーも、さらにビックカメラでもヤマダ電機でも、スターバックスコーヒーもモスバーガーも、マクドナルドもタリーズコーヒーもロッテリアも全部とうちと提携しているんです。
一番大事なのは、各社は競合していることもあるでしょうけれど、それ以上の夢とか目標があることなんです。それは地下資源を使わない社会をつくろう、それによって戦争をなくしていきましょう。ここなんですね。戦争の7割は地下資源の争奪なんです。これをなくせると。
斎藤:なるほど。化石燃料からリサイクル燃料に代替できれば、戦争がなくなると。
どうせなら戦争をなくしたい
岩元:消費者参加型の循環型社会ができれば、戦争をなくせる可能性は十分あると思います。それは難しい話じゃなくて、生活動線の中に不要な服やおもちゃをリサイクルする仕組みを入れるだけ。もちろん裏には技術や契約やもろもろが必要ですが、消費者にとっては単純な行動にもっていく。
2014年、うちのリサイクルプロジェクトに参加してくれたのが携帯電話で400万人、衣類で100万人以上なので、トータルで500万人以上が参加してくれています。だからうちは強いんです。小売店も消費者からなぜこの仕組みを取り入れないんだと、お客さんに言われるくらいになってきた。
斎藤:B to Bじゃなく、CからBを動かすと。
岩元:世の中を変えるのはCしかないです。Cを動かすことができて初めてBが動くんです。
消費者参加型の循環型社会がひいては、世界から戦争をなくす……。壮大な構想を描いている岩元社長。次回はなぜこうしたビジネスモデルを思い付いたのかに迫ります。
日経トップリーダー/藤野太一
※掲載している情報は、記事執筆時点(2015年12月)のものです