宮城県仙台市に本拠を置き、生活用品を中心に年間1000点もの商品を開発しているアイリスオーヤマ。どのように新商品を生み出しているのか、その具体的な仕組みに迫る。また、地方発のベンチャー企業が成功するための秘訣も解説する(聞き手は、デロイト トーマツ ベンチャーサポート事業統括本部長、斎藤祐馬氏)
そこで、今では当たり前になりましたが、ペットは家族であるという発想をしてみました。私たちはその視点を元に、「家族に首輪や鎖を付けるのはおかしいじゃないか」「それならサークル(金属製の柵などで囲ったペットの部屋)を作ろう」と発想を広げたのです。「家族に鎖はいらない」というキーコンセプトを定めて議論をすると、新商品のアイデアが出やすくなるんです。
ただ、新商品については明確な目標を1つ掲げています。それは、「売り上げに占める新商品の割合を5割以上にする」ことです。常に新しい商品を提案し続けないと、間違いなく競合が出てきます。後発の会社は当然値段を下げてきます。そうするとお客さんは安い方の商品を購入しますので、当社の商品は店頭から外されてしまいます。それを防ぐために、常に新しいものを作り続ける。これがキモなのです。
斎藤:大山社長ご自身も日ごろから情報網を広げてアイデアの素を探していると伺います。具体的に商品開発にどのように携わっておられるのでしょうか?
大山:ほとんどの会社は駅伝方式で商品開発を進めています。第1走者が商品を提案し、第2走者が設計し、第3走者が原価を計算し、物を作り、最終走者の営業がそれを売る。
しかし、この駅伝方式は、効率はいいかもしれませんが、第1走者の考えが最終走者には半分も伝わらないことが多い。開発途中でゆがめられて、最初はとがっていた商品が、何の特徴もない角の取れた商品になってしまうんです。
当社は違います。毎週月曜日に開く商品開発のプレゼンテーション会議では、階段状の会議室の中に、50人くらいが集まります。その提案の場に、営業から技術者までいろいろな関連部署の人が集まって情報を共有するんです。もちろん、私も参加します。
[caption id="attachment_16594" align="aligncenter" width="450"]
毎週月曜日に行う商品開発会議の様子(2012年10月撮影、写真:尾苗清)[/caption]
斎藤:大山社長はそこでどのような役割を果たされているのでしょうか?
大山:私の役割は最終ジャッジです。商品開発会議では、プレゼンの段階からさまざまな部署の意見を聞きます。部下からの提案書にある情報だけだと断片しか分かりません。それではその商品が本当に売れるかどうか判断がつきませんよね。
では、どうするかというと、たいていの会社では、競合商品と比較するしかありません。しかし、競合製品と比較した瞬間にオリジナリティーがなくなるんです。組織の中ではオリジナリティーが消されてしまっているケースが多いのではないかと思います。特に、ベンチャー企業は商品力が勝負ですから、他のまねをしていては大手企業には太刀打ちできません。
ですから、私の役割は、商品化を決めたらすべて責任を負うということです。
売れたら社員の頑張りのおかげで売れたよと言いますが、売れなかったら「俺が悪かった。あのとき俺がノーと言えばよかったのにな」と言うんです。そうして私が責任を負うことで、提案のハードルが下がり、社員がアイデアを出しやすくなります。私が責任を取ると言わなければ、社員は、ほとんどの人が失敗を恐れ、慎重になります。失敗してボーナスや給与を減らされたくないですから、当然ですよね。
斎藤:年間1000点も商品を開発していれば失敗もあると思いますが、打率はどの程度なんでしょうか?
大山:野球だと、3割バッターは名打者ですよね。しかし、アイリスでは10件中、4件は空振りしてもいいと言っています。6割ヒットを打つと考えると大変ですが、4割空振りしてもいいじゃないかと。ホームランバッターは実は三振王なんです。ホームランを打つ人は、三振を避けていてはホームランを打つことはできません。私たちは打率よりも、売り上げに占める新商品の割合を5割にすることが重要と考えています。
斎藤:大山社長が責任を取るとおっしゃっていましたが、うまくいかなかった社員の処遇はどうされていますか?
大山:当社は失敗した社員の方が、日が当たっているんですよ。一番大事なのはリベンジです。失敗したら、次は失敗しないようにと考えるでしょう。
だから、敗者復活をよくやるんです。失敗した当初はしばらくその部署から外れてもらいますが、1年、2年たつと、また違う部署でバッターボックスに立ちます。
斎藤:少しの期間外して、もう1回チャンスを与えるということですね?
大山:クールダウンして反省する期間は必要ですから。アイリスは人事異動が激しいのですが、それはダメ出しの人事異動ではなく、チャンスを与えるためです。
地方でオンリーワンの企業をめざす
斎藤:大山社長は、オイルショックの時に大阪から宮城県に工場を移され、仙台に本社を置いています。どのような思いで、地方で会社を経営されていますか?
大山:当社は東京都区内にもオフィスがあります。東京を否定するわけではありませんが、東京に勤めている社員には申し訳ないなと思っています。圧倒的に地方の生活の方が豊かなんです。満員電車に乗らなくていいですし、子育てもしやすい。
なぜ日本は東京に企業が一極集中しているかというと、効率がいいからです。でも、効率の良さは社員のためではなく、上層部のためではないでしょうか?社員も会社のユーザーです。社員にとって働きやすい環境はどこだろうと考えて、経営者は会社を置く場所を決めるべきだと思います。
斎藤:地方での起業は、東京とは違う難しさがあると思います。地方発のベンチャー企業の経営者はどういう意識を持つことが大事でしょうか?
大山:地方を植物に例えますとね、大地があり、水はあるんです。でも肥料が足りない、太陽が降り注がない。太陽はマーケット、肥料は技術です。それらがないので、地方ではなかなか大きく育たず完熟しないんです。
地方のベンチャー企業は東京の企業のまねをしないことが大事でしょう。オンリーワンであることです。地方には地方の良さが絶対にあるんです。東北は雪国で米がおいしい。農家の比率が高い。だから当社は、その強みを生かしておいしいお米を商品化しました。もしこれが仙台ではなく大阪だったら米を使おうとは考えません。強みを生かすことが大事なんです。
[caption id="attachment_16595" align="alignright" width="300"]
地方ベンチャーの生きる道について語り合った大山社長(写真左)と、デロイト トーマツ ベンチャーサポートの斎藤氏(写真:新関雅士)[/caption]
斎藤:地元でオンリーワンの商品を作って強くなり、大きな市場を引き寄せればいいのでしょうか?
大山:いえ、市場に出向かなければならないんです。大きな市場は東京だとしても、中途半端なところで進出したら、家賃が払えずに撤退することになります。ですから、まず地元でナンバーワンになり、次は東北全体でナンバーワンになる。そして、実力がついたところで東京に出ていく。一歩一歩攻めることが大事です。
斎藤:どうしても若い経営者は、東京進出をめざします。地方にいることのカッコ悪さ、引け目があるのだと思いますが。
大山:東京にはあまりに大きなマーケットがあり過ぎますから、便利屋でもそこそこ食べていけます。でも、便利屋は便利屋以上には大きくなれません。そこ止まりで、景気が悪くなったときに淘汰されてしまいます。確かに、ビジネスチャンスは東京の方が大きいでしょう。1000人に1人しか買わない商品は東北では成り立たないですが、1万人に1人しか買わない商品でも東京なら成り立ちます。だから、商売の根が浅くなるんです。
前回お話ししましたが、オイルショックで会社が倒産しかけたとき、私は大阪から宮城県に工場を集約する判断をしました。もしこれが逆で、大阪に残る判断をしていたら、今の会社はないでしょう。仙台よりも大阪の方が、生きていく術は多いんです。仙台には何もなかったから、本気で考え、自分たちで新たな市場、新たな商品を作り、育て上げるしかありませんでした。
地方で商売をしようとすると、根を深く掘り下げないといけません。だから、地方発のベンチャー企業は強い。不況時でも生き残れる底力があるのです。
日経トップリーダー/尾越まり恵
※掲載している情報は、記事執筆時点(2016年10月)のものです