ジーリーメディアグループ 吉田皓一社長(第1回)
日本のインバウンド市場が急拡大する中、2016年には台湾から400万人もの観光客が訪日した。その数は台湾人口の実に2割近くに上る。にもかかわらず、これまで台湾からの訪日客に特化した観光客向け総合メディアが存在しなかった。
ジーリーメディアグループの吉田皓一社長は民放テレビ局の営業だったが、メディアビジネスに興味を持ち、独学で中国語を学び、2013年に台湾・香港向けに絞り込んだ「ラーチーゴー(樂吃購)」というポータルサイトを立ち上げた。
すべてのコンテンツを現地出身の人材が作成し、ユーザー視点で情報を提供。今では月間ユニークユーザー数が70万人という台湾・香港向けでは日本観光情報で最大のサイトとなった。どのような経緯でサイトを立ち上げたのか吉田社長に聞いた(聞き手は、デロイト トーマツ ベンチャーサポート事業統括本部長、斎藤祐馬氏)
斎藤:「ラーチーゴー」という台湾・香港向けに特化した訪日観光客用の情報サイトを運営していらっしゃるわけですが、どのようなメディアなのですか。
吉田:ラーチーゴー(樂吃購)とは、遊び、食事し、ショッピングを楽しむという意味です。現在、月間のユニークユーザー数は70万人あり、そのうち台湾が7割、香港が3割です。台湾では訪日客向けサイトとしては一番多く使われています。
1982年奈良県生まれ。防衛大学校を経て慶應義塾大学経済学部卒業後、朝日放送入社。総合ビジネス局にて3年にわたってテレビCMの企画・セールスを担当したのち退職し、2013年ジーリーメディアグループを創業。HSK漢語水平考試(中国政府公認中国語試験)最高級所持
(写真:菊池一郎)
斎藤:ユーザーは中華系の人すべてが対象ではないのですか。
吉田:台湾で話されている言葉は北京語、香港人は広東語なのですが、実は使っている文字は両国とも繁体字なのです。これに対して中国大陸では簡体字を使っています。台湾・香港とは文字も文法も言い回しも異なります。
斎藤:これまで台湾・香港だけにターゲットを絞り込んだ観光サイトはなかったわけですか。
吉田:ありませんでした。訪日観光客向けの英語サイトはありますが、欧米もアジアもすべてひとまとめで、しかも大半は日本語のコンテンツを翻訳しているだけです。台湾には英語が苦手な人が多いので、あまり利用されません。私たちは十数名の現地出身のライターなどスタッフを抱え、台湾で求められる情報を現地の視点で提供しているので、台湾で支持されているのです。
斎藤:ラーチーゴーのユーザーはどのような人たちでしょうか。…
吉田:20~30代の女性が中心ですが、この層は2~3年で最も訪日数が増えています。サイトを立ち上げた2013年ごろは、台湾からの訪日客は月8万人でしたが、現在は35万~40万人と急増しています。その引き金を引いたのは、格安航空会社(LCC)の就航ですよ。これまで費用が高過ぎて諦めていた彼女たちが一気に日本に押し寄せたわけです。
そもそも台湾は人口2351万人のうち年間416万人も訪日しています。日本にとっては得意客なんですよ。これに対して中国からは年637万人来ていますが、人口比では0.4%程度。台湾の17.6%とは比較になりません(2016年度統計より)。私たちはこのお得意さんの中でも、LCCで訪日する層に絞って情報を提供しています。
斎藤:ラーチーゴーを使っているユーザーが日本で特に好きなものはありますか。
吉田:いろいろありますが、一番は薬や化粧品でしょう。台湾は薬の規制が厳しいので、安くて質のいい日本の薬を多く買っていきます。グルメも単価があまり高いものは好まれません。お酒もそれほど飲まないですね。ただ、16年からは日本酒がブームになってきました。関税のせいで台湾では日本の3倍という高値なので、日本の免税店でお土産に買って帰る人たちも多いです。後は雑貨ですね。特に文具はよく売れます。
ECの達人に備えてリアルの店舗を開店
斎藤:台湾にお店(MiCHi Cafe)もあるようですが、そこではどんな商品を売っているのですか?
吉田:サイトで人気があるものや話題を集めている商品を輸入して売っています。そもそも、サイトで紹介した商品をどこで買えるのかというユーザーからの問い合わせが多かったので、店を開きました。
EC(電子商取引)も考えたんですが、台湾には自分が日本に行く前に、直接、日本のアマゾンや楽天で買っておいて宿泊先に届けてしまうような“達人”が多いのです。そこで、リアルな店舗をアンテナショップあるいはメディア代わりに使った方が得策だと思ったのです。
店には1階と地下階があり、広さは合計40坪ほど。1階では雑貨を売り、地下はカフェやイベントスペースになっています。僕自身がそこで日本酒のセミナーを開いたり、化粧品のお試し販売をしたりしています。店の運営以外にも、台湾でテレビ番組の制作や、出版、アプリ開発なども行っています。
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台湾ではリアル店舗「MiCHi Cafe」で勝負![/caption]
斎藤:御社の主な収益源は、ラーチーゴーへの広告掲載でしょうが、どんなクライアントと取り引きがあり、どんな効果がありますか。
吉田:クライアントは飲食店、百貨店、ホテル、ドラッグストア、自治体などです。観光は間口が広いので、いろいろなお客さまがいます。これまで一番効果が上がったケースでは、京都の業務用スーパーが代表的な成功例ですね。そこは駅から少し離れていていたので、これまで訪日客があまり訪れませんでした。
本来、台湾からの訪日客はお菓子を大量に買って帰ることが多いのです。そこで、ライターがこの店を取材し、お土産用に便利な小分けになっていて配りやすいお菓子の特集をタイアップで載せたところ、1日10~20組が来るようになりました。こうしたタイアップ記事も多く、純粋な記事とは区分けして掲載しています。台湾ではあまり気にしていないようですが、メディアの信頼に関わるので注意しています。もちろん、画像や記事の剽窃(ひょうせつ/盗用のこと)は禁じ、引用も明確にするように社内のガイドラインをつくっています。
日経トップリーダー/吉村克己
※掲載している情報は、記事執筆時点(2017年2月)のものです