「電子帳簿保存法」という法律をご存じでしょうか。会計帳簿などの書類を、画像ファイルなどの電子データとして保存することを認める法律です。わざわざ紙で書類を管理しなくても、データで管理することを認めるというものです。
1998年に制定されましたが、3万円以上の領収書などはスキャナ保存(デジタルデータへ変換すること)ができないなど、使い勝手が良いものとはとてもいえませんでした。制度開始からの約10年間で、スキャナ保存制度の申請件数がわずか152件にとどまっています。
しかし、平成27年度(2015年度)の税制改正で、3万円以上の領収書などを含むすべての国税関係書類の電子保存が認められるようになりました。さらに、平成28年度(2016年度)の税制改正で、一定の国税関係書類をスマホやデジカメで撮影して電子保存できることが盛り込まれました。これらの改正により、今後は、例えば旅費・経費の領収書をスマホ撮影して出張先から経理部に送付するといったことも可能となりました。
まずは平成27年度に行われた改正です。改正前は、国税関係書類のうち契約書や領収書について、その記載金額が3万円以上のものはスキャナ保存できませんでした。
このような金額基準だと、例えば、基本的に3万円未満で収まる東京-大阪間の往復新幹線チケット代の領収書はスキャナ保存できるのに、3万円を超えることが多い羽田-福岡間の往復航空チケット代の領収書はできないという事態もありえます。こうしたことが起こるようでは経費精算のルールが複雑化して、スキャナ保存制度を導入しにくいという弊害がありました。それを改善するために、平成27年度改正で、金額にかかわらずすべての国税関係書類がスキャナ保存の対象となりました。
また、従来は書類をスキャニングする際に必要とされていた入力者などの電子署名も不要になりました。その代わり、入力者および監督者に関する情報を確認できる状態にすること、これまで必要とされていなかった一般書類も含め、すべての書類でタイムスタンプ(時刻証明)が必要という取り扱いになりました。
ただし、こうした処理をするには企業における内部統制機能を設けることが前提となっています。スキャナ保存制度を導入する際には「適正事務処理要件」というものが求められることになりました。この適正事務処理要件とは、国税関係書類の作成・受領から入力に至るまでの事務処理について(1)相互けん制(複数の人間で誤りを防ぐこと)(2)定期検査(3)再発防止に関する規定を定め、これに基づいて処理を行うことをいいます。
これら平成27年度税制改正は、平成27年9月30日以降の申請にすでに適用されています。
スマホで領収書を撮影してもOK!
翌年の平成28年度の改正では、さらに規制が緩和されました。
従来、同法における「スキャナ」とは、“原稿台と一体となったもの”という要件が付されていましたが、平成28年度税制改正ではこの要件が廃止されました。平成28年3月31日に公表された電子帳簿保存法施行規則では「原稿台と一体となったものに限る」との文言が削除されました。
さらに、「スマホ撮影」をスキャナ保存とは区別する形で整理が行われました。ただし、この場合、領収書を受領した従業員自身がスマホ撮影を行うことを想定しているため、受領者が書類に署名を行うこと、受領後3日以内にタイムスタンプを付与することが要求されるようになりました。
また、処理に関わる人数も少なくなりました。平成27年度改正では「適正事務処理要件」で要求される(1)相互けん制と(2)定期検査を満たすためには、領収書などを受け取った者、スキャニングをする者、スキャニングしたデータと原本を照合する者の最低3人の人員が必要でした。
これに対して平成28年度改正では、常時使用する従業員数が5人以下(製造業等であれば20人以下)の小規模事業者の場合、(2)定期検査を顧問税理士などに依頼すれば、(1)相互けん制が要求されないこととされたため、事業主と顧問税理士などの2人だけで要件を充足することも可能となったのです。
これら平成28年度税制改正は平成28年9月30日以降の申請に適用されます。
現実味が出てきた経理のペーパーレス化
平成27年度改正、平成28年度改正と2年連続の要件緩和により、制度利用のハードルは大きく下がったことがよく分かります。このような制度的な要件緩和とともに、スキャナ保存を技術的に後押しするITサービスも生まれています。
例えば勤怠管理および経費精算システムでは、従業員の旅費や経費の領収書をスマホで撮影し、WEB上にデータをアップロードすれば、OCR認識して日付、金額、店名などの入力を補助してくれるものがあります。
また、クラウド会計ソフトにおいても、OCR認識や自動仕訳作成はもちろん、データ化した書類へのタイムスタンプ付与、付与されたタイムスタンプの一括検証が可能となり、スキャナ保存の要件である条件検索も行えるようになっています。
これらのサービスもうまく活用しながら、社内規定の整備を進め、経理のペーパーレス化に取り組むのが秘訣といえそうです。