年末調整の業務には例年何らかの変更があり、その対応が必要となります。特に今年は、源泉徴収票や給与支払報告書へのマイナンバーの記載があるため、いつも以上に気を使う場面が多いでしょう。
2016年1月から運用されているマイナンバー制度では、さまざまな税務関連書類にマイナンバーの記載が要求されることとなりました。しかし、その運用が開始される前の2015(平成27)年中からマイナンバーを記載すべき税務関連書類の範囲については見直しが行われ、2016(平成28)年度税制改正に織り込まれることとなりました。例えば、従業員が勤務先に提出する「扶養控除等申告書」については一定の場合にマイナンバーの記載を省略できるようになっています。
このような状況では「本当は省略できるのに従業員にマイナンバーの記載を強要してしまった」というような事態が起こらないとも限りません。そこで今一度、マイナンバーの記載が必要な書類について整理しておきましょう。
従業員から会社に提出される書類のうち、マイナンバーの記載が2016年4月1日から不要になっている書類が、「給与所得者の保険料控除申告書」および「配偶者特別控除申告書」、「(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書」などです。
2017年の1月1日から記載不要になる予定なのが、「所得税の青色申告承認申請書」、「消費税簡易課税制度選択届出書」などです。これらの書類は、法人の業務ではなく、主に個人事業の場合に必要となるものですが、念のため取り上げておきます。
なお国税庁では、2017年1月1日の前においても、これらの書類についてはマイナンバーの記載がない場合でも改めて記載を求めることなく収受するという柔軟な運用になっています。
一方、2017年以降も引き続きマイナンバーが必要となる書類は、所得税、消費税、相続税などの申告書といった多くの税務関連書類です。年末調整に関連するところでは、税務署に提出する「源泉徴収票」や「支払調書」なども含まれます。
従業員が会社に提出する書類としてはこのほかに「扶養控除等(異動)申告書」などがあります。「扶養控除等(異動)申告書」などについては、原則として2017年1月1日以後もマイナンバーの記載が必要であるものの、一定の条件の下、マイナンバーの記載が省略できるという特例ができました。その条件とは、支払者が以前にこれらの書類の提出を受けて、本人や控除対象配偶者または扶養親族などに関する特定の事項を記載した「帳簿」を作成していることです。この場合、マイナンバーの記載を省略できるようになっています。
マイナンバーカードのQRコードに要注意
このように2016年の年末はマイナンバーを扱う機会が非常に多くなりますが、その扱いにはいくつか注意すべき点があります。使い方を誤ると、簡単に従業員の情報が流出してしまいます。
まず注意すべきなのが、マイナンバーカードの扱いです。マイナンバーカードが交付される際、一緒に透明のカードケースが配布されます。このカードケースに入れると、裏面のマイナンバー、臓器提供意思、性別の箇所がマスキングされ、第三者によって容易に見られないように工夫されています。
しかし、QRコードについてはマスキングされていませんので、裏面を写した画像などをWEB上にアップしてしまうと、スマホのQRコードリーダーなどで容易にマイナンバーが見られてしまいます。これに関しては、2016年6月24日付で個人情報保護委員会からの注意喚起が公表されています。またWEB上に限らず、例えば顧客の本人確認などで、マスキングしてあるからといって、不用意にマイナンバーカードをコピーしないように注意しましょう。
マイナンバーカードを申請したものの、カード発行が遅延して入手できていないという人もまだ多くいます。カードを発行する地方公共団体情報システム機構(J-LIS)の発表によると、遅延の原因はカード管理システムの中継サーバーの不具合とされています。
マイナンバーカードの申請自体も任意であるため、当分は、従業員や外注先のマイナンバー確認作業は、通知カードと他の本人確認書類で行うか、マイナンバーカード単体で行うかの併用となりそうです。特に前者の場合には本人確認作業を忘れないように注意が必要です。
9月20日にアビームコンサルティングが発表した「マイナンバー対応実態調査」では、マイナンバーの収集はほとんどの企業で終了しているものの、安全管理措置については、制度施行を乗り切るための急場しのぎの対応にとどまっているとの指摘もあります。
今回紹介した平成28年度税制改正によるマイナンバー制度の見直しや、運用開始からの状況変化を今一度確認することが、年末年始にかけて煩雑となる事務作業を万全の体制で乗り切るためのポイントといえるでしょう。
※QRコードは(株)デンソーウェーブの登録商標です