従業員が出張する際、宿泊費を定額で支給している会社は多いと思います。その場合、カプセルホテルなどの安いホテルで我慢して宿泊費を「浮かそう」と涙ぐましい努力をするビジネスパーソンもいます。また、宿泊費が実費精算の場合も、「QUOカード1000円分付き」などの宿泊プランを利用して、実質1000円を「浮かす」といった方もいるでしょう。宿泊費のほか、出張時に発生する交通費、通信費その他の諸経費をカバーする意味合いで、出張日当を支給する企業も多く見られます。
実は、出張時に定額で支給される宿泊費や日当は、会社にとって税務上の損金になると同時に、受け取る従業員にとっても源泉所得税を控除されない金銭収入となり、双方にメリットがあります。節税効果だけでなく、宿泊費や交通費などの旅費精算が簡略化できるので、会社の事務作業コストや出張した従業員の手間も減らすことができます。
こうした効果を持つ出張旅費の制度をつくるためには、いくつかのポイントがあります。それらのポイントを外すと、支給額に対して税金や社会保険料がかかってしまい、会社にとっても、従業員にとっても痛手となりかねません。
今回は、企業にも従業員にも双方が得をする出張旅費制度を導入する際のポイントと、上手な活用方法を解説します。まだ導入していない企業はもちろん、既に導入している企業も、現行の制度をよりよいものにするために確認してみてください。
宿泊費や交通費などの出張旅費を支給さえすれば、何でも所得税が非課税になるというわけではありません。非課税となる旅費は、出張に通常必要とされる費用の範囲内となる金額でなければなりません。そして、その合理的な金額基準が出張旅費規定に記載され、それに基づき役員や従業員に支給されている必要があります。
これは出張旅費が出張に対するボーナスや手当のような金品ではなく、あくまで諸経費を補填するものという考え方に基づいているからです。法的には「実費弁償」という言葉が使われますが、従業員が立て替え払いした会社の経費を、出張旅費として従業員に返還しているようなイメージです。だからこそ、出張旅費が会社にとっては経費になり、従業員にとっては源泉所得税のない収入になるのです。
非課税となる旅費に該当するかどうかの判定方法は、所得税法に関する通達に定められています。具体的には、(1)会社の役員や従業員全体を通してバランスの取れた基準で計算されているか(2)同業種、同規模の会社の従業員と比較して相当と認められるかという2点です。これらを満たすためには、適正な金額基準を出張旅費規定で定めておくことが重要です。
出張旅費の「適正な金額」とは?
それでは、適正な金額とはいったいどれくらいを指すのでしょうか。金額自体に関しては税法にも通達にも明確な定めがないので、参考となるデータを1つ紹介します。
産労総合研究所というシンクタンクが3年置きに「国内・海外出張旅費に関する調査」という統計資料を公表しています。最新版である「2015年度 国内・海外出張旅費に関する調査」によると、国内宿泊出張の「日当」は社長4,496円、部長2,809円、一般社員2,276円、「宿泊料」は社長13,372円、部長10,078円、一般社員9,088円となっています。
この数値を見て、多いと感じた人も、少ないと感じた人もいるでしょう。しかし、例えば会社の代表にだけ国内宿泊出張1日当たりの出張旅費を50,000円あるいは100,000円など高額な「渡し切り」にしている場合、上述の(1)会社の役員や従業員全体を通してバランスの取れた基準で計算されているか(2)同業種、同規模の会社の従業員と比較して相当と認められるかの2点に照らして、税務当局から不相応に高いと指摘されるリスクはあります。
海外出張の「日当」は北米の場合で部長5,827円、一般社員4,988円、中国の場合で部長5,277円、一般社員4,514円、東南アジアの場合で部長5,326円、一般社員4,567円、「宿泊料」は北米の場合で部長16,008円、一般社員14,042円,中国の場合で部長13,763円、一般社員12,070円、東南アジアで部長14,501円、一般社員12,735円となっています。
もちろん、この調査の数値が税務上の判断基準として一般的に用いられているというわけではありません。しかし、1つの目安として、また自社の出張旅費規定を作成する際の出発点として利用できるでしょう。
「出張旅費規定」の具体的なメリット
出張旅費規定において、出張の目的地、期間、出張者の職務内容、地位などに応じた適正な金額基準を定め、それに基づいて社内の出張旅費を処理している場合、具体的には次のようなメリットがあります。
まず、会社にとっては出張旅費を損金として処理することができ、これにより、法人税、法人住民税、事業税などの節税となります。また、消費税法上も課税仕入と呼ばれる扱いになり、会社が納付する消費税を減額させる効果があります。もっとも海外出張時の出張旅費は大部分が課税仕入とはなりませんので留意が必要です。
一方で、出張旅費の支給を受ける役員や従業員にとっては所得税が非課税となるほか、個人住民税や社会保険料の計算対象ともなりません。これらの扱いは「実費弁償」という考え方からすると当然のことですが、宿泊費や日当の金額基準は実費の水準より少し余裕を持たせた設定にできるため、その余裕分だけ、会社の経費を多く計上したり、従業員などへの支給を非課税扱いにしたりできる点がメリットと呼べるかも知れません。
節税効果以外にも、宿泊費や交通費などの実費精算を省略することができ、経理部署の事務作業を軽減したり、出張の多い役員や営業社員の手間を減らしたりすることにも役立ちます。
以上のように、何かとメリットが多く、出張旅費規定を作成しさえすれば、すぐにでも始められる節税策です。上記で触れたようなポイントに留意しながら制度を導入してみてください。