消費税は、売り上げや仕入れの額に8%の税率をかけるだけの簡単な税金という印象を持っている人も多いでしょう。しかし、消費税を納税する事業者にとっては、1つひとつの取引を課税、非課税、不課税、免税のような複数の区分に分類したり、最終の消費税額を算定するまでにさまざまな判定をしたりと、意外と奥が深い税金です。
会計上は「交際費」や「旅費交通費」などの科目に集計されている個々の取引も、消費税の処理上は取引ごとに異なる扱いが必要となります。ところが、会計ソフトでは科目単位ですべて同じ処理をしているケースも見られ、税務調査で思わぬ否認項目が出てくることもよくあります。
そこで今回は、会社や個人事業主が行う消費税計算の仕組みを紹介します。そして、税務調査でどのような指摘事項があるのかについても、4つの事例を交えながら解説します。
消費税は、消費一般に対して広く課税される「間接税」です。間接税という言葉は、最終的に消費税を負担する消費者の代わりに、メーカー、卸売業者、小売業者などの事業者が消費税をいったん預かって納税することを意味します。国内における商品の販売、サービスの提供、輸入貨物などを課税対象として、流通の各段階で8%(うち1.7%は地方消費税)の税率で課税されています。
例えば、卸売業者BがメーカーAから製品を税込み864円(消費税等64円)で仕入れて、これを小売業者Cに税込み1,080円(消費税等80円)で販売するとします。この場合、卸売業者Bは、小売業者Cから預かった消費税等80円から、メーカーAに支払った消費税等64円を差し引いて、差額の16円を税務申告して納付するイメージとなります。
卸売業者Bの消費税計算の対象となった小売業者Cへの売り上げは「課税売上」、メーカーAからの仕入れは「課税仕入」と呼ばれ、「課税仕入」は計算の過程で「仕入税額控除」されることになります。なお、このような原則的な計算方法以外に、課税売上高から簡便的に消費税額を計算する制度も用意されています。
消費税の納税義務は、ある条件を満たした場合に免除されます。
具体的にいえば、前々年の課税売上高が1000万円以下の場合がそうです。設立1年目、2年目の会社では、前々年の課税売上高がないため、基本的に免税事業者からのスタートとなります。このため、前々年に課税売上高が1000万円を超えていた企業が、自社が課税事業者であるとは考えずに、指摘を受けてしまったというケースもよくあります。
例えば、設立1年目の売上高が1010万円であった会社が、翌々期の税務申告を迎えるとします。課税売上高は「税抜」の金額を意味するため、売上高1010万円に税抜計算した935万円(=1010万円×100/108)を、納税義務の判定に使用してしまいがちです。
しかし、免税事業者であった期間の売上高は、もともと消費税を含んでいないものとして納税義務の判定をするのが正解です。そのため、「100/108」を乗じた方法では判定を誤ってしまいます。
よくある指摘事例(2)海外向け売り上げは消費税が免除されると思っていた
海外向けに商品を販売する場合などの輸出売り上げは、一般的に消費税が「免税」という取り扱いになります。したがって、課税仕入があれば、仕入れ先などに支払った消費税相当分が還付されることになります。これは物品の輸出に限った話でなく、海外向けのサービスの提供にも当てはまります。
ただし、当てはまらない例もあります。
外国法人Dの商品を、国内で受託販売している会社Eは、Dから受け取った販売手数料を免税売り上げとして処理していました。ところが、会社Eは税務調査において免税での処理を否認されてしまいました。
その原因は、外国法人Dが国内に支店を有していたからです。支店を有している場合にはサービスの提供は支店を経由して行われているものと認定されてしまうのです。なお、会社Eは外国法人の本社と販売委託契約を締結していましたが、それでも輸出免税とは認められませんでした。
よくある指摘事例(3)出張旅費と消費税の関係は?
会社で出張旅費規程を制定して、それに基づき旅費、宿泊費、日当を支給すれば経費として損金算入されます。
ある商社Fでは、出張旅費規程に沿って、旅費、宿泊費、日当を支給していたものの、消費税の処理としては、国内出張と海外出張を区別せず、いずれも仕入税額控除としていました。
しかし、税務調査において、海外出張にかかる旅費、宿泊費、日当は仕入税額控除できないとして、処理を否認されてしまいました。仕入税額が控除されるためには、国内での取引であることなどが必要とされるからです。
よくある指摘事例(4)海外事業者のサービスには「リバースチャージ」にご注意
企業が利用するWeb広告やクラウドサービスには、海外事業者が提供するものが多くあります。平成27年の消費税法改正で、海外事業者が一定の国内事業者向けに提供しているWebサービスでは、サービスを受けている国内事業者が消費税の納税義務を負う「リバースチャージ方式」という仕組みが導入されました。
消費税はサービス提供者が納税義務を負うのが原則ですが、海外事業者からは徴収が難しいという点を考慮し、納税義務をサービス利用者に転換した形です。このような場合、自社の利用しているサービスがリバースチャージ方式の対象であることに気付かないまま消費税の納税を怠ると税務調査での指摘事項となる可能性があります。
実は、海外事業者も国内事業者に対して自身のサービスがリバースチャージ方式の対象であることを表示する義務があります。しかし、適切に表示がされなかった場合でも、国内事業者の納税義務は免責されないので、注意が必要です。
今回紹介したものは、消費税の否認事例の中でもほんの一部にしかすぎません。まずは消費税の基本的な計算構造に触れることで、将来の消費税増税や軽減税率の導入などに対する理解も深まればと思います。