決算で大幅に利益が出て納税額が増えそうなとき、広告費や交際費を使って来期以降の売り上げ拡大につなげたり、研修旅行を企画して従業員の士気を高めたりするなど、利益を抑えながら将来に生きてくるお金の使い方を考えることは「賢い節税」といえるでしょう。
手元の資金に余裕がある時期に、事業に必要な備品を買いそろえることも節税につながる可能性があります。ただし、購入の仕方によって節税の効果は変わってきます。本記事では、備品を購入する際に気を付けるべき節税のポイントを解説したいと思います。
固定資産とされる備品の購入額は、決算書の貸借対照表にいったん資産として計上した上で、予想される使用年数(耐用年数)や計算式などによって算出された「減価償却費」が、毎年の費用に計上されます。そして税法では、この減価償却費が基本的に「損金」になるのです。つまり税金が安くなります。
一方、使用年数が1年未満などといった備品は、固定資産に組み入れられません。例えば、ボールペンや消しゴムなどの文房具のようなものは、固定資産には計上されません。そのため購入費は、減価償却費のように分割せずに「消耗品費」として全額をその年の損金に計上します。
1年間で備品購入に使える金額が決まっている場合なら、購入費を一括で損金に計上できる消耗品費となる備品を中心に購入したほうが節税となる場合もあります。また固定資産となるものを購入した場合でも、減価償却が短い期間で終了するものなら、1年ごとの損金が増えるので、結果として税金が安くなるでしょう。
このように備品購入は、固定資産と消耗品費を分ける条件や、減価償却の計算式によって損金の額が変わってくるのです。利益を抑えることも兼ねた備品購入なら、その点も考慮しましょう。
PCや机、電気製品などといった備品は、固定資産なのか消耗品なのかを判断する条件が少々複雑です。それらに関する「使用可能期間」や「取得価額」などの判断条件を紹介します。使用可能期間とは業務使用での耐用年数のことです。取得価額とは、備品の購入金額になります。
まず消耗品の条件を説明すると、「使用可能期間が1年未満」あるいは「取得価額が10万円未満」になります。取得価額は、単品の価格ではなく、1つのまとまりであるセット単位で判断されます。例えば、応接室にあるテーブルとイスはセットになった状態で使用されています。このように業務で使用する際にセット使用しているものは、取得価額も合計額となるのです。
固定資産は、「使用可能期間が1年以上」かつ「取得価額が10万円以上」となります。ですから1年以上の使用可能期間があっても、取得価額が10万円未満であれば、消耗品という扱いになります。例えばPCを購入する予算が10万円前後だった場合は、10万円未満に収めれば、全額が今年、費用として計上できる節税策になります。
ただし「取得価額の10万円以上」には注意が必要です。消費税などの会計処理方式を「税抜経理方式」としている会社では「税抜」(本体価格)で、「税込経理方式」としている会社では「税込」(本体価格+消費税)で10万円以上になるかを判定します。自社の会計処理方式が分からない場合、経理担当者や顧問税理士に確認しましょう。
固定資産として計上された場合には、減価償却する期間(耐用年数)が備品の種類ごとに定められています。それぞれの耐用年数は、財務省が定める「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」に記載されています。もし耐用年数省令に記載されていない備品だった場合は、似たようなものの年数を当てはめることになっています。
上記の省令では、「パーソナルコンピュータ(サーバー用のものを除く)」が4年、応接セットは「接客業用のもの」が5年、「その他のもの」が8年というように規定されています。また耐用年数は、取得価額の場合と同様にセット一式で当てはめていきます。
「一括償却資産」や「少額減価償却資産」で効果的に節税
前述の条件が、消耗品か固定資産の基本的な判定基準となります。しかし複数の備品費用をまとめて減価償却の期間が短縮できる特例や、10万円を超える取得価額でもその期の損金に計上できる特例があることも知っておきましょう。
例えば「一括償却資産」の制度。これは20万円未満の資産について、通常の減価償却費ではなく、複数の資産を一括して、3年間で償却できるという方法です。つまり、前述のPC購入で10万以上となっても一括償却資産を利用すれば4年間ではなく、1年短い期間で償却できます。
一括償却資産では、通常の減価償却の計算方式ではなく、「均等償却」という方式が用いられます。通常の減価償却の計算では、期の途中で取得した資産は月割り計算になります。例えば6月に購入したなら、使用した12月決算の会社であれば、6月から12月までの7カ月分の減価償却費を初年度の損金に計上します。そして5年目にも5カ月分計上します。一方、この特例では購入時期に関わらず初年度から1年分を損金に計上でき、3年間で償却できるのも魅力の1つです。
購入した年に全額を損金にできるといった劇的な効果があるわけではありませんが、耐用年数が長い固定資産なら、3年で済むという点で節税に役立つ制度といえるでしょう。
ほかには「少額減価償却資産」という制度があります。こちらは一定の要件はありますが、取得価額が30万円未満の減価償却資産については、全額を損金に算入できるというものです。ただし取得価額の合計額が300万円までという上限があります。しかし、全額が購入した年の損金になるという点では、非常に魅力的な制度といえます。
この制度を利用できるのは、青色申告の中小企業者などに限られるので注意が必要です。また少額減価償却資産は、現在のところ適用期限が、2018年3月31日までに購入して事業に使用した場合となっています。活用を考えている方は、早めに対応することをお勧めします。
12月決算の会社であれば期末が近づいた今の時期に、大幅な利益が予想される業績となっている場合は、消耗品費扱いとなる備品を購入して、利益を圧縮しようという考え方は、有効な節税の1つです。
しかし節税になるからというだけで、不要なものまで購入することは、大切な資金を無駄にしていることになります。そのような資金の使い方は、正しい経営判断をしているとはいえないでしょう。節税を考えながらも、まず本当に必要な備品であるかを検討してから購入したいものです。