業績が好調なのは喜ばしいことですが、決算での納税額が増えそうな場合、節税も考えなければなりません。企業で税務や経理を任されている人なら、そうした観点で節税の方法を模索することも多いのではないでしょうか。そんな節税の方法として、利用されているのが保険です。今回は、保険による節税を検討します。
社員旅行や備品購入による節税と比べると、保険による節税には多くのメリットがあります。社員旅行では、経費として認められる金額が社会通念上の一般的な範囲とされるため、高額なものにできません。また、使った旅費は返金されません。そして備品購入の節税は減価償却で処理するケースも多いので、単年の節税効果は小さくなります。
一方、保険には高額な商品がありますし、解約すると返戻金が戻ってきます。そして保険加入は損金として処理できるので節税効果は大きくなります。決算直前に保険へ加入して、1年間の保険料を加入時に一括で支払えば、2分の1、もしくは全額が損金に算入できます。また月払いであった保険料を、年間払いの契約に切り替えることでも、損金を増やすことが可能です。こうした点で「保険を使えば節税が可能です」と答えているのです。
節税となる保険加入における注意点と、商品の種類について解説します。保険に加入した際にポイントとなるのは、解約返戻金が年々どのように推移していくかです。解約返戻金の返戻率がどの時点でピークを迎え、ピーク時には返戻率が何%になるのかを事前に把握しておかなければなりません。
つまり、解約リスクが最も少ないピーク時のタイミングで解約するのが、ベストな活用法です。解約リスクとは、支払保険料と解約返戻金の差額のことをいいます。
解約リスクの少ない保険としてしばしば利用されるのが、解約返戻金の返戻率のピークが早めに訪れる逓増定期保険です。加入後、5年くらいで95%の返戻率になる商品もあります。ただし、保険料の2分の1しか損金にならないので注意しましょう。
損金算入の扱いが同様の保険には、長期平準定期保険や法人向けがん保険があります。しかし、解約返戻金の返戻率が短期では上がらないので、解約リスクだけ考えると、逓増定期保険より魅力が落ちてしまうという側面があります。
保険による節税の極論をいえば、利益の2倍のキャッシュを支払える状態にあれば、思い切って利益をゼロにすることもできます。日ごろから保険加入を検討しているなら、多額の黒字決算が訪れた年には、節税を兼ねて実行するチャンスといえます。また節税効果を大きくしたいと考えているなら、保険料全額が損金算入できる定期保険がよいでしょう。
保険のメリットである解約返戻金には、節税効果の副産物として、簿外資産になることも挙げられます。資金繰りのために金融機関などから借り入れしなくても、保険を解約すれば資金を調達できるのです。これは企業にとって強みになります。
また、保険には貸付制度が付属されている場合がほとんどですから、保険会社から融資を受けることもできます。企業がいざというときに、資金調達できる手段の確保も兼ねているという点でも保険加入は魅力的です。
いざというときを考えると、取引先の倒産による連鎖倒産を防止するためにつくられた経営セーフティ共済という商品も検討すべきものです。掛け金は全額損金算入できて、取引先が倒産した場合に、被害額と総額の10倍相当額のいずれか少ない額を借り入れすることができます。解約手当金は、40カ月以上納めていれば掛け金の全額が戻ることも魅力であり、中小企業のための共済制度のような存在です。
保険金・解約返戻金の課税を下げる
ただ、保険金や解約返戻金などを受け取った場合は、課税対象になることも覚えておきましょう。課税対象とされるなら、当該決算の利益が圧縮される分と、将来課税される分をトータルすれば、納税額はそれほど変わらないのではないかという懸念もあるでしょう。
しかし、解約返戻金を受け取ったときに税額を増やさない方法があります。つまり、赤字の出た事業年度の補填に使ったり、利益が少なかったときに受け取ったりするのです。例えば、多額の退職金の支払いがある年度に合わせるなど、会社に支出の大小を考えて解約するのがベターでしょう。
節税対策として保険を活用するのは一般的な手段の1つです。損金となる保険料と解約返戻金を比較して、効果を最大限に引き出しましょう。そのためには保険の加入に当たって解約返戻金が加入期間に応じてどのように変わるかを把握しておくことが重要なポイントです。今期の節税だけでなく、その先も考えて保険商品の内容や解約の時期を吟味しましょう。