国税庁が発表した「平成28年度におけるe-Taxの利用状況等について」によると、2017年度の法人税申告におけるe-Taxの利用割合は79.3%、利用件数は208万5431件に上りました。企業における電子申告の普及率としてはかなりのものです。法人税だけではなく、消費税申告の利用割合も77.3%になっています。
e-Taxの普及率を大幅に高めた要因の1つに、税理士による代理送信が認められたことがあります。税理士事務所で作成した申告書類のデータを、企業のPCに持ち込む、送信するなどの作業が軽減されただけでなく、機密文書である確定申告書を社外に持ち出すリスクがなくなった点でも、企業にも大きなメリットがもたらされていることも見逃せないでしょう。e-Tax以前は、申告書の提出を郵送で行っていた企業には、郵送料の節減という利点もあります。
しかしe-Taxの普及に関して問題となっているのは、切り替えに踏み切れない企業が中小企業だけでなく大企業にも少なくないという事実です。その理由としては、採用している会計システムや決裁システムによっては、紙で申告書を提出したほうがスムーズに事務が行える企業が、いまだに多いことがネックになっています。
そんな中、2017年6月に多くの企業にとって大きな分岐点が訪れました。財務省が発表した行政手続コスト削減のための基本計画で、法人税や消費税の電子申告利用率の目標を設定したのです。その中で注目すべきは、資本金が1億円以上の大企業はe-Taxの利用率100%、中小法人では利用率85%という目標値が設定され、さらにこの方針を受けて2020年度からは大企業に電子申告の義務化を課す税制改正が行われる見通しとなりました。
これまで資本金が1億円以上の企業では、利用率が52.1%と低かったことへのテコ入れするようなかたちで、税制改正が行われるのです。また、この計画では、中小法人にも義務化の実現が将来のビジョンとして盛り込まれています。
企業の規模にかかわらず義務化となれば、e-Taxに対応する経理・会計システムや、印鑑に代わる電子署名に対応した決裁システムといった開発に、新たな費用や手間が生じるという痛手を負うことになるかもしれません。しかし、これを機に、紙ベースとなっている社内システムを大幅に改革するチャンスと捉えることもできます。決算業務に関する事務作業の軽減を望んでいた担当者たちにとっては、喜ばれるかもしれません。
大企業の担当者ばかりでなく中小企業や個人事業者でも、e-Taxのメリットは大きいと思われます。申告に必要な書類を税理士に送信すれば、申告までを代行してくれるので、担当者の作業を軽減するなどの効果が期待できるのです。
デジタルファーストの波は行政だけでなく企業も
また現行のe-Taxによる納税では、ダイレクト納付とインターネットバンキングによる2つの方式があります。利用前に税務署へ所要の手続きが必要ですが、社内や自宅から納税の手続きが行えるので、税務署や金融機関で手続きや作業が削減されます。特に、企業は毎月のようにさまざまな納税を行っていますので、その効果も大きいでしょう。またダイレクト納付では、税理士が代行して行えるという利点もあります。さらに17年からは、クレジットカードを利用した納税も可能となっています。
政府の政策会議で、行政のあり方をデジタル前提で見直している「デジタル・ガバメント実行計画」に、「デジタルファースト」という言葉が登場します。行政手続のIT化の原則の1つとして、個々の手続きが一貫してデジタルで完結することを意味しています。このような実行計画が定められたことにより、行政手続きの電子化という流れは今後促進されるでしょう。
e-Taxも行政手続きの1つであり、デジタルファーストの対象です。その点で全企業への義務化という法改正は、それほど遠い将来ではないでしょう。企業側にも人件費や事務作業などのコスト削減というメリットはあります。その効果が表れるまでは少し時間がかかるかもしれませんが……。義務化当初は事務作業の削減効果が出て、その後に事務作業に要した時間の削減が効果へとつながってくることで、そのメリットを実感できると思われます。
昔は自由化や国際化などを政策に掲げていましたが、昨今は、さまざまな分野でITやデジタルが主流になっているのです。