企業が販売を目的として保有する商品・原材料・製品・半製品・仕掛品などの在庫は、期末に棚卸しで集計されます。こうした在庫は帳簿上では「期末在庫」となり、売上原価を算定する上では、費用である売上原価を減らすものとして扱われます。したがって、在庫が増加すると、費用が減り利益が増えるため、課税額が大きくなってしまいます。
こうした在庫を減らして、課税額を減らすためには、損金が生じても値引きして販売する、社員へ割引をして販売する、廃棄処分して損金に算入するなどといった対策があります。こうした対策をすれば課税額が少なくなりますが、その際には適正な方法をとらないと脱税行為と見なされ税務当局とトラブルになることもあります。本記事では、税務調査でトラブルを避けて、棚卸し資産を減らすポイントと注意点について解説します。
前述の通り、商品などの在庫は期末に評価され、棚卸し資産の項目に入ります。企業にとって在庫を持つことは、商品が売れ残って利益を得られなかった状態です。適正レベルを超えて在庫が膨れ上がると、投下資本の回転が悪くなる、在庫管理にかかる経費が増える、課税されるなど、企業経営を圧迫する悩みのタネが増えるばかりです。
家庭において「もったいない」「まだ使える」といった理由でモノが増えていくことを防ぐために、「断・捨・離」を心がけることが推奨されることがあります。企業にとっても、在庫を整理して適正に保つことは非常に重要なことといえます。
適正に保つ理由は、売り上げが同じでも、期末在庫の多寡によって利益が変わるからです。簡易な例で考えてみましょう。ある期の決算が売り上げ:1000、期首在庫:100、仕入れ:800、期末在庫:300、販売管理費:100とします。この場合の売上原価を計算してみましょう。売上原価とは、売り上げた商品の原価のことで、期首在庫+仕入れ-期末在庫=売上原価という式で求めます
例に当てはめると、100+800-300=600です。売上原価は費用ですから、全体の利益を算出すると、売り上げ:1000-600(売上原価)-100(販売管理費)=300となり、この300に税率をかけて、課税額が決まります。
次に期末在庫のみを200に減らした場合を計算してみましょう。売上原価は、100+800-200=700となり、全体の利益は、売り上げ:1000-700(売上原価)-100(販売管理費)=200となります。期末在庫を減らしたことにより、利益は先ほどの300から200になり、同じ売り上げでも課税額が減るのです。
在庫を整理する具体的な対策の1つが、損失の発生を覚悟しても値引き販売をすることです。これによって資金(現金)として回収できることは、資金繰りの面でもプラスに働きます。価値の下がった不良在庫を抱えて棚卸し資産としておくより健全な方法といえるでしょう。
この方法は実際に販売するという行為を伴うため、税務調査のトラブルが少ない方法といえます。その際には値引き販売を行ったことの証拠として、売上伝票などの書類を保管しておくことがポイントです。
ただし値引き販売は、商品イメージの低下や、通常価格での買い控えを誘引するなどの面で、販売戦略上はあまり好ましいものとはいえません。そうした危惧がある場合、一般消費者向けでなく、社員向けに割引をして販売する方法も考えられます。
ただし、社員への割引販売は、社員への現物給与と見なされると、現金支給の給与と同等の扱いとなり源泉所得税が課税されてしまいます。現物給与以外とするためには、販売価格が仕入価格以上、かつ通常販売価格の70%以上であることなどの要件を満たさなければなりませんから注意しましょう。
税務調査を意識するなら評価損ではなく廃棄損
棚卸し資産に関して他に考えられる税金対策としては、商品の帳簿上の価格と時価を比較した差額を評価損とする方法があります。評価損が利益を減少させるので税金は少なくなります。このように評価損を計上する場合、時価を算定した根拠など明確にできないと税務調査で問題となるケースもあるから注意が必要です。
評価損の計上よりも税務調査で問題となることが少ないのが、実際に廃棄して廃棄損を計上することです。廃棄損を計上する際の注意点としては、廃棄処分を決定した証拠を残す必要があります。
具体的には、議事録などの決裁文書を作成しておく、廃棄業者が引き取ったという証拠となる書類を取得・保管することなどです。さらに、在庫を決算日までには必ず廃棄業者に引き渡さなければならない点にも注意しましょう。
在庫は、将来、売り上げれば利益を生む半面、棚卸し資産に算入され課税される対象でもあります。正常に販売できない不良在庫を抱え続けることは経営上、得策とはいえません。値引き販売や廃棄を行うことによって、税金を減らせるだけでなく保管などの管理コストの削減といったメリットも期待できます。一度、自社の棚卸し資産の内容を見直してみてはいかがでしょうか。