現状では経理業務に関して、パソコンに会計ソフトをインストールして行っている会社が少なくありません。一方、最近増加しているのが「クラウド会計システム」の導入です。クラウド会計システムとは、会計ソフトをパソコン端末にインストールするのではなく、インターネットを介してクラウド上にある会計ソフトやデータベースなどのシステムを利用するサービスです。今回はそのメリットと注意点を解説します。
まず、従来のパソコンインストールタイプと比較した主なメリットを整理しましょう。
(1)パソコンインストールタイプの会計ソフトで必要だったバージョンアップの手間が軽減できる。
(2)パソコンインストールタイプの会計ソフトで必要だったデータのバックアップ作業の手間が軽減できる。
(3)インターネットを介して、銀行口座やクレジットカード利用明細などのデータを自動で取得し、連携できる。
(4)人工知能(以下、AI)の進化によって、自動仕訳機能などが強化され、経理作業の省力化につながる。
非常に分かりやすいメリットが(1)と(2)です。会計ソフトは法律改正に対応するバージョンアップが欠かせません。また、パソコンのトラブルなどを考えると、データのバックアップも不可欠です。こうした経理業務以外の面で、保守・管理という作業が発生します。
もしバージョンアップを怠ると、財務諸表が不正確になったり、税務申告に間違いが生じたりする可能性もあります。データのバックアップを適切に行っておらず、データが喪失した場合、事業に悪影響を与えます。
クラウド会計システムを導入すれば、こうした面倒な保守・管理の手間をアウトソーシングすることができます。法律改正に対応するバージョンアップはもちろん、導入した会社が入力した会計データのバックアップなどもサービスベンダー側が対応します。
(3)と(4)は経理業務の省力化が見込まれるメリットです。特に(4)については、今後非常に注目すべき点ですから詳しく説明しましょう。
経理業務の省力化こそ最大のメリット…
近年では働き方改革により、長時間労働などの課題改善に試行錯誤している企業も多いでしょう。同時に、さまざまな業界において慢性的な人手不足が続いています。そのような状況で、経理業務に期待されているのは、AIを取り入れたクラウド会計システムによる省力化なのです。
経理や事務などの仕訳や入力といったルーティンワークは、AIの進化によって将来代替される仕事といわれています。従来の会計ソフトを利用した経理業務は、事務員が預金通帳や請求書、領収書などの伝票や帳票をチェックして勘定科目を仕訳し、パソコンで入力し、試算表や決算書を完成させるというのが基本的なワークフローでした。
一方クラウド会計システムでは、データの取り扱いがパソコン上ではなく、インターネット上のシステムで行われます。そして、従来の会計ソフトでも一部備えていた自動仕訳機能が、AIの活用などで強化されつつあります。AIを使ったクラウド会計システム導入の大きなメリットは、これまで人が行っていた作業をプログラムが自動で行ってくれることだといえるでしょう。
例えば銀行口座の入出金は、経理担当者が通帳の記載事項などから判断して仕訳し、会計ソフトへ項目ごとに入力するのが一般的でした。ところがAIを搭載したクラウド会計システムを導入した場合、インターネットを介して銀行口座の情報を入手して、仕訳・入力を判断する機能を備えているケースが多く、しかもその判断の精度がAIを活用することによって非常に向上していくと見られています。
さらにクラウド会計システムと請求書作成システムを連携させて、請求書発行後の支払・売上管理を自動で行ったり、POSレジシステムとの連携で売上管理などを行ったりできるサービスも登場しています。
このようにさまざまな業務システムとの連携が進めば、今までは経理担当者のマンパワーに頼っていた経営データの作成時間が短縮でき、かなりリアルタイムで把握可能になります。しかも、インターネットを通じて、どこでもいつでも確認できるようになります。それは経営判断のスピードアップに役立ちます。クラウド会計システム導入の効果は経理分野以外に広がるのです。
AI×クラウド会計システム導入で失敗する原因
最近はクラウド会計システムの導入に際して、AIに学習させるために、それまでの仕訳ルールの一貫性を改めて見直すことなどが求められるようです。仕訳の種類が多い企業の場合、膨大な時間と労力がかかる可能性があることをあらかじめ認識しておかなければなりません。こうした準備が必要なことから、クラウド会計システムへの移行は、ある程度、時間に余裕を見て実行すべきでしょう。
事前の準備が不十分だと自動仕訳の機能が力を発揮せず、確認や訂正に人手と時間がかかってしまいます。結局はクラウド会計システムの導入が頓挫することにもなりかねません。予防策としては初期の導入フェーズに時間をかけて、例えば、取引先名から勘定科目を予測登録する機能の追加や、消費税区分などの細かい項目を事前に設定しておくといったことが考えられます。さらに、自社の会計に関与している外部の税理士としっかり連携して、慎重に導入を進めましょう。
クラウド会計システムを導入すれば、業務の効率化が期待できるのは前述した通りです。それにより事務員の作業量が減少すれば、別の作業に人力を充てることが可能となり、人手が不足している部署への救済となるかもしれません。
社内の限られたマンパワーを、経理やそのチェック作業といった「数字(経営データ)をつくる作業」のためだけではなく、営業や生産の現場や、「数字(経営データ)で見て業績を上げる判断をすること」に割くことができるのも大きなメリットです。今後、AIによるクラウド会計システムと周辺システムへの連携が行われれば、経理を中心にルーティンワークがさらに省力化されることが考えられます。そこで生まれたマンパワーをどのように生かすか、経営者の手腕次第です。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2018年6月8日)のものです