前回は、2019年10月に見込まれている消費税引き上げと、それに伴って知っておくべき軽減税率、インボイス制度の概要とスケジュールについて説明しました。今回は、さらに具体的に、軽減税率の対象品目を説明した上で、対象品目を取り扱う事業者はどんな影響を受け、どんな対策が必要になるのかということを解説します。
対策に関しては、複数税率に対応するための設備投資や改修費の支出が生じる場合に有効となる軽減税率対策補助金や、軽減税率対応に活用すべき税制措置や融資についても触れます。
軽減税率の対象品目と取り扱い事業者への影響
軽減税率が適用される対象品目は、大きく分けると2種類あります。
1つ目は飲食料品です。軽減税率が適用される対象品目は「食品表示法2条1項に規定する食品(酒税法に規定する種類を除く)」と定められており、一定の要件を満たす一体資産も対象となります。一方、酒類や医薬品・医薬部外品・再生医療等製品は含まれず、外食は対象ではありません。
「一体資産」とは、おもちゃ付きのお菓子のように食品と食品以外のものを一体化し、セット商品として販売者が値を付けた商品です。そのうち、消費税を抜いた対価の額が1万円以下で、一体資産に含まれる食品部分の価格が全体の2/3以上であれば軽減税率の対象となります。
外食は対象ではないと説明しましたが、飲食店営業などの事業を営む場合でも、提供形態によっては軽減税率の対象になります。飲食料品を、テークアウトや出前、宅配などで提供するケースは対象になり、テーブル、椅子、カウンターなどの飲食設備が置かれている場所において、飲食料品を飲食させる役務提供が除外されます。
2つ目の軽減税率対象品目は新聞です。定期購読契約に基づいて週2回以上発行される宅配新聞(スポーツ新聞や業界紙、英字新聞も含む)が対象となります。
予定されている消費税の改正では、10%への引き上げ、軽減税率の導入、区分請求書など保存方式から適格請求書等保存方式への移行というさまざまな大きな変革を伴います。そのため経理にもさまざまな影響が及びます。
特に軽減税率の対象品目を取り扱う事業者は、複数税率に区分する必要があります。請求書などには軽減税率対象品目である旨や、税率ごとに区分した価格表示などの項目を記載するといった手間が増えます。このような影響に備え、現在使用している設備の入れ替えなどで新たな設備投資が必要になるケースもあるでしょう。
そのような軽減税率に対応するための支出を補助する目的で、「軽減税率対策補助金」という中小企業・小規模事業者などが対象の制度が設けられています。これは新しい設備を導入する経費の一部を補助してくれる制度ですが、その他にも税務面のメリットを享受できる損金算入や税額控除などの税務措置、軽減税率対応なら低金利となる融資などがありますからチェックしておきましょう。
中小企業・小規模事業社向けの軽減税率対策制度…
軽減税率対策補助金とは、中小企業・小規模事業者などを対象に、軽減税率に対応するレジの導入・改修や、受発注システムの改修・入れ替えにかかる費用の一部を補助する制度です。事業者が、将来にわたって継続的に軽減税率対象商品の販売を行えるようにすることが目的の制度です。業種ごとに従業員数・資本金などで制限を設けているため、申請前に対象事業者であるかを調べる必要があります。
軽減税率対策補助金の対象となる費用は、大きく分けてA型とB型の2つがあります。A型はレジの導入・改修などを行う事業者が対象で、B型は受発注システムの改修・入れ替えなどを行う事業者が対象です。
A型の場合は、さらに4つの型に分かれています。A-1型はレジ導入費用、A-2型はレジ改修費用、A-3型はモバイルPOSレジシステム導入費用、A-4型はPOSレジシステム導入費用と、導入する機器や、導入か改修によって分類されています。
これらA型の申請期限は、2019年12月16日までです。さらに2016年3月29日から2019年9月30日までの間に導入または改修が完了したものという条件もあります。
B型も、2つの型に分かれています。B-1型がシステムベンダーなどに発注して受発注システムの改修・入れ替えをする場合の費用、B-2型は事業者自らがパッケージ製品・サービスなどを購入して改修・入れ替えをする場合の費用を補助する制度です。アウトソーシングか自己導入かによって分類されています。
B型の申請期限は1型、2型で異なります。B-1型の場合、補助金の申請期限は2段階あります。着手前の交付申請が2019年6月28日まで、回収などの完了後に行う事業完了報告が2019年12月16日までです。B-2型はA型と同様に2019年12月16日までに申請する必要があります。補助対象は2019年9月30日までの間に導入または改修が完了したものです。
全般向けの各種税制措置と融資の活用
軽減税率制度の実施された場合に影響を受けるのは、対象品目を取り扱う事業者だけではありません。例えば、業務上、飲食店で打ち合わせをして食事したケースと、会議などで宅配弁当を手配して食事したケースが両方あるとします。この場合、を区分する会計処理が必要になります。つまり、すべての事業者が、消費税改正に伴って経理を見直す必要がでてきます。
見直すといっても、一般的には業務が増える方向になりますから、人員増などによって支出が増える可能性があります。そうした支出を軽減するために中小規模事業者が活用を検討したい税制措置を紹介しましょう。
まずは「中小企業経営強化税制」。経営力向上計画を作成し認定を受けるなどの要件を満たすことで、設備取得費用の即時償却、または10%の税額控除が適用できる制度です。税額控除を受ければ、設備投資をした事業年度の法人税を軽減する効果があります。
「固定資産税の特例」も有効です。経営力向上設備を取得した場合、当該設備にかかる固定資産税の課税標準を3年間、1/2に軽減するという特例で適用されれば、3年間措置を受けられます。ただし、それらの対象は、中小企業等経営強化法の認定を受ける、青色申告書を提出するなどの条件があります。こうした税制措置などが、中小企業庁が作成した『消費税軽減税率まるわかりBOOK』に列挙されていますから参考にしてください。
軽減税率対応による設備導入に対しては、低金利な融資もあります。日本政策金融公庫の「IT活用促進資金」です。ITを活用した設備投資の資金を支援するものですが、一定の要件を満たすことで、軽減税率対応を目的とした融資を受けられます。
会計マニュアルの準備と、設備投資の税務処理
補助金などを受けて新たなレジの導入やシステムの改修となれば、会計処理にも大きな影響を及ぼすため、事前に経営者は担当者と共に会計・経理マニュアルの大幅な改定が必要となります。事務処理の複雑化を避けるためにも、販売管理の視点だけではなく、売上計上や在庫管理、日々の帳票類の作成がスムーズに行われるシステムであるかといった視点を持ち、現在使用している会計ソフト、税務ソフトとの連動も検証することがポイントです。
同時に、そういったシステムを取り扱う担当者やレジ、顧客対応に携わる担当者に向け、新たな消費税制度の周知、業務内容の変更点がもたらす問題点の洗い出しと対応策の協議も必要です。例えば、飲食店業のレジ担当者などは、顧客を目の前に、軽減税率対象品目に該当する外食サービスか、該当しないテークアウトといった判断が必要となることから、これまでにはなかった税率や支払額に関する質問やクレームへの対応などの研修も必要かもしれません。
また、軽減税率に対応するための設備導入・改修による支出については、修繕費として経費計上できるのか、資本的支出として減価償却が必要なのかをはっきりとさせておくことも重要です。
国税庁が「消費税の軽減税率制度の実施に伴うシステム修正費用の取扱いについて」として、修繕費と資本的支出の考え方を示しています。
設備導入・改修の内容が消費税法改正による軽減税率制度の実施に対してなされているものに限定されていれば、修繕費として経費計上することができます。しかし、ソフトウエアの機能の追加、機能の向上などに該当する場合には、資本的支出として資産計上することになり、支出した事業年度だけではなく、それ以後の事業年度の法人税額にも影響が生じます。
消費税が改正された場合に実務の混乱をどのように回避していくかは、事業者の大きな課題です。さらに大きく考えれば消費税改正が、商品やサービスの提供価格に影響を及ぼしたり、景気に影響を与えたりしてビジネスそのものが大きく変わる可能性すらあります。中小企業にとって消費税改正は生き残りをかけたターニングポイントになりかねません。社会の変化に的確に対応するためには、経理などの内部体制をいち早く整備しておくことが必要不可欠です。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2018年8月27日)のものです