2018年12月21日に政府が閣議決定した「平成31年度税制改正の大綱」は、2019年1月から始まった国会に改正案として提出されました。大綱・改正案には、中小企業者等(※)に対する措置として、法人税の軽減税率の特例適用期限を2年間延長することだけでなく、設備投資税制の延長や拡充も盛り込まれています。国会で承認を得ることができれば、現行の設備投資に関する税制が2021年3月31日まで延長されます。
経営者は、どのような設備投資を行った場合、どのような税制の適用を受けるのか、適用を受けるためにはどのような手続きが必要なのかということについての情報を確認した上で、経営戦略を立案する必要があります。中小企業者等の設備投資税制を解説しましょう。
中小企業者等の設備投資を支援するための税制措置として、「中小企業投資促進税制」「中小企業経営強化税制」「商業・サービス業・農林水産業活性化税制」があります。これらの税制は、中小企業者等が一定の設備を取得して指定事業へ使用した場合に、普通償却に上乗せできる特別償却や即時償却、または税額控除のいずれかの適用を受けられるものです。この3つの税制には、適用となる対象設備の種類や指定事業といった内容についての大きな違いはありませんが、適用を受けるための手続きが異なっています。
中小企業投資促進税制は、中小企業者等が指定期間内に一定の設備を取得して、指定事業に使用した場合に、取得価額の30%の特別償却、または法人税額の20%を限度とする取得価額の7%の税額控除のいずれかを選択して適用できる制度です。ただし、7%の税額控除は資本金などが3000万円以下の法人に限られます。
この制度が他の2つと異なる点は、設備投資を行う前に主務大臣からの認定や、一定の機関から経営改善のアドバイスなどを受ける必要がない点です。確定申告時に一定の書類を作成して添付することで適用を受けることができるので、使い勝手のいい制度だといえるでしょう。大綱には、この制度の適用期限を2年延長することが盛り込まれています。対象となる設備が下記のものです。
2つ目の中小企業経営強化税制は、中小企業等経営強化法に基づく経営力向上計画の認定を受けた中小企業者等が、指定期間内に一定の設備を取得して指定事業に使用した場合に、即時償却、または取得価額の10%(資本金3000万円超で1億円以下の企業は7%)の税額控除のいずれかを選択して適用できる制度です。
この制度は、設備投資で何を向上・強化させるかによって、手続きに必要な書類が異なります。生産性を向上させる目的で行う場合と、収益力を強化する目的で行う場合、と2つに分けられ、前者を「生産性向上設備(A類型)」、後者を「収益力強化設備(B類型)」と呼びます。
A類型の要件が、生産性が年平均1%以上改善するもの。B類型の要件が、投資利益率が平均5%以上の投資計画に係るものとなっています。A類型、B類型共に適用を受けるには、経営力向上計画を策定し、事業を所管する主務大臣の認定を取得する必要があります。
中小企業経営強化税制は、事業に使用した初年度に残存価額1円を残して設備投資をした全額を損金に算入できます(即時償却)。ただし制度の適用を受けるためには経営力向上計画の策定などの手続きが必要です。
対象となる設備は、以下の通りです。A類型には販売開始後の経過期間要件がありますが、B類型にはこの規定はありません。
<対象設備>
・機械装置(1台160万円以上):10年以内
・測定工具及び検査工具(1台30万円以上):5年以内
・器具備品(1台30万円以上):6年以内
・建物附属設備(60万円以上):14年以内
・ソフトウェア(70万円以上):5年以内
大綱は、休憩室などに設置される冷暖房設備や、作業場などに設置されるテレワーク用PCも設備投資の対象であることを明確化しています。利用可能な企業も多いのではないでしょうか。これについても適用期限を2年延長するとされています。
同制度の指定事業等を含む詳しい内容については、国税庁のウェブサイト、手続きについては下記の中小企業庁のパンフレットをご確認ください。
・A類型についての手続き
・B類型についての手続き
3つ目の商業・サービス業・農林水産業活性化税制は、認定経営革新等支援機関などによる経営改善のアドバイスを受けた中小企業者等が、指定期間内に一定の設備を取得して指定事業に使用した場合に、取得価額の30%の特別償却、または7%の税額控除のいずれかの適用を受けることができるものです。
<対象設備>
・建物附属設備(1台の取得価額が60万円以上)
・器具及び備品(1台または1基の取得価額が30万円以上)
この税制に関して大綱では、設備投資経営改善計画により売上高または営業利益率が年2%以上向上する見込みについて、認定経営革新等支援機関などの確認を受けることという要件を新たに加えた上で、その適用期限を2年延長することを示しています。この要件は2019年4月1日以後に取得をする設備について適用されますが、経過措置として、同日前に交付を受けた経営改善のアドバイスなどの書類に係る設備のうち、2019年9月30日までに取得したものは、この確認を受けることを不要としています。
指定事業等を含む詳しい内容については、国税庁のウェブサイトをご確認ください。
災害対策投資の促進税制を新たに創設
近年は自然災害が頻発しているため、企業にとっては事前対策の強化が喫緊の課題となっています。そのため、政府は中小企業防災・減災投資促進税制の創設を大綱に盛り込みました。
大綱は、災害への事前対策を強化するための設備投資を促進する措置として「中小企業防災・減災投資促進税制」を新たに創設するとしています。この制度は、中小企業等経営強化法における事業継続強化計画(仮称)について経済産業大臣により認定を受けた中小企業者等が、防災・減災設備を取得して事業に使用した場合に、取得価額の20%の特別償却ができるものです。
<対象設備>
・機械装置(100万円以上):自家発電機、排水ポンプなど
・器具備品(30万円以上):制震・免震ラック、衛星電話など
・建物附属設備(60万円以上):止水板、防火シャッター、排煙設備など
みなし大企業の範囲(判定)の見直し
税制で企業規模を判定する条件は、判定を行う法人の資本金とその法人の株式などを保有する法人の資本金などがあります。判定を行う法人の資本金が1億円以下だと中小企業に該当することになりますが、その発行済み株式などの1/2以上を同一の大規模法人に保有されている場合や、発行済み株式などの2/3以上を複数の大規模法人に保有されている場合は、資本金が1億円以下でも大企業と見なされます(=みなし大企業)。そのため現行の税制では、こうした中小企業は設備投資税制の適用を受けることができません(※参照)。
そこで大綱では、中小機構出資の中小企業等経営強化法に基づく認定を受けた事業承継ファンドから出資を受けた中小企業に対する特例として、中小機構の出資分を大規模法人保有分と評価しないという措置を設けました。この改正案が国会で可決されれば、該当する中小企業が事業承継に向けて設備投資を行った場合には、中小企業の設備投資税制の適用が可能となります。
一方で大綱では、大規模法人の100%子会社や、グループ内の複数の大規模法人に発行済み株式などを全て保有されている企業は、大規模法人へ加えられることになっています。これにより大企業と見なされた中小企業は、設備投資税制の適用を受けることができなくなる予定です。これには大規模法人の傘下にある中小企業への支援を減らして、前述したような認定を受けた事業承継ファンドから出資を受けて、事業承継などを行う中小企業者等を支援していこうとする政府の意気込みを反映したものになっています。
また平成29(2017)年度の税制改正で加わった規定で、2019年4月1日以後に開始する事業年度から、その事業年度開始以前3年間における平均所得が15億円を超える中小企業者については、設備投資税制の適用を受けることができなくなるという規定もありますので注意しましょう。
設備投資税制の措置は税制改正で延長されていくことが多いのですが、適用要件が変わることがあります。改正前は対象だったものが対象外になったり、売上向上率といった要件が加わったりするなど厳しくなる場合も、緩和される場合も考えられます。設備投資を検討しているなら、税制措置の要件や期限を把握しておき、良いタイミングで実行しましょう。
※掲載している情報は、2019年1月31日のものです