令和元年10月1日より消費税率が10%に変更されます。単に消費税率が2%アップするだけでなく、複数税率となる軽減税率制度が導入されます。本連載でも軽減税率制度については何度か紹介してきましたが、目前に迫った軽減税率制度への対応をスムーズに行うため、9月30日までに準備しておくべきことと、10月1日から実施すべきことについておさらいをします。
消費税アップにより新たに発生する仕事の洗い出し
・取り扱う商品の適用税率を確認
まずは自社が取り扱う商品に軽減税率の対象品目があるかを確認しましょう。販売する商品だけでなく、贈答用の飲食料品や社内で提供するお茶菓子といったものについても軽減税率制度が適用されます。それらは納税額の計算に影響するため、すべての企業が行っておくべきことになります。
・飲食料品を扱う場合は「外食」の条件を確認
飲食料品では同じ商品でも、店内飲食か、持ち帰り(テークアウト)かで税率が変わります。例えば、弁当を店内のイートインスペースなどで食べれば、「外食」と見なされ標準税率(10%)が適用されます。店外で食べる「持ち帰り」なら軽減税率(8%)となっています。店内に飲食設備(イスやテーブルなど)を備えている場合は、同じ商品でも税率が変わることを覚えておきましょう。
・社内体制の整備
10月1日以降にお客さまから適用税率について問い合わせに回答できるよう、従業員の教育・研修を行います。内容は、対象品目や外食・持ち帰りごとの軽減税率制度や、それに伴うレジ操作などになります。レジの機能や操作の変更などについては、メーカーなどに確認しておきましょう。
軽減税率制度に対応した値札・POPの準備、商品メニュー表・カタログにある価格表示の準備も必要です。価格表示の原則は、税込みの総額表示方式が義務付けられていますが、「本体価格+税」などの表示も一部で認められています。
・請求・支払いや申告に関する事項
自社の経理システムや会計ソフトの軽減税率制度対応を確認しておきましょう。また標準税率(10%)が適用される品目でも、請求・契約の時期によって適用税率が変わります。例えば、9月に請求され、10月に入金する場合は、旧税率(8%)が適用されます。
複数税率が導入された10月1日からの業務…
・毎日の仕事がこう変わる
日々の値付けや仕入れでは、取り扱う商品の税率を確認し、仕入れたものの原価と適用税率を踏まえて対応しましょう。まずは仕入れたものの適用税率を把握するために、納品書・請求書などに記載されている税率を確認します。もし仕入れたものの税率が不明の場合には、仕入れ先に確認し、軽減税率適用の品目については、その旨を自社で請求書などに記載しておきます。その請求書などに基づいて、標準税率(10%)と軽減税率(8%)に分けて記帳を行います。
・販売
取り扱う商品の適用税率を把握し、請求書、領収書に軽減税率の対象品目である旨の記載と、税率ごとに合計した対価の額を記載した区分記載請求書などの保存方式に対応したものを作成します。また自社が消費税免税事業者でも、取引先から区分記載請求書などの保存方式に対応したものを求められる場合が考えられます。軽減税率のみを取り扱っているようなケースでも、レシートなどに軽減税率適用の旨を記載する必要がありますので対応が必要となります。販売した商品について、標準税率と軽減税率に分けて記帳します。
特に締め日が月末以外の場合、10月最初の請求書には軽減税率制度導入前と導入後が混在した請求書を作成するケースがあるので注意が必要です。例えば15日締めの取引先は、9月16日から30日の取引分については旧税率となり、10月1日から15日の取引分は新税率になります。つまり同じ商品でも税率が変わることや、軽減税率の仕分けも加わることになりますので、注意して請求書を作成しましょう。
・支払い
仕入れ先ごとに納品書と請求書の各品目の税率、請求金額に誤りがないかを確認し、受け取った請求書などを保存します。
・消費税の申告に備えて
複数税率となるので、適用税率ごとに区分して記帳した帳簿が必要となります。税申告に備えて、適正な処理を10月1日から行いましょう。
売掛金の値引きがあった場合
取引先によっては、一定量の販売をした場合、振込手数料を売掛金から差し引いて振り込んでくるケースがあります。これらは、原則として値引きなどとして会計処理します。したがって、軽減税率制度が実施されてしばらくは、旧税率分か軽減税率分か、標準税率分の値引きかをよく確認する必要があります。
また、販売手数料などの名目で売掛金から差し引かれるケースがありますが、これらは軽減税率に係るものであっても、値引き処理せずに、標準税率により経費処理します。さまざまな名目で売掛金から差し引かれるものもありますが、その実態を把握し、相手先からの請求書をよく確認して適正な会計処理を行います。
軽減税率導入後の消費税の計算方法
軽減税率制度実施後も消費税の計算方法は従来と同じです。ただし、「売り上げ」、「仕入れ」共に「標準税率の10%」、「軽減税率の8%」、「経過措置による旧税率の8%」が混在しますので、適用税率ごとに区分経理することが必要となります。
なお、軽減税率の8%と旧税率の8%は同じ8%ですが、消費税額の計算上、軽減税率と旧税率の国税と地方税の内訳が異なりますので、しっかりと区分経理してください。
今回の消費税法改正により、初めて軽減税率制度が導入されます。事前に制度の説明やQ&Aがリリースされていますが、実際にフタを開けてみたら想定外の事態が起こるかもしれません。もし取扱商品が軽減税率であるかを判断できない場合は、「消費税軽減税率電話相談センター(軽減コールセンター)」へ確認してください。
軽減税率制度により複数税率となり、経理の事務負担が増加します。請求書などの発行や区分経理を正しく行わないと、結果として消費税を余計に支払うこともあり得ますので、適正な運用を行いましょう。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2019年8月26日)のものです