中小企業経営者向けの資金調達方法の1つに、資本性ローン(資本性借入金)というものがあります。日本政府は、経営が悪化した中小企業に対して、資本性を有する資金を提供する仕組みの導入を後押ししており、資本性ローンもその手段の1つです。例えば運転資金を借りたいが、それが原因で財務内容が悪化するのは避けたい場合に活用できる可能性もあります。資本性ローンは、既存の「借入金」を「資本性ローン」に組み替えることで、資金繰りの解消や、新規融資が受けやすくなるといった利点があります。
資本性ローンとは、負債でありながら資本性の高いローンのことです。金融機関が企業の財務状況や将来の収益見込みを判断する際、資本性ローンは負債ではなく、その企業の自己資本と見なします。また資本性ローンは劣後ローンと同様に元利金の返済順位が、ほかの債務よりも後になるように設定されるのが一般的です。ですから、借入金を複数の金融機関から受けている場合、「ほかの金融機関の一般的な借り入れから返済していき、資本性ローンはその後に返済すればよい」ことになります。
もちろん、企業会計上では、資本性ローンは負債に当たりますので、企業の自己資本比率は悪化します。しかし資本性ローンは、前述した通り返済順位がほかの債務よりも後になるため、株式の性質に限りなく近くなります。通常、金融機関から融資を受けると赤字でも返済が必要なので、資金繰りが苦しくなりますが、資本性ローンは金融機関から自己資本として見なされますので、実質的には自己資本比率が向上するケースも見られます。これにより金融機関からの追加融資も受けやすくなるというメリットもあります。
仮に企業が倒産した場合は、残った財産を債権者に分配するのが一般的ですが、分配する優先順位が決まっており、優先順位が低く設定されている資本性ローンは、返済される見込みがほとんどありません。つまり、債務超過で倒産すると資本性ローンの返済が不要となるケースがあります。
現在、主な資本性ローンには以下のものがあります。それぞれ特長が異なりますが、昨今のコロナ禍に対応したものもありますので、中小企業経営者は顧問税理士などと相談しながら、どのローンなら利用できるのか、どのローンを利用するのが適当なのか検討しましょう。
・挑戦支援資本強化特例制度(日本政策金融公庫)
・震災復興支援資本性ローン(日本政策金融公庫)
・資本的借入金(中小機構中小企業再生支援協議会/PDFが開きます)
・危機対応業務による資本性劣後ローン(商工中金など/PDFが開きます)
それでは一般的な資本性ローンの要件について解説します。
資本性ローンの要件
(1)償還条件
償還期間が5年1カ月、7年、10年、15年など。期限一括返済
(2)金利設定
原則として融資後1年ごとに直近の決算の業績と貸付期間によって利率が異なります。なお、直近の業績は、売上高減価償却前経常利益率をもって判断されます(赤字の場合、事務コスト相当)
(3)担保・保証人
原則として無担保・無保証(担保解除が困難な場合には特例あり)
資本性ローンを利用するためには、金融機関に対して以下のいずれかの経営再建計画の提出が必要になります。
(A)「実現性の高い抜本的な経営再建計画」(実抜計画)
・おおむね3年以内に金融検査上の債務者区分が正常先となること
・関係金融機関の同意を得られること
・売り上げ、利益などの予想数値が厳しめに設定してあること
(B)「合理的かつ実現可能な経営改善計画書」(合実計画)
・計画期間がおおむね5年以内(中小企業の場合、5年を超えおおむね10年以内)であること
・計画期間終了後の債務者区分が正常先となること
・すべての取引金融機関において、支援を行うことについて文書その他により確認できること
上記のように厳しい要件が求められますが、既存の借入金を資本性ローンに組み替えるプランを取り入れることで、債務超過が解消される可能性が高まります。また、返済は5年以後の一括返済であるため、資金繰りにも貢献します。
ただし「合実計画」では、おおむね計画通りに進捗し、10年内の償還が求められることから、計画・実績共に黒字を出し続けることが前提となります。担当税理士などとよく相談しながら実現可能な計画を作成してください。
資本性ローンは自己資本と見なされますが、これは金融検査上のルールであって、債務・借入金であることには変わりません。したがって、事業が継続される限り、返済は契約通り行う必要があります。通常の融資と使い分けることでメリットは生まれますが、事業計画ができていない状況で融資を受けると、資金繰りが破綻するリスクが高くなることも考えられます。
債務超過であっても、利益を出し続けなければならないというハードルはありますが、中小企業経営者にとっては十分に検討価値のあるローンといえるでしょう。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2020年8月3日)のものです。
【関連記事・参考資料】
・中小企業の皆様へ 「資本性借入金」の活用を検討してみませんか?
https://www.fsa.go.jp/common/about/shihonseikariirekin.pdf