スキャナー保存制度は、自分で作成して相手方に渡した書面の写し、または相手方からもらった請求書などについて、原本が紙のものをスキャナーで電子データ化することにより、一定の保存要件の下、電子で保存できるとされているものです。
スキャナー保存後は、原本である紙の書類を破棄できます。しかし、スキャナーで読み取る前の紙段階で改ざんされた場合には、紙質、筆圧などの情報が消失し、不正把握の重要な端緒が消失してしまい、改ざんの発見が困難になることから、電子データ化されたものについて、紙と同等の真正性を確保するためにいくつかの保存要件を課しています。具体的には、保存の対象から税額算出のために最も基本的な書類である帳簿や決算関係書類を外し、対象書類を重要書類と一般書類に区分し、入力期限の制限などの真実性の確保のための要件や、見読可能装置の備え付けなどの可視性の確保のための要件に軽重を付けて保存要件を課しています。
書類を受領した者がスキャナーで読み取る場合は、その者が書類に署名し、3営業日以内にタイムスタンプを付すことが求められ、導入の障害となっていました。今回の改正では署名を廃止し、タイムスタンプの付与期間も最長2月以内とされました。
また、関連する各事務について別の者が行うこととする相互けん制体制や、処理の内容を定期的に検査する体制などの適正事務処理要件も、経理事務にマンパワーを割けない事業者にとっては導入のハードルが高い理由となっていました。このため適正事務処理要件全体が廃止となりました。書類はスキャナー保存後即廃棄可能となり、スムーズなスキャナー保存ができるようになりました。
源泉徴収に係る所得税を除く所得税および法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には、一定の保存要件の下、その電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならないとされています。
電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存については、その電磁的記録を出力することにより作成した書面または電子計算機出力マイクロフィルムを保存する場合には、その電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存を要しないとされていました。改正後は書面などでの保存が認められなくなり、その電磁的記録自体を保存しなければならないこととされました。
従って、2022年1月1日以後に行った電子取引については、その取引情報に係る電子データを保存要件に従って保存しなければなりません。保存要件に従って保存されていない場合には、納税者からの追加説明や資料提出を求められる可能性があり、青色申告承認申請の取消事由にもなります。
具体的な保存要件は、イからハまでの要件を備えた上で、
イ システムの開発関係書類などの備え付け
ロ 見読可能装置の備え付け
ハ 検索機能の確保(一定の場合には、要件が緩和または不要とされます)
次の(イ)から(ニ)までのいずれかの措置を行う必要があります。
(イ) 発行者のタイムスタンプが付与された電磁的記録の保存
(ロ) データ受領後または業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに行うタイムスタンプの付与
(ハ) クラウドシステムなど(電磁的記録についての訂正・削除の事実・内容を確認することができる電算機処理システム(訂正・削除ができないものを含みます)をいいます)における電磁的記録の授受・保存
(ニ) 改ざん防止などのための事務処理規定の制定、運用、備え付け
これまで電子で取引を行った場合には、その電子取引に係る電子データを書面に出力して保存していた方も多いと思います。
2022年1月1日以後に行う電子取引については、授受した電子データについて、その取引情報の受領が書面により行われたとした場合、またはその取引情報の送付が書面により行われその写しが作成されたとした場合に、国税に関する法律の規定により、その書面を保存すべきこととなる場所に、その書面を保存すべきこととなる期間、上記の保存要件に従ってその電子データを保存しなければなりません。
2021年12月末までに行った電子取引については旧制度が適用になりますので、書面に出力して保存期間中保存しておくことも可能です。しかし、2022年1月からの電子取引については、授受した電子データを保存要件に従って保存できるよう、自社の状況に合った保存方法を検討して保存する必要があります。
個人事業主で一般的なパソコンを使用し、特別な請求書など保存ソフトは使用していない事業者の保存方法の例が、電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】問12(国税庁)に掲載されていますので、参考にしてください。
スキャナー保存・電子取引情報保存制度の重加算税の加重措置が創設
2021年度税制改正では、スキャナー保存・電子取引情報保存制度の重加算税の加重措置が創設されました。これは、スキャナー保存・電子取引情報保存制度の適正な保存を担保するための措置として、保存された電子データに関し申告漏れなどにより重加算税が課される場合には10%加算することとするものです。
消費税に関しても、電子取引が行われた場合の電子データの記録事項に関して重加算税の規定に該当するときは、電子帳簿保存法と同様の加重措置が導入されました。これらは保存要件を緩くして利用しやすくしつつ、適正な保存を促すための担保措置を設け、適正公平な課税を確保しているというものです。
電子インボイスと電子帳簿保存法
2023年10月1日から適格請求書等保存方式(いわゆる「インボイス制度」)が始まります。インボイス制度導入後は、取引相手が仕入税額控除を行うにはインボイスが必要となります。適格請求書発行事業者は、取引の相手方(課税事業者)の求めに応じてインボイスを交付しなければなりません。書面のインボイスに代えて、消費税法の規定により電子データで提供することができるとされており、その保存に当たっては、電子帳簿保存法に定める電子取引の取引情報と同様の要件により保存しなければならないとされています。この電子インボイスを保存することにより、仕入税額控除の適用を受けることができます。
インボイスの導入後、登録番号や記載項目などの確認、経理処理が必要となり、事務が煩雑になるだろうと想定されます。電子インボイスを活用し企業経理自体の電子化を進めれば、業務の効率化が期待できます。
執筆=松崎 啓介(まつざき けいすけ)
松崎啓介税理士事務所 税理士、一般社団法人租税調査研究会主任研究員。昭和59年~平成20年 財務省主税局勤務 税法の企画立案に従事(平成10年~平成20年 電帳法・通則法規等担当)。その後、大月税務署長、東京国税局 調査部特官・統括官、審理官、企画課長、審理課長、個人課税課長、国税庁監督評価官室長、仙台国税局総務部長、金沢国税局長を経て税理士登録。
主な著書に「国税通則法精解」「国税徴収法精解」(大蔵財務協会)、「コンメンタール国税通則法」(第一法規)、「電子帳簿保存法がこう変わる!~DXが進む経理・税務のポイント」(税務研究会)、「税理2021.4月臨時増刊号 税務手続のデジタル化-その実務と課題」、「税理2021.9月号 改正電子帳簿保存法は企業経理の電子化を推し進める好機~その全体像と事前対策」(ぎょうせい)等書籍や記事を多数執筆。
監修=宮口 貴志
株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役、一般社団法人租税調査研究会常務理事。元税金専門紙編集長。会計事務所ウオッチャーとして活動。