2022年1月1日から施行された改正電子帳簿保存法(電帳法)の電子取引の保存義務において、「令和4年度税制改正大綱」(2021年12月10日公表)に2年間の宥恕(ゆうじょ)措置が盛り込まれました。これにより2年間は、これまで通り電子取引データを紙に印刷して保存することが認められます。
1月から施行された電帳法は事前承認が不要になるなど、従来よりも適用要件が緩和されました(詳細は第66回、67回に掲載)。そのため、中小企業においても取り組みやすいように見直されたのですが、電子取引データの保存に関しては電子保存が義務化され、事業者の多くが対応に頭を悩ませていました。
改正前の電帳法では、ただし書きで、「財務省令で定めるところにより、当該電磁的記録を出力することにより作成した書面又は電子計算機出力マイクロフィルムを保存する場合は、電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存を要しない」とされていました。このただし書きが新しい電帳法では削除され、その電磁的記録を一定の保存要件に従って保存しなければならなくなったのです。
電帳法では、源泉徴収に係る所得税を除く所得税および法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には、一定の保存要件に従って、その電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならないこととされています。つまり、紙での保存はNGです。
しかし、電帳法の具体的な取り扱いについて国税庁から公表されたのは2021年7月。運用開始まで半年を切っており、企業をはじめシステムメーカーにおいても対応が遅れるなどの状況でした。そのため、電子請求書の運用を開始していた会社でも、電子データ保存の不備を恐れて電子取引をやめてしまうケースも見られました。
そこで令和4年度の与党税制改正大綱に、新しい電帳法に対応できない事業者対策として、令和4年1月1日から令和5年12月31日までの間に行った電子取引については、新制度に円滑に移行するための「宥恕措置」を設けるとしました。「宥恕」とは、寛大な心で許すことということ。本来は取り組むべきことを、事情を考慮して「許容」しますよということです。
「宥恕措置」の整備…
税制改正大綱では以下のように記載されています。
電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存への円滑な移行のための宥恕措置の整備
令和4年1月1日から令和5年12月31日までの間に申告所得税及び法人税に係る保存義務者が行う電子取引につき、納税地等の所轄税務署長が、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存要件に従って保存することができなかったことについてやむを得ない事情があると認め、かつ、当該保存義務者が、質問検査権に基づく電磁的記録の出力書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力されたものに限る。)の提示又は提出の要求に応じることができるようにしている場合には、その保存要件にかかわらず、その電磁的記録の保存をすることができることとする経過措置を講ずる。
(注1)上記の改正は、令和4年1月1日以後に保存が行われる国税関係書類又は電子取引の取引情報に係る電磁的記録について適用する。
(注2)上記の電子取引の取引情報に係る電磁的記録の出力書面等を保存している場合における当該電磁的記録の保存に関する上記の措置の適用については、当該電磁的記録の保存要件への対応が困難な事業者の実情に配意し、引き続き保存義務者から納税地等の所轄税務署長への手続きを要せずその出力書面等による保存を可能とするよう、運用上、適切に配慮することとする。
この内容からすると、保存要件に従って保存することができなかった場合、「やむを得ない事情」があると税務署長が認め、かつ、書面に出力して提示などの求めに応じられるようにしているなら、その保存要件にかかわらず、その電子データの保存をすることができるとしています。
この「やむを得ない事情」について、国税庁は2021年12月28日に関連通達を改正。Q&Aやパンフレットの内容を更新し、周知を図っています。改正通達では「7-10(宥恕措置における「やむを得ない事情」の意義)」「7-11(宥恕措置適用時の取扱い)」が新設されており、宥恕規定を適用する際に求められる「やむを得ない事情」について、以下のように示しています。
*宥恕措置における「やむを得ない事情」の意義
7-10 電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則の一部を改正する省令(令和3年財務省令第25号)附則第2条第3項《経過措置》の規定により読み替えて適用される規則第4条第3項《電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存に関する宥恕措置》に規定する「やむを得ない事情」とは、電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存に係るシステム等や社内でのワークフローの整備未済等、保存要件に従って電磁的記録の保存を行うための準備を整えることが困難であることをいう。
また、改正通達の趣旨説明では上記について、
例えば、その電磁的記録の保存に係るシステム等や社内のワークフローの整備が間に合わない等といった、自己の責めに帰さないとは言い難いような事情も含め、要件に従って電磁的記録の保存を行うための準備を整えることが困難な事情がある場合については、この宥恕措置における「やむを得ない事情」があると認められることに留意する。
と補足しています。
なおQ&Aでは、「やむを得ない事情の有無や出力された書面については、必要に応じて税務調査等の際に確認することとしており、事前に税務署への申請等をすることは必要ありません」と事前手続は不要と説明されています。
政府は1月1日から施行された新たな電帳法で、企業の電子化を一気に加速させたいと考えています。ただ、電帳法には、規定通りに処理しなければ、税務調査で経理処理を否認するほか、最悪の場合、青色申告の取り消しというペナルティーも設けられています。今回、大綱に2年間の猶予が盛り込まれましたが、これは2023年10月1日からの消費税の「適格請求書等保存方式」、いわゆるインボイス制度に足並みをそろえたものと思われます。企業はこれから2年の間に、電帳法とインボイス制度への対応が迫られます。税理士と相談しながら、無理のないスケジュールで取り組んでいきたいものです。
執筆=一般社団法人租税調査研究会(https://zeimusoudan.biz/about)
法人税、源泉所得税、所得税、消費税、印紙税、資産税、酒税・揮発油税、関税、国際税務、公益法人、査察、事務訴訟などの各税務分野の国税出身税理士を招集し、会計事務所向けに相談・教育等を手掛ける団体。現在、在籍する研究員・主任研究員は47名。会員会計事務所は約100会計事務所。
最近の会員向け勉強会は以下のテーマで開催。
『個人課税部門職員の正義感 ~所得税調査で調査官が注視するポイント~』
『スーパー国税調査官の養成~税務大学校の研修体系など』
『消費税インボイス制度のポイント ~適格請求書発行事業者の登録申請に係る注意事項etc~』
『重加算税の適用要件と実務対応 ~「質問応答記録書」を踏まえて~』
『税務署が動く国際税務への対応 国際源泉課税調査のポイント』など。
監修=宮口貴志
一般社団法人租税調査研究会常務理事。株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役、税務・会計のニュースサイト「KaikeiZine」論説委員兼編集委員。税金の専門紙および税理士業界紙の編集長、税理士・公認会計士などの人材紹介会社を経て、TAXジャーナリスト、会計事務所業界ウオッチャーとしても活動。