コンビニ大手のファミリーマート(東京・港区)が先ごろ、印紙税計1億3000万円の納付漏れを東京国税局の税務調査で指摘された。印紙税漏れは、約1万のフランチャイズチェーン(FC)加盟店との取引に関する約60万件の文書に印紙税を貼っていなかったというもの。マスコミの報道では、過怠税として約1億5000万円が追徴されたとしている。
印紙税の納税義務者は課税文書の作成者で、印紙税の納税義務はその課税文書を作成したときに成立する。
では、印紙税はどのような取引で発生するのだろうか。
印紙税は独特な税金で、“紙”の取引文書にしかかからず、デジタル化で増加する電子メールなどによるものは対象外となる。クレジットカード決済も非課税だ。では、お互いがペーパーに出力すれば文書課税になるのか。これも現在の法律では、当事者が証明する目的で作成した文書を課税文書としているため、本人の手控えまたは社内稟議(りんぎ)用に出力した文書は課税文書にならない。
FAX 受信した注文請書についてはどうなるのだろうか。結論としては、この受信文書も相手方から交付を受けた文書ではないので課税文書にはならない。
印紙税が課税されるもの
国税当局では、「印紙税が課税されるのは、印紙税法で定められた課税文書に限られている」としている。課税文書に該当するかどうかは、その文書の名称、呼称や形式的な記載文言によるのではなく、文書に記載されている内容に基づいて判断する。
具体的には、不動産売買や工事請負の契約書、預金通帳など金銭のやり取りが生じる文書の作成者に課されるもの。収入印紙を文書に貼り付け、割り印をし、納付が完了する。税額は200円~60万円で、文書の種類や契約金額によって異なる。
国税庁のホームページには、印紙税の課される課税文書について、次の3つのすべてに当てはまる文書とある。
(1) 印紙税法別表第1(課税物件表)に掲げられている20種類の文書により証されるべき事項(課税事項)が記載されていること。
(2) 当事者の間において課税事項を証明する目的で作成された文書であること。
(3) 印紙税法第5条(非課税文書)の規定により印紙税を課税しないこととされている非課税文書でないこと。
*課税物件表については、コード7140「印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで」およびコード7141「印紙税額の一覧表(その2)第5号文書から第20号文書まで」
税金のペナルティー「過怠税」…
さて、ファミリーマートの税務調査では、「過怠税」というあまり耳慣れない税金が出てきた。過怠税とは何なのか? 過怠税は簡単に言ってしまえば、印紙税のペナルティー的な税金。納付しなかった印紙税の額の2倍相当の金額が徴収される。つまり、過怠税が賦課されると、納める税金は本来納めるべき印紙税と合わせて3倍になってしまうのだ。ただし、自主的に印紙税を納付していない旨を申し出た上で納付すると、納付しなかった印紙税の額とその10%相当の金額を納付すれば許される。
今回のファミリーマートのケースでは、印紙税漏れが1億3000万円なので、過怠税が付くと3億9000万円。自主的に申し出て納付したのなら過怠税は10%なので、約1億5000万円で済む。
今回のファミリーマートの印紙税調査では、ファミリーマートがFC各店と交わした文書について、課税対象と認識せず収入印紙を貼っていなかったため指摘を受けた。各店から受け取る売り上げ相当額を記載していたことから、東京国税局が課税文書に当たると判断したようだ。
印紙税法では、第2号文書(請負に関する契約書)に関して、契約金額に応じた印紙税を課税するとしている。「請負」とは、民法第632条(請負)に規定する請負のこと(印紙税基本通達第2号文書1(請負の意義))。
一方で、委任(準委任を含みます)を内容とする契約書については、1989年4月1日以降、課税が廃止されている。
ただ、2020年4月1日から改正民法第648条の2(成果等に対する報酬)が施行されることに伴い、印紙税基本通達第2号文書1(請負の意義)も改正され、「なお、同法第648条の2に規定する委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約する契約は『請負』には該当しないことに留意する」との文言が追加された。
従来、「請負」と「委任」の区分については、
・「請負」…仕事の完成が目的で、仕事の完成に対して報酬が支払われるものであり、例えば、成果物(報告書など)を委任者が検収(仕事の完成を確認)の上、これに対して報酬を支払うものなどは仕事の完成が目的とされ、受任者に仕事の完成に至るまでの危険負担や仕事が完成しないときには債務不履行責任が課せられているものなどが、請負と判定される。
・「委任」…他人の経験、知識、才能などの専門的知識を信頼して、一定の目的に従って何らかの事務の処理を依頼するもの。例えば、事務処理自体が目的で、必ずしも仕事の完成を目的とせず、結果よりも事務処理の内容に期待するものは委任と判定される、としている。
よく読んでも「請負」か「委任」かの判断は難しい。これを一般納税者に要求しているのだから、ミスが多いのもうなずける。
こうして行う印紙税の税務調査
さて、その印紙税の税務調査だが、印紙税の単独調査が行われる場合もあるが、原則として個人課税部門や資産課税部門、法人課税部門などが行う実地調査と同時に行われる。同時調査なので、確認した契約書や領収書などの各種文書について印紙税が貼っていないと確認されたら、納税者に対し不納付申し出の勧奨などを行う。
具体的には、印紙が貼られていなかったことを把握したら、原則として納税義務者に自主監査を促し、調査担当者はその結果に基づき、非違事項の内容などについて検討。その結果、過怠税の金額などの説明を行い、不納付の申し出の勧奨が行われる。納税義務者から「不納付事実申出書」が提出されると、1.1倍の過怠税が賦課決定される。
なお、使用済み印紙の再使用や、印紙税の不納付の形態が悪質と認められる場合や「不納付事実申出書」が提出されない場合には、対応について別途説明し、場合によっては3倍の過怠税となる。
印紙税も税金の一つなので、「税理士に任せればいい」と考える人も多いかもしれない。しかし、印紙税は、税理士法に定められた税理士の業務に含まれていないため、全国にいる約8万人の税理士で印紙税に詳しい人はほとんどいない。さらに、所得税や法人税など税務調査においては、税理士が税務代理人として調査の立ち会いができるが、印紙税に関しては、税理士が税務代理人になれないのだ。
最後に、最近はデジタル化社会に印紙税はそぐわないとの意見も少なくない。国税庁では昨年、「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション-税務行政の将来像2.0-」を公表し、「あらゆる税務手続が税務署に行かずにできる社会」に向けた構想を示している。デジタル化を進めるのであれば、印紙税を抜本的に見直してもよいのではないか。とはいうものの、印紙税は国として貴重な税収になっているというのも事実。2020年度の国税庁リポートによると、印紙税収入は約1兆円。全税収の63兆5130億円の1.5%を占めている。
海外では、印紙税発祥国のオランダがすでに廃止している。漫然と継続するのではなく、海外の事例も参考に抜本的に見直す時期に来ているのではないかと感じる。
執筆=一般社団法人租税調査研究会(https://zeimusoudan.biz/about)
法人税、源泉所得税、所得税、消費税、印紙税、資産税、酒税・揮発油税、関税、国際税務、公益法人、査察、事務訴訟などの各税務分野の国税出身税理士を招集し、会計事務所向けに相談・教育などを手掛ける団体。現在、在籍する研究員・主任研究員は48名。会員会計事務所は約100会計事務所。最近の会員向け勉強会は以下のテーマで開催。
『個人課税部門職員の正義感 ~所得税調査で調査官が注視するポイント~』
『スーパー国税調査官の養成~税務大学校の研修体系など』
『消費税インボイス制度のポイント ~適格請求書発行事業者の登録申請に係る注意事項etc~』
『重加算税の適用要件と実務対応 ~「質問応答記録書」を踏まえて~』
『税務署が動く国際税務への対応 国際源泉課税調査のポイント』など。
監修=宮口貴志
一般社団法人租税調査研究会常務理事。株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役、税務・会計のニュースサイト「KaikeiZine」論説委員兼編集委員。税金の専門紙および税理士業界紙の編集長、税理士・公認会計士などの人材紹介会社を経て、TAXジャーナリスト、会計事務所業界ウオッチャーとしても活動。