新型コロナウイルス対策の「持続化給付金」約2億円をだまし取ったとして、男女7人が逮捕された詐欺事件では、確定申告書を偽造する役割を担当していた東京国税局鶴見署の現役職員である塚本晃平被告(24)と熊本の小中学校の同級生で、税務大学校でも同期だった元職員の中村上総被告(24)が含まれていました。マスコミ報道の中では、「税務大学校」という単語が出てきました。
塚本被告は2017年高校卒業後、専門学校を経て2018年に東京国税局に採用。普通科77期。税務大学校卒業後に、2019年7月~2021年6月まで藤沢税務署徴収部門、同年7月から鶴見税務署徴収部門という経歴です。つまり、税務大学校で約1年を過ごし、現場である税務署勤務は3年目ということになります。詐欺グループの中での役割は、確定申告に関する業務を担当していたようですが、経歴からすると税務署では確定申告書作成業務にタッチしていませんでした。おそらく、税務大学校で知識を身に付けたのでしょう。「税務大学校」というのは、一般の人からするとなじみがありません。そこで、国税庁の研修機関である税務大学校について紹介します。
始めに、国税庁においては、「納税者の自発的な納税義務の履行を適正かつ円滑に実現する」ことを使命とし、「内国税の適正かつ公平な賦課および徴収の実現」を主たる任務としています。この使命および任務を遂行できるように必要な研修を行う役割を税務大学校が担っています。税務大学校では、国家公務員である税務職員に対してそのときどきに応じて必要とされる、さまざまな研修や海外の税務当局職員に対する国際研修などを行います。また、一般向けの公開講座が開かれる場合もあります。所在地は、東京・霞が関にある本校の事務室、埼玉県和光市にある和光校舎以外に、東京研修所、名古屋研修所、大阪研修所など、全国に12の地方研修所があります。ここで行われる主な研修をいくつか紹介します。
1 普通科研修・・・高等学校などを卒業見込みまたは卒業して3年までの者が税務職員採用試験(高卒程度)を受験し、合格して採用された者が税務職員として必要な知識、技能などの基礎的事項を取得するとともに、社会人としての良識および自覚を身に付けるための研修で、全寮制となります。前述した塚本晃平被告および中村上総被告はこの研修を受けています。
2 本科研修・・・上記の税務職員採用試験による採用者で、採用から5年以上17年未満の職員の中から、選抜試験により選考された者を対象として、専門官職にふさわしい知識、技能を習得させるとともに、税務の中核として活躍するために必要な広い視野、高い見識、的確な判断力を身に付けるために、こちらも約1年間の研修が実施されています。研修内容としては、(1)講義および討議による税法科目 (2)要件事実論、国際取引などの実務科目 (3)簿記会計学、財務諸表論などの会計科目 (4)行政法、民法などの法律・経済科目などです。
3 専門官基礎研修・・・大学を卒業見込みまたは卒業して9年までの者が国税専門官採用試験(大卒程度)を受験し、合格して採用された者が社会人としての良識および公務員としての自覚を身に付けるとともに、各税法や簿記など、税務の仕事を行っていく上で必要不可欠な知識をしっかり習得するために、和光市の税務大学校で約3カ月間行われる研修。研修内容としては、(1)国税徴収法、所得税法、相続税法や法人税法といった税法科目 (2)実務講義 (3)簿記会計学 (4)班別会同などです。
4 専攻税法研修・・・上記3の専門官基礎研修を終了し、税務署で約1年間の実務を経験した後、全国12の地方研修所で約2カ月間にわたって調査、徴収に関する基本的知識および技能を習得するための研修。研修内容としては、(1)専攻税法 (2)実務講義 などにより編成されています。また、個人課税、資産課税、法人課税および徴収の専攻ごとに班編成をしています。
5 専科研修・・・上記4の専攻税法研修を終了し、税務署で3年間の実務を経験した後、専門官職として必要な知識、技能を習得するため、約7カ月間の専科研修を受講します。この研修では、個人課税、資産課税、法人課税および徴収の各専攻班に分かれ、各税法や簿記会計学などの科目に重点を置いて勉強します。また、専門官職としてふさわしい豊かな人間性を育むためのカリキュラムも盛り込まれています。
税務大学校の今後の課題
税務大学校では、他にも国税庁の使命および任務を遂行するために必要な専攻科や国際科など、さまざまな研修を行っています。しかし、コロナ禍で税務職員も例外なく在宅勤務を実施しており、研修は対面での集合研修ではなくオンラインで行うようになりました。
オンラインの研修では、一体感の醸成やモチベーションアップにつながりにくく、研修参加者同士の交流が難しいというデメリットが指摘されています。当然、税務大学校も同様であり、映像や音声だけでは必要な内容を伝達しきれない場合もあるかと思います。
しかし、国の税務行政の主体である国税庁が使命や任務を果たすために、税務大学校は研修環境の整備に努めつつ、今後も税務職員が職務遂行に必要な専門知識・技能を習得できるような研修の提供はもちろん、それ以前に税務職員としての責任感、正義感や倫理観を持つように、言い換えると納税者に信頼されるために綱紀の厳正な保持や適切な事務処理に努める必要があるはずで、今まで以上に税務職員としての心構えを資する研修を行ってもらいたいと思います。
執筆=加藤秀樹
税理士、(一社)租税調査研究会研究員。加藤秀樹税理士事務所所長。
税務職員時代は、主に法人課税部門で審理を担当。税務大学校東京研修所では、教育官として専科生(大学卒業程度)に法人税・消費税・源泉所得税の教育を行った。2021年12月退職。
監修=宮口貴志
一般社団法人租税調査研究会常務理事。株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役。税金の専門紙および税理士業界紙の編集長、税理士・公認会計士などの人材紹介会社を経て、TAXジャーナリスト、会計事務所業界ウオッチャーとして活動。