2023年5月8日に新型コロナウイルスの感染法上の分類が季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げられました。国税庁は新事務年度(7月~翌年6月末)が始まった7月から、調査体制をコロナ禍前の“通常”に戻し、本格化させています。
近年の税務調査件数を見ると、例えば法人税調査ではコロナ禍前は年間10万件近く実地調査を行っていましたが、コロナ禍の令和2事務年度は2万5000件、同3事務年度は若干回復したものの4万1000件でした。令和1事務年度においては、新型コロナの影響を受けたのが令和2年1月から6月までだったので、年間を通じて調査件数が3割ほど減っています(図表参考)。
コロナ禍では調査先が絞られて件数は激減したものの、深度ある調査が行われ、調査1件当たりの追徴税額が2.5~3.5倍に上がりました。これは、調査件数に制限がかかったため、調査官が資料分析などに時間をかけることができ、追徴税額が高いと見込まれる企業に絞って調査したことが数字に反映されたものと思われます。
ただ、調査選定した案件すべてを調査できたわけではなく、ストックされている案件も多いと言われており、コロナ禍以降はこれらの案件をベースに再度調査選定し、実地調査が行われるとされています。つまり、新事務年度が始まった7月からの税務調査は、件数がコロナ禍以前に戻るだけでなく、厳しい調査が行われる可能性が高いと言えます。
税務調査は何のために行うのか?
そもそも、なぜ税務調査が行われるのでしょうか。国税通則法には、
①特定の納税義務者の課税標準等又は税額等を認定する目的その他国税に関する法律に基づく処分を行う目的で当該職員が行う一連の行為(証拠資料の収集、要件事実の認定、法令の解釈適用など)をいう。
②上記に掲げる調査には、更正決定等を目的とする一連の行為のほか、再調査決定や申請等の審査のために行う一連の行為も含まれることに留意する。
とあります。
簡単に言うと、納める税額が誤っていると考えられるため、証拠を確定するために行う行為といえます。②には明確に「更正決定等を目的とする一連の行為」と記されており、申告誤りを見つけに来ているのです。
税務署からの調査関係の連絡はすべて税務調査だと思われがちですが、実は「税務調査」と「行政指導」の2つがあります。「税務調査」は税務職員の質問検査権が及びますが、「行政指導」は質問検査権が及びません。
質問検査権とは、国税通則法(74条の2)に「調査について必要があるとき」は、
・質問する
・帳簿書類その他の物件の検査をする
・事業に関する帳簿書類の検査や提示、提出を求める
ことができると明記されています。
つまり、「税務調査」ではなく「行政指導」ならば「調査が及ばない行為」であるため、罰則的なものはありません。行政指導は税務署からの要請的な意味合いが強く、申告内容の自主的な修正をはじめ自主的な情報提供の依頼、提出書類に関する確認などが含まれます。
そのため、税務署からの連絡が税務調査なのか行政指導なのか分からない場合は、「これは税務調査ですか?それとも行政指導ですか?」と確認をして対応することをお勧めします。行政指導なら調査官の話をよく聞き、対応していけば恐れる必要はありません。
税務署の法人税調査の流れ…
税務調査は、ある程度の売り上げがあるか毎年売り上げが伸びていれば3年に1度、または5年ごとに対応を求められるケースがあります。大企業については税務署ではなく国税局の調査部が担当しており、毎年対応を求められる場合もあります。
税務署所管の企業の調査は、基本的には法人税の調査です。ただ、調査官が確認するのは「法人税」「消費税」「源泉所得税」と併せて「印紙税」もターゲットとしています。また、海外取引があれば国際税務もチェックされますので、いつ税務調査が来ても適切に対処できるように、日ごろから準備しておく必要があります。
税務調査の手続きは昔と違って法令(国税通則法)によって明確化されています。法令では、税務署の調査は原則事前通知から始まるとされています。現在は、事前通知の前に納税義務者の都合を確認して調査日程を調整するなど、いわゆる「調査通知」も行われています。
調査通知では、
①実地調査を行う旨
②調査対象となる税目
③調査対象となる期間
が告げられます。
実地調査を行うにあたり、基本的には調査通知の後に「事前通知」が行われます。事前通知では、
①質問検査等を行う実地の調査を開始する日時
②調査を行う場所
③調査の目的
④調査の対象となる税目
⑤調査の対象となる期間
⑥調査の対象となる帳簿書類その他の物件
⑦調査の相手方である納税義務者の氏名および住所又は居所
⑧調査を行う職員の氏名および所属官署
⑨納税義務者は、合理的な理由を付して上記①又は②について変更するよう求めることができ、その場合には、税務当局はこれについて協議するよう努める旨
⑩税務職員は、「通知事項以外の事項」について非違が疑われる場合には、その事項に関して質問検査等を行うことができる旨
を伝えることになっています。
実地調査において通知した事項以外の事項について非違が疑われた場合には、納税者サイドに、調査対象に追加する税目、期間などを説明し、理解と協力を得た上で調査対象に追加する事項についての質問検査権などを行います。税務職員が勝手に事前通知以外のことをしてはならないのです。
なお、事前通知は書面ではなく、基本的には口頭により行われることになっています。
<税務調査の流れ>(*国税庁パンフレットを参考に作成)
上記が税務調査を行うにあたっての基本的な流れですが、中には事前通知なしの無予告で行う税務調査もあり、これを「無予告現況調査」と言います。国税通則法には事前に連絡すると取引資料などが隠ぺい改ざんされると見込まれる場合などは無予告で調査すると明記されています。
選定方法は、過去の調査結果・事業内容などから判断されますが、飲食店などの現金商売の場合が多いと考えられます。
執筆=一般社団法人租税調査研究会
一般社団法人租税調査研究会(https://zeimusoudan.biz/about)
法人税、源泉所得税、所得税、消費税、印紙税、資産税、酒税・揮発油税、関税、国際税務、公益法人、査察、事務訴訟などの各税務分野の国税出身税理士を招集し、会計事務所向けに相談・教育などを手掛ける団体。現在、在籍する研究員・主任研究員は53人。会員会計事務所は約100会計事務所。
主な著書に『一冊ですべてわかる!暗号資産の税務処理と調査対応のポイント』(第一法規)、『国税OB税理士による 税務調査のすべて』(大蔵財務協会)、『加算税の最新実務と税務調査対応Q&A 判決・裁決・事例で解説』(大蔵財務協会)、『税目別ケースで読み解く!国際課税の税務調査対応マニュアル』(ぎょうせい)など多数。
監修・編集=宮口貴志
一般社団法人租税調査研究会専務理事・事務局長。
株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役、TAXジャーナリスト、会計事務所ウオッチャーとして活動。元税金専門紙及び税理士業界紙の編集長。