決算期末に保有する商品は期末在庫として決算書に計上されます。この期末在庫は、売上原価を計算する上で重要な計算要素となります。売上原価は次の算式で計算されます。
「売上原価=期首在庫+当期商品仕入高-期末在庫」
簡単な計算例で期末在庫が利益に与える影響について考えてみましょう。例えば、期首在庫200、当期仕入1000、期末在庫100とすると、売上原価=200+1000-100=1100となります。売上高を1500とすると、売上総利益=1500-1100=400となります。
ここで、期末在庫が300に増えたとします。すると売上原価=200+1000-300=900となり、売上総利益=1500-900=600と増加します。
このように、期末在庫が大きくなればなるほど売上原価は小さくなり、その結果、利益額は大きくなります。
企業にとっては在庫不足を防ぐため、ついつい需要を上回る商品を入荷してしまい、適正な在庫水準を超過してしまう場合が少なくありません。このような過剰在庫を抱えると、それだけ余分な税金を支払うことにつながってしまいます。
今回は、過剰在庫を抱えることの問題点および過剰在庫を解消するための方策について検討します。
過剰在庫がもたらす経営リスク
過剰在庫を抱えると税負担の増加のみならず、経営面でも以下のような問題を引き起こします。
●キャッシュフローの悪化をもたらす
過剰な在庫を抱えることにより、企業の資金繰りに悪影響を及ぼす可能性があります。商品を仕入れる際には出費を伴います。しかし、購入した商品が在庫のままであればいつまでたっても現金化できず、出費だけが発生した状況となってしまいます。こうした状態が続くと企業の営業活動に使える資金が枯渇し、経営が行き詰まります。
●在庫の保管費用がかかる
過剰な在庫を抱えると、在庫を保管するために倉庫代などの費用がかかってしまい、会社の利益を圧迫します。
●品質が低下し商品価値が下がる
商品を長期間保管すると品質が低下したり、流行があるものなどは流行遅れとなったりして通常の値段で販売できなくなってしまいます。
過剰在庫を減らすための方策…
では、過剰在庫を減らすにはどうしたら良いでしょうか。過剰在庫を減らすための方策としては、大きく「廃棄処分」「廉価販売」「在庫の評価損」の3つが考えられます。
●売れる見込みのない在庫は廃棄処分
販売できない在庫を抱えていると保管費用などの維持費がかかります。売れる見込みのない商品については、思い切って廃棄処分するという選択肢があります。例えば、帳簿価額が500万円の商品を廃棄すれば、500万円の商品廃棄損が計上され、これは税務上損金となり、節税にもなります。
商品を廃棄した場合は、廃棄したことを立証するため、以下のような書類の準備をお勧めします。
①廃棄処分を決定した稟議(りんぎ)書や議事録
②廃棄した商品のリスト
③廃棄した商品の写真
④廃棄業者が発行する請求書や廃棄証明書 など
また、廃棄する時期にも注意が必要です。決算日までには廃棄処分が完了していなければなりません。決算日前に廃棄の手配をしたものの、廃棄業者の都合で廃棄処分が翌期にずれ込むと、当期は廃棄損の計上ができなくなってしまいます。そのため、余裕を持ったスケジュールを立てる必要があります。
商品の廃棄損は、税務調査で厳しくチェックされやすい項目の一つです。「廃棄は確実に行われたのか(簿外の在庫となっていないか?)」「廃棄損の計上時期は妥当か(廃棄は決算日までに完了したのか?)」などが確認される可能性があります。
●「在庫一掃セール」で廉価販売
通常の値段で販売できない商品を、「在庫一掃セール」などで廉価販売して不良在庫を処分する方法です。廃棄処分に比べると現金収入を得られ、資金繰りも改善します。廉価販売を行った場合には、廉価販売を実施する旨の議事録や稟議(りんぎ)書、在庫一掃セールのチラシなどを保管しておくと良いでしょう。
また、社員に対して値引き販売する方法も考えられます。この場合、社員にとっては、正規の販売価額よりも低い金額で購入できるため、その差額分だけ経済的利益を受けていることとなり、現物給与とみなされて源泉所得税が課税されてしまいます。現物給与とされないためには、社員販売価格が仕入価格以上で、かつ通常販売価額のおおむね70%以上などの要件があることから、社員販売価額の設定に当たっては注意が必要です。
●腐化した在庫は評価損を計上
在庫の評価損を計上して在庫の金額を切り下げる方法です。評価損を計上すればその分利益が減少するため、節税になります。
税務上、評価損の計上が認められるのは、棚卸資産が災害により著しく損傷した場合や、棚卸資産が著しく陳腐化した場合などに限られています。著しく陳腐化した例としては、季節商品の売れ残りで、今後は通常の値段では販売できないということが過去の実績から明らかな場合や、型式、性能、品質などが著しく異なる新商品が販売され、今後通常の方法では販売できない場合などがあります。このようなとき、商品の帳簿価額と時価との差額を評価損に計上できます。
単なる流行遅れや機種のモデルチェンジをしただけでは陳腐化に該当せず、評価損を計上できませんから注意が必要です。このように、評価損の計上はハードルが高く、税務調査では算定根拠などが検討されますので、評価損を計上した理由や時価の算定根拠などの資料の準備は必須です。
終わりに
今回は、過剰在庫を持つことのリスク、過剰在庫を解消するための方策を検討しました。過剰在庫を抱えると、経営上さまざまなデメリットがあることから、需要予測の精度を上げ、最適な発注量の算定により過剰在庫の発生防止が重要と思われます。
執筆=多田恭章
(一社)租税調査研究会主任研究員。税理士・社会保険労務士
TOP総合会計事務所所長。元東京国税局調査部移転価格事前確認・調査担当、都内税務署国際税務専門官、東京国税局法人課税課、国税庁国際業務課(情報交換担当)を歴任。
監修・編集=宮口貴志
一般社団法人租税調査研究会専務理事・事務局長。株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役、TAXジャーナリスト、会計事務所ウオッチャーとして活動。元税金専門紙・税理士業界紙の編集長。