2023年も残すところ約1カ月。年が明けると、2月16日~3月15日まで2023年分の確定申告期間となります。個人事業主やフリーランスのみならず、確定申告が必要な方はなるべく早く2023年1月~12月の会計資料をまとめ、税務署に提出しましょう。
税務署というと、悪いことをしていなくとも怖いイメージがあり、「間違って申告したら調査されるのか?」「何か言われないか?」といった不安が少なからずあると思います。そんな不安を少しでも和らげられるよう、2023年分の確定申告に当たっての留意事項等を解説します。
2023年分所得税の主な改正点
2023年分の確定申告では、税制改正に伴う変更点があります。所得税だけでもいくつかありますが、ポイントは3つ。1つが、「住宅ローン控除の適用期限・借入限度額等の見直し」です。
金融機関などから借り入れを行い、個人がマイホームを取得(リフォームも含む)した場合、一定要件のもと住宅ローンの年末残高等を控除(住宅借入金等特別控除)できます。所得制限は2000万円です。
主な変更点は以下の3点です。
1.住宅ローン控除の適用期限を4年延長し、2025年12月31日までに入居した人が対象
2.2050年カーボンニュートラルの実現に向けた措置として、省エネ性能の高い住宅の取得を促す
3.控除率が「1%⇒0.7%」へ
計算式:住宅ローン控除額 = 年末時点での住宅ローンの残高 × 0.7%
さらに、住宅ローン控除の適用対象者の所得要件が改正前の3000万円以下から2000万円以下に改正されました。所得が1000万円以下の人の床面積要件も緩和されています。
この他、「居住用財産の買換え等に関する特例等の見直し」も行われています。これは、これまで住んでいた家を売却して新たに家を買い換えた場合、一定の要件のもと売却益を繰り延べできる特例です。具体的には「特例の適用期限を2年延長し、2023年12月31日までとする」、また、「買い換えた新築のマイホームが一定の省エネルギー基準に適合していること」です。同特例は売却にあたって利益のある人が対象になりますが、他に損失のある人についての規定の見直しも行われています。
2023年分の申告で注意したいのが、確定申告書類が一部変更になった点です。以下、変更ポイントです。
「確定申告書 第一表・第二表」 ⇒ 【変更】親族欄の書き方、住民税の欄
「青色申告決算書(青色申告)」 ⇒ 【新設】売上と仕入の明細欄、【増設】取引先の「登録番号」の任意記入欄
「収支内訳書(白色申告)」 ⇒ 【増設】取引先の「登録番号」の任意記入欄
青色申告決算書、収支内訳書については、適格請求等保存方式(インボイス制度)に対応した様式に変更されています。消費税を納税する方に向けて、消費税納税額を売上税額の2割に軽減するいわゆる「2割特例(※1)」の申告書も作成できるようになります。
(※1)簡易課税制度や「2割特例」の申告書を作成する場合、売上(収入)金額等の入力だけで税額等が自動計算されるようアップデートされています。
申告書等のどこを見ているのか?…
この数年はコロナ禍ということもあり、税務調査の件数がかなり制限されていました。例えば、コロナ前であれば所得税の実地調査(※2)は約7万件ありましたが、2022年11月に国税庁が発表した「令和3事務年度の所得税の調査等の状況」によると、実地調査件数は2万4000件と減っています。しかし、2023年5月から新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行したことを受け、税務調査もコロナ禍前に戻して実施されています。
(※2)「実地調査」とは、資料情報や申告内容の分析の結果、高額・悪質な不正計算や申告漏れ等が見込まれる個人を対象に実地に臨場して行う調査です。
そもそも税務調査とは、提出された確定申告書に不審な点や各種資料情報等から税逃れをしている可能性がある場合、不正を見つけ出すために行われます。税務署は取引等の全てを把握しているわけではないので、申告書や青色申告決算書(収支内訳書)を見ただけでは不正等の内容を見抜けません。
それでは、税務署は提出された確定申告書のどこをチェックしているのでしょうか?
税務署は、基本的に確定申告書第一表については計算誤りのあるものを除き、ほとんどチェックしません。所得税調査の選定で注視しているのは、「青色申告決算書(収支内訳書)」です。例えば売り上げが急増しているのに納税額が増えていない人、また、特定の経費が急に増えている人などをチェックしています。要は「収入」と「経費」が怪しくないか、お金の“入り”と“出”について、過去の申告状況や資料情報等と合わせて確認しています。
申告で注意すべきポイント
税務調査の着目点を逆から見れば、納税者の注意ポイントになります。前述したように、「青色申告決算書(収支内訳書)」は調査官が厳しくチェックする資料です。作成に当たっては特に留意すべきですが、注意点はどこでしょうか。
まず、売上関係としては、
①現金売上や掛け売上、あるいは単発的な取引に係る売り上げの計上漏れはないか。年末の売掛金や未収入金も収入金額に計上しているか。
②スクラップ売却収入、リベート、バックマージン等の雑収入計上漏れはないか。例えば家族名義等の預金口座等に入金されていないか。
③商品などを生活のための“家事”用に費消した分の計上漏れはないか。
売上原価についても確認しておきましょう。期末商品棚卸高に計上漏れはないか。店舗・工場以外の場所に保管している商品や期末前1カ月の間に仕入れた商品で期末までに売り上げとなっていない商品がきちんと在庫として計上されているかなどに注意しましょう。
続いて「経費関係」で注意すべきポイントです。
①人件費の過大計上。基本的には、“専ら事業に従事していない者”を専従者としていないか。例えば、個人事業者が生計を一にする親族に対して給料を支払っても、原則として、その金額は必要経費に算入できません。必要経費に算入できるのは、「その年の2分の1超の期間従事する」など、一定の要件を満たす必要があります。
②外注費の過大計上。例えば、本来給与とすべきものを外注費として処理している場合があるため、税務調査官は細かくチェックしています。
③必要経費として私的経費などを計上。私的な経費や家事関連費を経費計上していないか、調査官はチェックしています。
以上が所得税の税務調査でチェックされるポイントです。適正申告をしていれば税務署も怖くありません。正しい申告ができるように心がけたいものです。
執筆=一般社団法人租税調査研究会
一般社団法人租税調査研究会(https://zeimusoudan.biz/about)
法人税、源泉所得税、所得税、消費税、印紙税、資産税、酒税・揮発油税、関税、国際税務、公益法人、査察、事務訴訟などの各税務分野の国税出身税理士を招集し、会計事務所向けに相談・教育等を手掛ける団体。現在、在籍する研究員・主任研究員は55名。会員会計事務所は約100会計事務所。
主な著書、『一冊ですべてわかる!暗号資産の税務処理と調査対応のポイント』(第一法規)、『国税OB税理士による 税務調査のすべて』(大蔵財務協会)、『加算税の最新実務と税務調査対応Q&A 判決・裁決・事例で解説』(大蔵財務協会)、『税目別ケースで読み解く!国際課税の税務調査対応マニュアル』(ぎょうせい)等多数。
監修・編集=宮口貴志
一般社団法人租税調査研究会専務理事・事務局長。株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役、TAXジャーナリスト、会計事務所ウオッチャーとして活動。元税金専門紙・税理士業界紙の編集長。