夏のボーナスの平均支給日は、大企業や製造業が6月中旬から7月上旬、中小企業やサービス業が7月上旬から中旬となっています。ボーナスの査定期間は、前年10月から当年3月までの業績や勤務態度をもとに行う企業が多く、企業によって異なるようです。
税務職員をはじめ国家公務員の夏のボーナス支給日は、法律で規定されている6月30日です。2024年は6月30日が日曜日であるため、直前の金曜日に支給されます。査定期間は前年12月1日から当年5月31日です。
今年は6月から定額減税が始まり、1人当たり所得税3万円、住民税1万円の合計4万円が減税されます。対象は納税者本人だけでなく、扶養家族も含まれます。扶養家族とは未成年の子ども、パートやアルバイトをしている家族であれば、合計所得額が48万円以下(給与収入のみであれば103万円以下)の人をさします。定額減税は、6月の給与だけでは満額の減税ができない場合、夏のボーナスでも同様の手続きが行われます。2024年夏のボーナスの1人当たりの平均支給額は前年比+2.9%の増加が見込まれますから、定額減税の恩恵も加わり手取り額が上がったという実感があるかもしれません。
通常の社員へのボーナスは、労働協約または就業規則に定めていれば、経営状況が悪化した場合などを除いて毎年決まった時期に支給します。一方で「決算賞与」は、企業の業績に応じて金額を決定します。臨時ボーナスのため、必ず決算期に支給するものではありません。
ボーナスは経費として扱うことができ、法人税を計算する上で、売り上げから差し引けます。つまり企業は節税につながるわけです。例えば9月決算法人で今期の売り上げアップが見込まれ、その恩恵を社員にも十分に享受してもらいたいなら、業績に応じてボーナスの支給額をプラスアルファする方法があるのです。社員のモチベーションアップにつながる可能性があり、会社は節税が図れたとなれば一石二鳥です。
夏のボーナスだけでなく、「決算賞与」でプラスアルファするという方法もあります。ただ、決算賞与は決算が確定する直前に支給を決めるため、実際の支給は決算後になる場合があります。決算後に支給する決算賞与は通常であれば当期の損金に算入できませんが、一定の要件を満たせば未払いの決算賞与を当期の損金として計上でき、節税効果が見込めます。
期末に1億円の利益が見込まれ、実効税率を30%と仮定し、決算賞与を支給しない場合と、決算賞与を合計2000万円支給した場合の節税額を簡易的にシミュレーションしてみます。
決算賞与を支給しない場合の法人税等の金額
└利益1億円 × 法人税率30% = 3000万円
決算賞与を合計2000万円支給した場合の法人税等の金額
└利益8000万円 × 法人税率30% = 2400万円
決算賞与を合計2000万円支給した場合は利益が2000万円圧縮され、結果として600万円の法人税を安くできます。
決算賞与の注意点は先述のとおり、本来であれば賞与は「支給日の属する事業年度の損金」として扱います。年度内に支払いが間に合わず、翌期にずれ込む場合は、「支給するすべての社員に支給額を年度内に通知すること」「決算日の翌日から1カ月以内に支払うこと」「当期に損金経理をすること」という3つの要件を満たした場合に限り、当期の損金となります。このように支給が翌期となる場合はハードルが上がるため、極力その年度内の支給が望ましいと思われます。
決算賞与の支給を決めた時点で前述の3つの要件を満たしていても、実際に支給する際に誤った方法をとると当期の損金として認められない場合があります。税務調査が行われ損金算入が否認されると、実際に支給した日が属する年度の損金となり、当該年度は「追徴課税」が発生してしまいます。
会社としては、キャッシュフローの側面から注意が必要になります。例えば、決算申告後には納税義務があり、決算賞与を支給するとキャッシュが減るため、来期の事業に影響が出る場合があります。また、決算賞与も社会保険料の対象となるため、社会保険料の会社負担額分のキャッシュが減少します。このように、決算賞与を支給する場合は、将来の資金繰りなども考慮して賞与の額を決めなければなりません。
なお、社会保険料に関しては、決算賞与の支給後に通常の賞与を支給した場合と同様、支給日から5日以内に「被保険者賞与支払届」「賞与支払届総括表」などの書類を日本年金機構または各健康保険組合に提出する必要があります。
役員への決算賞与は原則経費で落とせない
決算賞与で注意したいのが役員への賞与です。がんばったからといって、社員と同様にあわてて決算賞与を支給しないようにしましょう。というのも、社員に支給する賞与は損金になりますが、取締役などの役員に支給する賞与は原則として損金にはならないからです。
ですが、役員に支給する賞与を損金に算入する方法があります。それは、「事前確定届出給与」という制度の利用です。役員賞与を「事前確定届出給与」として損金算入するには、支給時期や支給金額をあらかじめ株主総会で定め、税務署に届け出なければなりません。届け出通りに支給した場合に限り損金となりますから、事前確定届出給与は、予想以上の利益が出たときの節税策としては使えないでしょう。
役員扱いといっても、最近は「執行役員」という肩書が増えました。「取締役執行役員」ではなく、単なる「執行役員」という方です。執行役員は取締役とは異なり、会社法などにおける役員には該当しません。ですから、執行役員であれば決算賞与を支給できるケースがあります。ポイントは、執行役員が税務上の役員、いわゆる 「みなし役員」 に該当するかです。
取締役会を設置している会社は取締役会で重要な経営の意思決定を行い、その決定に基づいて代表取締役が業務を執行します。執行役員は代表取締役の下で業務を執行しますが、取締役ではないので取締役会での重要な経営の意思決定には参加しません。そのため、基本的には執行役員は税務上の役員には該当しません。
ただし、会社経営の重要な意思決定に参加している場合は「みなし役員」として、税務上の役員とみなされます。取締役会において形式的には議決権がないとしても、実質的に経営意思決定に参加している、経営意思決定に強い影響力を持っているなどの場合も、「みなし役員」と判断されます。執行役員が税務上の役員にならない場合は、執行役員に支払う報酬、給料、賞与、ボーナスなどは、従業員に支払うものと同様にすべて会社の損金にできます。
まとめ
執行役員に支払う給与は、原則として他の従業員と同様に会社の損金になりますが、経営に参加するなど税務上の役員に該当する場合は、損金扱いを制限されます。これらも考慮しながら業績を踏まえ、決算賞与を出すか否か、検討していく必要があります。繰り返しになりますが、業績が好調なときに賞与を支給すれば、節税に加えて社員の士気の向上を期待できるというメリットがあります。一方で、多少多めに税金を納めても社内に資金を留保し、会社の成長を見据えて翌期に設備投資などをしていくという選択もあります。会社の将来にとってどちらが望ましいか、十分に検討しましょう。
執筆=一般社団法人租税調査研究会
*一般社団法人租税調査研究会(https://zeimusoudan.biz/about)
法人税、源泉所得税、所得税、消費税、印紙税、資産税、酒税・揮発油税、関税、国際税務、公益法人、査察、事務訴訟などの各税務分野の国税出身税理士を招集し、会計事務所向けに相談・教育等を手掛ける団体。現在、在籍する研究員・主任研究員は56名。会員会計事務所は約100会計事務所。
監修・編集=宮口貴志
一般社団法人租税調査研究会専務理事・事務局長。株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役、書店の丸善が運営する「丸善リサーチ」のアドバイザー、TAXジャーナリスト、会計事務所ウオッチャーとして活動。元税金専門紙・税理士業界紙の編集長。