3月も半ばを過ぎ、3月決算法人の経営者および経理担当の皆さんは決算対策(=節税対策)で頭を痛めておられるのではないかと思います。脱税はともかく、税法などで認められている各種方法の実行により納税額を減らすことは、納税者に認められた当然の権利といえるでしょう。
本稿では、中小企業向けの主な決算対策を紹介します。併せて課税当局目線でのチェックポイントもお伝えします。
決算賞与の支給
決算対策としてまず頭に浮かぶのが、決算賞与の支給(未払い金計上も可)でしょう。費用として計上できる金額も大きい上に従業員からも喜ばれます。ただし、期中に支給した場合はともかく、資金繰りの関係などから未払い金に計上した場合には、債務として具体的に確定しているかが調査時のチェックポイントとなります。
法人税基本通達(以下、法基通といいます)9-2-43では、決算日後1カ月以内の支給や全使用人に各人別に支給額を通知するなどの要件が定められており、特に後者の要件の充足を巡って問題となるケースが多いため、しっかりと記録を残しておく必要があります。
分掌変更による役員退職金の支給
退職金は退職の事実があって初めて損金に算入できますが、退職の事実がなくても同様の事情にあると認められる場合には、特別に退職金の損金算入が認められる制度があります。それが、「分掌変更による役員退職金の支給」であり、分掌変更とは役員の職務の変更や仕事の分担が大きく変更することをいいます。
例えば常勤役員が非常勤役員になったり、取締役が監査役になったりした場合が典型とされていますが、分掌変更の判断に際しては実質が重視されます。分掌変更に伴って給与が大幅に減額されるなどしても、引き続き経営上の主要な地位を占めているような場合には、役員退職金として損金算入はできないこととなります(法基通9-2-32)。
短期前払費用の活用
会計上、前払費用は支出時には資産計上し、役務提供時に損金に計上していくのが原則的な取扱いです。税務において一定の要件に該当する場合は、「短期前払費用」として支出時の損金算入が認められています(地代家賃、リース料、賃借料、保険料など)。
《短期前払費用となる要件(法基通2-2-14)》
①支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものであること
②支払った金額を継続して支払った日の属する事業年度の損金の額に算入していること
上記要件をクリアするためには、利益が出たから当期だけ1年分支払うというような場合は調査で利益調整と認定される恐れがあり、継続的に年払いとする必要があります。
また、3月決算の場合、3月に4月分~翌年3月分を支払えば適用できますが、3月に5月分~翌年4月分を支払った場合は①の要件に当てはまらず、適用できませんので注意が必要です。
少額減価償却資産の購入…
翌期購入予定の少額減価償却資産があれば、期末までに購入すると有効に節税できます。特に資本金1億円以下の中小企業者(大企業の子会社等を除く)は、一事業年度で合計300万円まで、30万円未満の減価償却資産を損金算入できます(下表参照)。
なお、ドローン、足場、LED電球など少額の減価償却資産を大量にレンタルする節税手法への対策として、令和4年度税制改正で、全額損金算入等の対象資産から貸し付けの用に供した資産を除外する(主要な事業として行われる貸し付けを除く)とされたので留意してください。
対象法人 | 資産の取得価額 | 貸し付け用以外 | 貸し付け用 |
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全ての法人 | 10万円未満 | 耐用年数に応じた期間で償却or全額損金算入 | 耐用年数に応じた期間で償却 |
10万円以上 20万円未満 | 耐用年数に応じた期間で償却or3年間で均等償却 |
中小企業者等 | 30万円未満 | 耐用年数に応じた期間で償却or全額損金算入(300万円限度) | 耐用年数に応じた期間で償却 |
不要・不良資産の廃棄・除却
棚卸資産を含めた事業用の資産で不要となっているもの、不良と認められるものがあれば、見極めを行った上で確実に処分を行えば費用計上が可能となります。特に法人税特有の取り扱いとして、一定の要件に該当する場合には、実際に処分しなくても「有姿除却」として損失に計上できます。
ただし、廃棄する場合は第三者発行の証明書類を入手したり、除却する場合は内部の検討資料を作成したりしておかないと、後日、税務調査においてトラブルの基になります。
《有姿除却が認められる要件(法基通7-7-2)》~次のいずれかの場合~
①現在使用しておらず、今後も事業で使う可能性がないと認められるもの
②特定の製品生産のための金型等で、その製造を中止したため将来も使用する見込みがないこと
法人向け生命保険等の活用
法人向け生命保険は「定期保険」「養老保険」「第三分野保険」など、貯蓄性のない掛け捨てのものから死亡・満期いずれの場合も保険金が支払われる貯蓄性の高いものまで、さまざまな商品があります。
税務の取り扱いにおいて、全額損金算入できるタイプであれば決算対策としても有効ですが、過去に「節税商品」と呼ばれるものが数多く出回った結果、法人税関係通達の改正が幾度となく行われました。一部商品については、保険金受取人や最高解約返戻率等の区分に応じて一定額を資産計上する取り扱いとなっているため注意が必要です(法基通9-3-4~9-3-6の2)。
むすびに
まだ間に合う中小企業向けの主な決算対策を紹介してきましたが、税務調査において、期間損益を巡る項目は重要なチェックポイントです。税制等を熟知した上で実行した決算対策を調査で否認されないために、決算時における準備として、支出の必然性や処理の妥当性についてしっかり記録を残し、将来の主張・立証の場に備えておくことが肝要と思われます。
執筆=深澤英雄
税理士 深澤英雄税理士事務所所長 (一社)租税調査研究会主任研究員
主に東京国税局調査部で活躍。連結納税制度・調査に精通する。東京局調査部審理課主査、東京国税不服審判所審査官、東京局調査部課長補佐、税務大学校教授、新宿税務署副署長、東京局調査部統括国税調査官(連結納税担当)、広島国税局浜田税務署長、千葉西税務署長等を経て2017年7月退職、同年8月税理士登録。
監修・編集=宮口貴志
一般社団法人租税調査研究会専務理事・事務局長。株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役、TAXジャーナリスト、会計事務所ウオッチャーとして活動。元税金専門紙・税理士業界紙の編集長。
*一般社団法人租税調査研究会(https://zeimusoudan.biz/about)
法人税、源泉所得税、所得税、消費税、印紙税、資産税、酒税・揮発油税、関税、国際税務、公益法人、査察、事務訴訟などの各税務分野の国税出身税理士を招集し、会計事務所向けに相談・教育などを手掛ける団体。現在、在籍する研究員・主任研究員は56名。会員会計事務所は約100会計事務所。