そもそも隠岐は、肉牛の元となる子牛の生産が盛んな土地柄。ただし肥育は有名産地を販路に持つ畜産農家が手掛けることが多く、生まれた子牛は8カ月~12カ月と小さいうちに、島を離れて本土へ送られていました。4島合わせて年間約1200頭が生まれ、肥育後に隠岐牛として市場への流通が許されるのは、その10%程度。日本食肉格付協会(JMGA)が肉牛1頭ずつに付与する等級のうち、上物とされる「5等級」「4等級」に限られます。
「幻の牛肉」とまでいわれる隠岐牛を筆者が知ったのは、2014年。隠岐4島のうち2番目に小さい島・中ノ島へ移住した友人の縁でした。それ以来、中ノ島を町域とする「隠岐郡海士(あま)町」と公私共に深く関わるようになり、2016年9月には海士町へ移住しました。
来島したばかりの私に、島の人々からよく投げかけられるのが「隠岐牛、食べた?」という質問。島では漁業も盛んですから「魚がおいしいでしょう?」ともよく問われます。新鮮な魚とともに隠岐牛の味も、自慢の1つに育ってきているようです。
今回ご紹介するのは、島と本土を結ぶフェリーが発着する菱浦港のすぐ近くにある「島生まれ島育ち 隠岐牛店」。こちらでは、隠岐牛を焼肉、しゃぶしゃぶ、すき焼きで味わうことができます。
さらりと溶ける「サシ」のコク
まずは隠岐牛を焼肉でいただきましょう。オーダーしたのはメニューの筆頭にある「特選三品盛り」(2800円)です。その日の仕入れに合わせて、店がお薦めの部位を盛り合わせてくれます。
この日はホルモン類もお薦めということで、皿の上には5種類の部位が並びました。脂身(サシ)の入り方が美しいのが隠岐牛の特長です。工夫された肥育のたまものだといいます。舌に乗せるとさらりと溶けて、コク味がじんわり。しつこさを感じることはありません。タレでまったり味わうもよし、あっさりとワサビじょうゆで味わうもよしといったところでしょうか。
脂身のうまさに思わず追加した「特選モモ肉」(1600円)は、塩でいただくことで、さらにあっさり感を味わえます。同店が食卓に用意してくれる塩は、島特産の「海士乃塩」。島内・保々湾の海水を使い、伝統的な手仕事で作られています。
脇役にするのは惜しい海鮮メニュー
海鮮メニューも負けてはいません。なぜなら、島の漁協が誇る特殊な冷凍システム「CAS」の恩恵を受け、1年を通して旬と変わらぬ食感・味覚で提供しているからです。私が選んだのは特産の「白いか」(ケンサキイカ)。丸焼き(700円)でいただきます。好みの焼き具合まで火が通ったところでスタッフに声を掛けると、鮮やかな手付きで食べやすい大きさにさばいてくれます。
もう1つ、地元の人がぜひにと薦めてくれた食材「めかぶ」(700円)も注文しました。皿の上では灰褐色ですが、火を通すと鮮やかなヒスイ色に変化します。その瞬間が食べ頃です。どちらも海が澄んでいるせいか、生臭さをほとんど感じることなく、食材そのものの味わいを楽しむことができました。
ぜひ「1129(いい肉)の日」に!
「本場」で味わった隠岐牛は、首都圏や関西など本土でも味わうことができます。提供している店の少なさは、「幻の牛肉」ならではといったところでしょうか。8月には東京でのアンテナショップ的な役割を担う「銀座 Cotohi(ことひ)」もオープンしました。いい肉の日をきっかけに、特別な日はぜひ訪れて舌鼓を打っていただきたいところです。
・隠岐牛を提供している店のリストは、こちらで確認ができます。
http://www.oki-shiokaze.co.jp/eat/#rest
・取材店
島生まれ島育ち 隠岐牛店
http://okigyu.com
島根県隠岐郡海士町大字福井1368
隠岐汽船「菱浦港」徒歩1分
11:00~13:30、17:00~22:00(L.O.21:00)
水曜定休
08514-2-1522
銀座 Cotohi
http://cotohi.com
東京都中央区銀座6-5-17 銀座みゆき館ビル3階
JR「有楽町」銀座口徒歩6分、東京メトロ「銀座」B9出口徒歩2分
11:30~15:00(L.O.14:00)、17:30~23:00(L.O.21:30)
日曜・祝日定休
03-6264-5029(要予約)