福岡で麺類といえば、ラーメンというイメージがもっぱら。街を歩くと、そこかしこにラーメン店の看板が上がり、それぞれに我が店の味をアピールしているのが目に入ります。
しかし地元では、「福岡っちゃあ、ラーメンもよかけど、やっぱりうどんばい」と言い切る「うどん派」も多数。よく観察してみると、年代物の看板やのれんを掲げるうどん店が、通りのあちこちに見られます。
中洲川端から天神にかけての繁華街には「因幡うどん」「大福うどん」「かろのうろん」などの老舗が並びますが、今回は、「飲んだ後のシメにはここ!」と地元の人に勧められた、24時間営業のうどん店「弥太郎うどん」へ参りましょう。
福岡春吉・三光橋交差点にひときわ目立つ「弥太郎うどん」
うどん発祥の地・福岡
そもそも福岡は、うどん県・香川(讃岐)やそばで有名な長野(信濃)よりも、うどん・そば店で働く従業員数がナンバー1の市域※です。国内うどんの歴史は、博多駅近くにある寺院・承天寺の開祖・聖一国師が、鎌倉時代の1241(仁治2)年に、中国から製法を持ち帰ったことに始まるとされています。承天寺の境内には「饂飩蕎麦発祥之地(うどんそばはっしょうのち)」と刻まれた石碑があるほどです。
もちろん異説もあります。例えば香川県では、讃岐ゆかりの僧・空海が平安時代に、同じく中国からうどん作りに適した小麦の栽培方法と製麺技術を伝えたとする説を推していますし、五島うどんが有名な長崎県では、遣唐使の時代にうどん文化が伝わったとしています。いずれにしても、西日本の各地でうどんに親しむ機会が醸成されていったに違いありません。
※福岡市「さすがは、うどん・そば発祥の地!」データでわかるイイトコ福岡(H26.3.28)
http://facts.city.fukuoka.lg.jp/data/udon-soba/
福岡うどんは「かけ」が基本
うどん県のブランド力で国内を席巻している讃岐うどんは、「釜揚げ」「釜たま」などの食べ方で知られるように、うどんそのものを味わう食べ方が人気を集めています。
一方、福岡のうどんは、器になみなみとダシ汁を張って食べる「かけ」が主流です。これは、福岡の気候が背景にあると考えられています。実は、福岡は日本海に面していることもあり、冬の気候はなかなか厳しく、曇って寒い日や雪がちらつく日も多いところなのです。うどん、ラーメンのほか「かしわ水炊き」「ふく鍋」などの鍋ものが名物になっているのもうなずけます。
三光橋に輝く「うどん」の誘惑…
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街道筋の24時間営業なので、客足が絶えない[/caption]
今回お邪魔する「弥太郎うどん」が店を構えるのは、中洲川端にも天神にも近い、庶民的な飲食店街・春吉エリアの北西に位置します。東西に走る国体道路が、那珂川の支流・薬院新川をまたぐ三光橋のたもとです。地下鉄でいうと、七隈線のターミナル・天神南駅近く。福岡市民が愛用する西鉄バスの系統が多数集まる春吉バス停も至近です。
店舗は、小さな3階建て雑居ビル1階。店構えは大きくない店舗ですが、角地という立地にあるため「弥太郎うどん」と書かれた電光看板が目立ちます。黄色地に黒々とした墨文字が、これまた夜に行き交う客の食い気を誘っているかのようです。
三大定番「丸天」「ごぼう天」「かしわ」
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終電間際でかっこむ客や、おでんをつまんでゆっくりする客などいろいろ[/caption]
青いのれんをくぐって店に入ると、店内は5坪ほど。カウンターのみで10人も入れば満席です。福岡のうどん店では三大定番とされる「丸天」(420円)や「ごぼう天」(440円)、「かしわ」(540円)が、メニューに並びます。
丸天とは、魚のすり身を平たく揚げた「さつま揚げ」のこと。ならば「ごぼう天」は、おでんの具材でもおなじみのゴボウを巻いたさつま揚げかといえば、さにあらず。ささがきにしたゴボウに衣を付けて揚げたものをいいます。
かしわは、鶏肉を甘辛く煮付けたもの。鶏肉自体をかしわといいますが、うどんをよく食べる福岡県ならではの具材です。
「やさしさ」を提供したいから
今回、注文したのは「かしわ」。店によってはフレーク状に細かく裂いて提供するところもありますが、弥太郎うどんでは大きな身がゴロゴロ。うどんのお供に「いなり」(160円)も注文しました。皿の上に小ぶりのいなりずしが2つ乗っています。
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今回のオーダーは、540円のかしわ。味がしみてダシ汁との相性が最高(左写真)、カウンター上に並ぶいなりもチョイス(右写真)[/caption]
強いコシが持ち味の讃岐うどんとは対称的に「コシがない」のが福岡のうどんの特徴とされますが、弥太郎うどんも同様です。創業50年になる店を切り盛りする女性スタッフによると「さっと湯がいて、さっと提供できるから」とのこと。確かにその通りで、うどんをいただいている間にも、入れ代わり立ち代わり来る客を待たせることがありません。
営業している24時間のうち、最もにぎわう時間帯は「昼よりは深夜。それも終電間際」と女性スタッフ。名だたる繁華街の中洲川端に接しているだけあって、一杯飲んだ帰りの酔客はもちろんのこと、かいわいで働く飲食店のスタッフにも夜食として愛されているようです。
24時間営業の理由を聞くと、「この街で働く人にとってやさしか存在でありたいから。いつでもうどん食べてって!ってね」と女性スタッフ。うどんは食べずにおでんの皿を並べ、ビールのグラスを傾ける常連客に「胃にやさしかけん、うどんもね」と声を掛けていました。ちょうど終電の時刻を迎え、店はいっそうにぎわい始めます。
※文中にある金額はすべて税込価格です
弥太郎うどん
https://tabelog.com/fukuoka/A4001/A400103/40010167/
福岡市中央区渡辺通5-1-18
地下鉄七隈線「天神南」6番出口より徒歩1分
24時間営業(土曜夜の営業は翌朝6時まで)
日曜・祝日定休
092-761-4155