カツ丼と聞いて多くの人が思い浮かべるレシピは、卵とじ。だし、しょうゆ、砂糖などを合わせた割り下でタマネギをメーンに野菜を煮立てたところへ揚げたトンカツを切り分けてから加え、溶き卵でとじるというスタイルです。しかし、日本を見渡せば、卵とじではない魅力的なカツ丼もたくさんあります。
卵とじのカツ丼は、東京・早稲田にあるそばの老舗・三朝庵が1921(大正10)年ごろに考案したのが始まりで、その後、国内各地へ広まったという説が有力です。他説でも発祥を東京とすることが多く、卵とじスタイルのカツ丼は東京風といえるでしょう。このイメージが、ドラマや映画、漫画などでもおなじみになっています。
ところが、卵を使わないカツ丼もあります。愛知や岐阜では、八丁みそのタレを使う「ミソカツ丼」が郷土食として知られています。長野の伊那地方や福島の会津地方、福井などでは、カツをウスターソースに浸してからトッピングする「ソースカツ丼」が名物ですね。新潟には、ウスターソースがしょうゆに変わる「タレカツ丼」も見られます。
岡山では、ソースカツ丼がよく食べられていると聞きました。ただし、使うソースが独特です。サラリとしたウスターソースではなく、濃厚なとろみが特徴的なデミグラスソースなのです。これを揚げたてのカツにたっぷりとかけて提供する「デミカツ丼」がご当地食になっています。
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1系統東山行きに乗車して、「県庁通り」停留所で降車しましょう[/caption]
デミカツ丼を食べるなら、店選びから。岡山駅構内にも店がありますが、どうせなら老舗の味を求めたいところです。おかやまデミカツ丼マップ(提供=おかやまデミカツ丼応援隊)を開いて狙いを定めたのが、表町にある「やまと」。聞けば「濃厚でプルリとしたソースの加減が際立つデミカツを提供している」のだとか。まずは岡山駅の東口(後楽園口)へ降り立ちます。
大型ショッピングセンターの進出でにぎわう駅前から、路面電車に乗って4つ目の停留所「県庁通り」で下車します。地元百貨店や老舗が並ぶ岡山屈指の商店街「表町」の入り口にあたる停留所の1つです。周辺は、県庁などの官公署が集まるエリアでもあり、出張で使えそうなホテルも多数あります。
漂う香りは「あのソース」
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食欲を誘うデミグラスソースの香りが辺りに漂う「やまと」[/caption]
停留所から西へ入って2本目の通りへ行くと、漂ってくるのは「デミグラスソース」の甘い香り。長円形の看板にある「やまと」の屋号を確かめつつドアを開けると、店内には、カウンター8席に6人掛けのテーブルが3つ。
ランチのピーク前ということもあり、客足はぼちぼちでしたが、創業した1948(昭和23)年以来、地元の根強いファンも多いとのこと。実はもともとがラーメン店で、現在も中華そば(730円)は、カツ丼(780円)と並ぶ看板メニュー。店の看板に洋食を示すフォークとナイフのほか、丼の絵が描かれているのも納得で、いずれも創業時から伝わるメニューです。なお、店では「デミカツ丼」ではなく「カツ丼」と称していることに注意が必要です。
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中華そばのバリエーションも多く、地元に愛されている店です[/caption]
見た目は濃厚、味わいさっぱり
他のメニューには目もくれず注文を入れ、カツが揚がる音を聞きながら待つことしばし。入店前に誘われた甘い香りがより濃厚になってテーブルに近づいてきました。
小ぶりの丼に盛られた白飯にヒレ肉とバラ肉2種類のトンカツ。一杯で両方を食べ比べられることには驚きました。衣についた揚げ色は薄めで、軽やかな印象です。そこへデミグラスソースがたっぷり。
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和風ベースのとろみがユニークなソースです[/caption]
洋食では牛肉や牛骨がベースですが、やまとでは、中華そばにも使っている昆布とかつお節がベースのだしにケチャップなどを加え、注文が入る度に独特のとろみが出るまで小鍋で煮立て提供しています。すなわち和風のデミグラスソース。店内では「ドビソース」という通り名を使います。
丼の上には、グリーンピースの彩りも。「(創業が)戦後すぐじゃし、味はご飯に合わせて和風でも、見た目はソースもトッピングも西洋風のハイカラな感じがもてはやされたんじゃろうね」とは店主の弁。居合わせた常連客らしき妙齢の女性も「見た目よりあっさりじゃけん、若(わこ)うはのーなっても食いとうなる味じゃ」と言葉を添えます。
正午を過ぎると、店内は満席に。「中華そば」「カツ丼」「やきめし」(730円)「カレー」(780円)と、次々に入る注文の声を背中に聞きながら店を後にしました。
※文中にある金額はすべて税込価格です
やまと
http://www.shokudou-yamato.com
岡山市北区表町1-9-7
路面電車「県庁通り」より徒歩3分
11:00〜19:00(15:00〜16:00はデミカツ丼の提供なし)
火曜定休
086-232-3944