全国各地で梅雨入りが発表される初夏のこの時期。築地には、知る人ぞ知る夏季限定メニューがあることをご存じでしょうか。冷汁そばです。提供するのは江戸そば御三家のうち、更科系の流れを引く「築地 布恒更科」(ぬのつねさらしな)。今回は、疲れた胃腸に優しく、しかも食べ応えのある「鯵の冷汁そば」をご紹介します。
お店の場所は、日比谷線の築地駅から徒歩3分ほど。築地本願寺を横目に、すぐ先の交差点を晴海通り沿いにまっすぐ銀座方面へ。1つ目の信号を右に入ると、比較的見つけやすい場所に「築地 布恒更科」はあります。外のにぎやかさとは対照的に、暖簾(のれん)をくぐるとしっとりと落ち着いた和の空間です。
この店の一番人気は「もり(外二)」(900円/大盛り230円増・のりかけ100円増)。外二(そとに)とは、そば粉10につなぎ(小麦粉)2の割合で配合したそばのこと。こだわりを店主・伊島始さんに伺うと「更科の確かな技術を受け継ぎながらも、提供するそばは、お客さまが求めるもの、そして自分が食べておいしいものであることを大切にしています」とのこと。
そばは中太。毎朝お店で丁寧に打たれており、そばの風味が良く、コシが強いのが特徴です。味のしっかりしたつけ汁にもよく合います。薬味は、定番のねぎ、わさびにおろし大根が付いた3種で、最後まで飽きることなく味わえます。もちろん、ザ・更科の白いそばを食したい向きは「御前更科」(1000円)や十割の「生粉打ち」(1150円)が選べます。
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こうじ味噌のコクと鯵の香ばしさ、香味野菜が一体となっただし汁[/caption]
お目当ての鯵の冷汁そば(1650円)は、このそばを具だくさんのつけ汁に絡ませていただく夏の定番メニューです。信州から取り寄せたこうじ味噌をベースにしたつけ汁で、味は少々辛め。辛口好みの江戸っ子も満足させる味わいです。具は、鯵の干物を焼いてほぐした身に加え、豆腐、大葉、みょうが、きゅうり、ねぎが入っています。冷汁といえばサラサラしたスープの食感ですが、こちらの冷汁はドロッとした食感。具材とそばとが絡み合い、ひと口、またひと口と箸の進みが止まりません。
「お豆腐を崩しながら召し上がってみてくださいね。よりおいしく食べられますよ」との声かけに従って、木綿豆腐を崩しながら食べ進めました。なるほど、そばとの絡みがいっそう良くなり食べ応えが増すわけです。こうした、ちょっとした声かけをしてくれるのも店の魅力の1つに違いありません。
半分ほど食べ進めたら少し変化をつけて、薬味のおろし生姜を加えてみましょう。生姜がアクセントとなり、また違った味わいが楽しめます。最後に温かいそば湯で割っていただくと再度雰囲気が変わり、締めにぴったりのお汁が味わえます。
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そばと一緒にすすり上げる、ここだけの夏の味[/caption]
喉越しさっぱり「すだちそば」は女性客に大人気
このほか、季節ごとに旬の野菜などを更科そばに練り込んだ「季節の変わりそば」というメニューもあります。伝統を守りながらも、その時々に来店されたお客さまを楽しませたいという店主の心意気が感じられます。
「どんどん新しいものをというのでもなく、自分が本当に“うまい”と思えるそばだけを出したいと思っているんですよ」と店主。飾らない姿勢もそばのおいしさを物語っているようです。
取材で訪れたときには、夏野菜・トマトを練り込んだ赤いそば「トマト切り」(1200円)のほか、「トマト冷しすだちそば」(1430円)というメニューがありました。女性客に人気の「すだち」と「トマト切り」の組み合わせが、トマト冷しすだちそばとのこと。
運ばれた器には、こんなに?と感動するほどたっぷりの輪切りすだちが乗り、キュンと鼻をくすぐる酸っぱさとあいまって、食べる前から心が躍ります。
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人気の「すだちそば」にトマト切りを合わせた「トマト冷しすだちそば」[/caption]
かつおだしの効いた、透き通った冷たい汁は、口当たりのいいそばとの相性がぴったり。食欲が落ちるこの時期に、すぐ売り切れてしまうというのもうなずけます。
「薄口じょうゆと白じょうゆを合わせただし汁は、飲む汁と絡める汁を半々にイメージし、さっぱりしたバランスを大事にしています」という店主の言葉通り、一面のすだちにもかかわらず皮の苦味が一切なく、酸っぱ過ぎず、むしろ飲み干せるほどスッキリした味わいになっています。
なぜ、こんなに色が濃いそばが打てるのかを尋ねると「そもそも変わりそばが打てるのは更科ならでは。更科のそばは白いでしょ。だから色付きがいいんですよ」と店主。なるほど!合点がいきました。確かに、ベースに白いそばがあってこその技なのですね。
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透き通ったかけ汁によく合う、赤い「トマト切り」[/caption]
築地という地の利を生かし、市場でじかに仕入れた季節の魚介や野菜をカラッと揚げた天ぷらも定評の「築地 布恒更科」。オリンピック選手村予定地の晴海も銀座も、腹ごなしにちょうどいい徒歩圏内です。日々進化している築地かいわいの今を、ランチついでにご自身で体感してみるのもオススメです。
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手打ちそばと旬の味が楽しめる「築地 布恒更科」[/caption]
※文中にある金額はすべて税込み価格です
※掲載している情報は、記事執筆時点(2018年6月)のものです
築地 布恒更科(ぬのつね さらしな)
東京都中央区築地2-15-20
日比谷線築地駅徒歩3分・東銀座駅より徒歩5分、大江戸線築地市場駅より徒歩6分
[月~金]11:00~15:00(L.O 14:40) /17:00~21:00(L.O 20:40)
[土]11:00~15:00(L.O 14:40)
日曜・祝日定休
03-3545-8170