昭和のムードを色濃く残す老舗カレー店・カツヤは、難波西部の湊町エリアにあります。その店構えから地元に“愛されてる感”がビンビン伝わってくるカレー専門店です。この店の名物は、看板にも銘打つ「とんかつカレー」。
半端ない“老舗感”の店構え
包丁の音も高らかに
最寄りのJR難波駅からは徒歩5分ほどの立地。味にこだわり創業50余年、「元祖とんかつカレー カツヤ」の文字が大きく看板に躍ります。
入り口へ近づくと聞こえてきたのが、トントンとリズミカルかつ高らかに響く包丁の音。店へ入ってすぐ右手の厨房では、2キロはありそうな豚の枝肉をスライスしてまな板の上に広げ、包丁の背でたたいて筋を切る作業に集中している店主・奥田誠志さんの姿がありました。
「豚は枝肉でもこれくらい。併せて扱っている牛肉だと、枝肉の重さが5キロから10キロになるので、狭い厨房では作業できるスペースの確保が大変」と話します。
カツカレーならぬ「とんかつカレー」の元祖
4番テーブルはおひとり様に人気
早速、とんかつカレーB(豚の上ロース肉を使用/1400円)を注文しました。トッピングには生卵(50円)をチョイス。関西でカレーのトッピングといえば定番の組み合わせです。おひとり様がよく選ぶという4番テーブルで待つことしばし。
フロアスタッフの声が厨房へ飛ぶとすぐさま、揚げ油の音が「ジューッ」。とんかつは、オーダーが入ってから1枚ずつ揚げるので、待ち時間の食い気も上がります。
「店内で使う肉は、スライスから筋切り、衣付け、揚げのすべてが手作業で調理」と奥田さん。手間でも肉は枝肉に限ると話し、「そもそも、うちのカレーはあくまで『とんかつカレー』。元祖を名乗るにも理由がある。ぜひ一般的なカツカレーとの違いを味わってほしい」と胸を張ります。
同店は、1959(昭和34)年に洋食一般を提供するグリル「カツヤ」として奥田さんの父上が開業。カレー好きが高じて工夫を重ねたカレーライスが名物になり、さらにはとんかつカレーの提供に至りました。
以来50年以上を経て、看板や日よけテントなどの店構えは大きく変わりましたが、店内はほぼ当時のまま。デコラ調のテーブルや合皮貼りのチェアなど、昭和の高度成長期を思わせる内装です。
調理法に「元祖」の工夫…
[caption id="attachment_24184" align="aligncenter" width="420"]
生卵(50円)をトッピングしたとんかつカレーB(1400円)[/caption]
とんかつカレーBの登場です。皿の上には、固めに炊き上げたライスととんかつ、生卵、黒に近い焦げ茶のカレールーが、たっぷりと盛り付けられていました。
見た目は一般的なカツカレーと同じようでも、調理法には工夫があります。「小鍋に取った自家製のルーに適量の水分と揚げたてのとんかつを入れてから一煮立ち。ライスの上へ移しています」と奥田さん。小鍋を使って1食分ずつ作るところは、まるで親子丼や卵とじのかつ丼のようです。
では、ルー、ライスと共にとんかつを口に運んでみましょう。調理法に合わせてしっかりと揚げた衣には、スパイスと野菜の風味が香る軽めのルーがたっぷりと染み込んでいました。それでも衣は、ぐにゃりと崩れずサクサク感をキープ。丁寧な仕事ぶりを感じます。
当時はスパイシーな風味が敬遠されていたとのことで、カレーは全体的にマイルドな味わいです。その代わりにガラムマサラやウスターソースなどのテーブルスパイスが用意されています。半分ほど食べた後は、テーブルにあるスパイスを適量加えてからトッピングの生卵とともに皿全体を混ぜ合わせ、ガンガンとスプーンで口に運ぶことにしました。
[caption id="attachment_24183" align="aligncenter" width="300"]
健康ドリンクのようですが、テーブルスパイスの1つ[/caption]
ルーの熟成、数年がかりで
では、とんかつと並んでメインのルーはというと、下処理から熟成、提供までにかなりの時間をかけています。
ルーの材料は、野菜が主体。まずはニンジンとセロリ、ショウガ、ニンニクなどを形がなくなるまで深鍋で煮込みます。出来上がった野菜のピューレは、少しずつフライパンでいためてはペースト状になるまで火を入れます。
炒(い)り上がったら容器に収め、店独自の手法で熟成へ。熟成には、野菜がもともと含んでいた水分の量や繊維質の具合にもよりますが、「ざっと2年から3年はかけている。具体的な年数は秘密」と奥田さんは話します。
熟成が終わったペーストに香辛料と小麦粉を加えていためたら、自家製ルーの完成です。「自家製ルーのレシピも、先代・父が編みだしたもの。父から私へと受け継いできたが、当時と今とでは野菜の質が良くも悪くも違ってきている。変化に合わせて、レシピにも少しずつ手を入れています」(奥田さん)
肉はヒレからロースへ変化
話は戻ってとんかつも、提供当初とは客の好みに合わせて肉選びも変わってきたといいます。当初はヒレ肉のみの提供でしたが、現在では脂身と赤身のバランスに優れ、食感が柔らかい上ロースでの提供がメインになっています。
現在のとんかつカレーは、注文したBのほか、ロース肉を使うサービスメニューで同A(980円)や、昔ながらのヘレ(ヒレ)肉を使うC(1600円)のほか、BとCには豚1頭からわずかしか取れない同店特選の枝肉を厚切りにしたBW・CW(各600円増し)もあります。
奥田さんも「次回は、ぜひ『ヘレ』を。今となっては硬めの歯ごたえがありますが、ごちそう感や満腹感はかえって大きいですよ。私たちに気遣いせず、テーブルスパイスも好みでじゃんじゃん使ってください」と勧めてくれました。
※文中にある金額はすべて税込み価格です
元祖とんかつカレー カツヤ
大阪市浪速区元町2-6-25
「JR難波」南口徒歩5分
10:30~20:30
日曜定休
06-6631-8988