大きな話題となった築地市場の豊洲移転。予定より2年遅れた2018年10月、豊洲市場がようやく開場しました。これにより、築地市場は1935(昭和10)年から続いた歴史に幕を下ろしました。ですが、商店街の築地場外市場は今も変わらず営業を続けています。
場外の最も北端・築地四丁目交差点近くにある鳥藤分店は、築地市場の移転前と変わらぬ人気です。朝7時30分の開店を前に、店頭にはすでに行列ができていました。座席数16(カウンターのみ)に対して行列は15人ですので、開店と同時に入店できそうです。
到着して待つこと15分余り。「お待たせしました!お待たせしました!」という掛け声とともに開店しました。入店した客から次々に入る注文は、全員が名物の親子丼(800円)でした。
鳥藤分店の親子丼は、1日がかりで煮込んだ鶏白湯スープに濃い口しょうゆと砂糖、みりんをたっぷり利かせた東京流の甘辛いタレがベース。使う鶏肉はもちろん「鳥藤」(築地でも知られた鶏肉卸)が調達した銘柄もの。国内産の若鶏もも肉をふんだんに使っています。
親子丼に欠かせない卵は、長年にわたり築地で“隣人”だった鶏卵卸から仕入れたもの。煮立てたときに、黄身が濃いめのオレンジ色に仕上がる卵を特に選んでいるといいます。味わいのみならず見た目も濃厚なタレとのバランスを考えてのことだとか。一方では、タマネギなどの野菜を入れず、薬味も三つ葉のみ。鶏と卵の親子をメインに味わえるシンプルな構成です。
うんちくはさておき、実食です。客足が途切れない中、席の回転も速いようで、かき込むように親子丼を味わった客はすぐ席を立ち、行列していた客が入店。親子丼の注文が飛ぶように入り、調理場は早くもフル回転の様相を呈してきました。
まずは一口。ジューシーなもも肉は期待通りのしっかりとした歯応えです。肉を包む鶏皮は、とろけるような風味。甘辛いタレの味わいを柔らかく包む卵の煮立て具合も絶妙でした。
なお鳥藤分店の親子丼には、塩風味の「しお」「しお二号」(各900円)もあります。どちらもしょうゆを使わず、塩で味付けしたタレが特徴です。「しお」はユズをたっぷり搾って、「しお二号」はあっさりとした鶏白湯に代えて濃いめのかつおだしをアクセントに利かせて、それぞれ提供しています。いずれも夏場に常連客のリクエストから生まれた塩分補給メニューです。
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次々に入る注文をさばく厨房の様子[/caption]
分店ルーツは「とり弁当」
ところで……鳥藤分店の屋号には、小さくですが「鳥めし」という文字が入っています。現在の看板メニューは親子丼で、注文のほぼすべてが「しお」「しお二号」を含めた親子丼になっているようです。なぜでしょうか?
「もともと鳥藤分店は、鳥藤から派生したテークアウトの弁当店でした」と社長の鈴木昌樹さん。旧市場関係者を目当てに、現在の親子丼に使っているものと同じ調合のタレで甘辛く炊き上げた鳥めしを弁当として提供してきたといいます。
「鳥めしもいいけど、もっと温かいものも食べさせてほしいという声が上がるようになって」(鈴木さん)、生まれたのが親子丼だったのです。当初は裏メニューで弁当と同じくテークアウトのみでしたが、次第に評判を呼んだことから、戦後すぐの頃に「場外市場(現在地とは異なる)に店を構えて、腰掛けで食べられるようにした」と話します。
現在の「鳥めし」は900円(テークアウト可)。鶏白湯で炊き上げたご飯に鶏そぼろをまぶし、もも肉の照り焼きとぼんじりの煮込みを乗せて、甘酸っぱく煮詰めたきんかんとししとう、はじかみしょうがを添えています。
「親子丼の陰に隠れていますが、すぐ近くの銀座・三原橋にある歌舞伎座で公演があるときは、楽屋弁当として大量の注文が入ることもあります」と鈴木さん。豊洲に市場が移っても「以前にも増して支えてくれるお客さまがある限り、鳥藤ののれんを築地から下ろすわけにはいかない」と話していました。
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店内でも味わえる「鳥めし」弁当。テークアウトの場合は樹脂製容器に入る[/caption]
※文中にある金額はすべて税込価格
鳥めし 鳥藤分店
https://www.toritoh.com/contents/category/branch/
東京都中央区築地4-8-6
東京メトロ日比谷線「築地」1番出口徒歩4分
7:30~14:00
日曜・祝日、休市日(主に水曜)定休
03-3543-6525