東京都北区・王子は、2024年度から刷新される新1万円札の顔、「渋沢栄一」が晩年を過ごしたエリアです。日本資本主義の父とも称される渋沢は、ご存じNHK大河ドラマ「青天を衝け」の主人公。吉沢亮さん演じる篤太夫(渋沢栄一)が欧州巡歴で社会と経済の仕組みに触れ、ドラマはいよいよ明治時代へ。大阪の近代化に尽力する五代友厚(演者:ディーン・フジオカさん)の動向も気になりつつ、これから日本が大きく変革していく見逃せない局面に向かっています。
新たな変化を恐れず、時代に合わせてチャレンジを続けた渋沢らしく、初めて目にする食べ物にも目を輝かせる姿はドラマ内でも印象深く描かれています。調べてみると渋沢は、栄養豊富な「オートミール」を毎朝好んで食べていました。この逸話を題材に街おこし的なフードイベント※が北区で開催されているということで、王子駅周辺へ向かいました。見つけたのは「141 OUJI TABLE」。店では<渋沢メニュー>と題して、オートミールのパスタを提供しています。
※ 2021年12月26日まで開催の「渋沢×北区 渋沢栄一が愛した北区グルメフェア」。「141 OUJI TABLE」ほか、北区の飲食店が参加しています。企画は、東京商工会議所 北支部
広く明るく、ナチュラルモダンな内装の「141 OUJI TABLE」
渋沢ゆかりの地にどっぷりと浸る
晩年の渋沢が過ごした飛鳥山には、3つの博物館(渋沢史料館、北区飛鳥山博物館、紙の博物館)があり、北区飛鳥山博物館では「青天を衝け」の大河ドラマ館が2021年12月26日まで開設中。ドラマのファンなら、ぜひここまで足を運んでみてください。
目的の「141 OUJI TABLE」は、この飛鳥山からJR線を挟んだ向かい側、ボウリングのピンが目立つ王子駅前の商業施設「サンスクエア」の3階にあります。
この敷地内で公開保存されている石碑には、旧王子製紙(王子ホールディングス、日本製紙の源流)の歴史と共に、創業を主導した渋沢栄一の名が刻まれていました。「141 OUJI TABLE」も「サンスクエア」も日本製紙の100%子会社に当たる「日本製紙総合開発」が運営しています。短時間で“渋沢詣で”に浸るには絶好のロケーションといえるでしょう。店と渋沢とのつながりを知ったところで、早速、オートミールパスタをめざして入店してみます。
王子駅前のランドマーク「サンスクエア」の3階に「141 OUJI TABLE」がある
サンスクエア敷地内にある「洋紙発祥の碑」。ここを訪れるなら、渋沢栄一とこの地の関係もしっかり見ておきたい
開業から1周年、コロナ禍をものともしない店づくり
「親会社が製紙会社なので“木と緑”をコンセプトにしているんですよ」と店長。店の開業が2020年8月と聞き、それはさぞかし苦労され、オープンも迷われたのでは……と突っ込んでみました。
店長「会社直営レストランを、という話はコロナ禍前から進めていた企画なので、それによってオープンを先延ばしするなどは考えませんでした。“美味しい食と笑顔を届け、人々の健康と豊かな暮らしに貢献する”と営業理念に掲げて、コロナ禍だろうとイチからのこと、むしろブレずに進められました。曜日や時間帯で工夫しながら、今のところ、多くのみなさまにご来店いただけています。まだ1年目ですし、コロナ前後の比較はできませんけどね(笑)」
健康を掲げる店の料理は、冷凍食品や化学調味料を一切使用せず、朝から料理人が心を込めて仕込んでいるといいます。店のコンセプトに沿ったしゃれたインテリアも、手作り料理の優しさと共に、安らげる雰囲気づくりに一役買っているようです。
フロアはどこも明るく、駅側の一般席はJRの新幹線や電車がよく見える。4人以上で訪れるなら円卓が囲める個室利用がおすすめ(※コース事前予約のみ/個室代金なし)
地域密着の姿勢で、お客さまの喜ぶ味を提供…
いよいよ期待の<渋沢栄一メニュー>、バジルとチーズのオートミールパスタ(1100円)が運ばれてきました。皿が近づくとバジルのとてもよい香りが鼻腔(びこう)をくすぐります。
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涼しげなルックスと爽やかなバジルの香りが食い気をそそる[/caption]
箸で食べやすい短めの麺の量は一皿で200g強、乾麺とはいえ、まるで生パスタのようにモッチリとした食感にびっくり。アクセントに松の実を加え、風味豊かなバジルソースをあえたシンプルなパスタですが、チーズが適度に絡んでいるからなのかコクがあって食べ応えがあります。
訪問日は平日のお昼、オートミールパスタには本日のデザートとして杏仁(あんにん)豆腐が付いてきました。喉越しなめらか、ひとさじ口に運ぶごとに、汗をかいた体に甘みが染み込んでいく心地です。サッパリとした食後感、飛鳥山散策で食い気が上がった腹を十分満たしてくれる一皿でした。
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スーパーフードとして近年注目のオートミールにプロテインを練りこんだ麺。体に気を使っている人にもおすすめ[/caption]
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手作りの杏仁豆腐。甘さ控えめ、後味サッパリでとても美味[/caption]
オートミールにプロテインを配合したという栄養満点のパスタは、東京23区で唯一の乾麺メーカー「玉川食品」さんが開発したもの。玉川食品さんも北区にあり、宮内庁の食堂用うどん、宮中祭祀(さいし)「新嘗祭(にいなめさい)」の奉納用うどんも製造している老舗です。「141 OUJI TABLE」開業当時からの付き合いもありますが、玉川食品さんでオートミールを配合した麺を完成させたと聞いた店舗開発スタッフが、渋沢にちなむメニューにと、この乾麺を採用したそうです。
そもそも地場産の食や健康食にもこだわりが深い「141 OUJI TABLE」、ランチメニューにはこの他、区内製造のトキワソースを使ったコラボメニュー「北区名物ソース焼きそば」(880円)などがあり、地域を盛り上げようという心意気が感じられます。
サンスクエアの敷地内にある「北区の自販機」にも、地場産品がいっぱい。お土産によさそうな渋沢コラボの商品を含み、オートミールパスタの袋麺もここで買えます。店舗開発スタッフいわく、これも日本製紙総合開発の発案とのこと。コロナ禍に苦しむ地域のために何かできないかと考えて設置したそうです。ここにも、地域や商売人を大切にした渋沢の精神が受け継がれているのを感じました。
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サンスクエア入り口脇にある地場産品が詰まった自販機[/caption]
「士魂商才」を掲げ、新しい時代を切り開いた渋沢栄一。次の出張は、渋沢の世界に浸れる北区王子で、渋沢のように「甚だ美味!」と新しいパスタを楽しんで食べてみてください。コロナ禍に青天を衝く名案が思い浮かぶかもしれませんよ。
この記事が最後の連載となる「出張で楽しみたいおひとり様グルメ」。飲食店には逆境が続いていますが、それでもなお努力を惜しまない経営者が街にはたくさんいます。食べ歩きをしながら、街の活力は地域の食文化に支えられていると感じられました。それを微力ながら、読者のみなさまに伝えられていれば幸いです。では、また街のどこかで。
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大河ドラマ館仕様で客を迎える、北区飛鳥山博物館のエントランス[/caption]
※文中にある金額はすべて税込み価格です
※掲載している情報は、記事執筆時点(2021年8月)のものです
◆店名/[141 OUJI TABLE] (イチヨンイチ オウジテーブル)
◆住所/東京都北区王子1-4-1 サンスクエア3F
◆電話番号/03-5933-6955
◆アクセス/JR京浜東北線 ・地下鉄南北線「王子」駅、都電荒川線 「王子駅前」駅 徒歩1 分
◆営業時間/ 平日ランチ 11:30~15:00(L.O.14:00)
土・日・祝日ランチ・ディナー 11:30~19:00(L.O.18:00)
※緊急事態宣言中、当面の間、平日ディナータイムは休業。同期間、アルコール提供中止。
◆定休日/不定休日あり
※営業時間・定休日など、予告なく変更する場合があります(店舗までお問い合わせください)
◆web サイト
https://141oujitable.com/
◆Instagram
https://www.instagram.com/141oujitable/