最近、よく「はやりのタピオカミルクティーをウーバーで頼んだ」とか、「お気に入りの店の料理を頼める」などと話題に上る「Uber Eats(ウーバーイーツ)」。簡単に言うと、マクドナルドやケンタッキーなどのファストフードも好きな時間に玄関先まで届けてもらえる出前サービス、といったところだ。
ウーバーイーツで出前を頼むには、スマホにアプリをインストールする。ユーザー登録の後、届けてもらいたい場所(スマホの現在地でもOK)を設定すると、お届け可能な店が、所要時間や配送手数料とともに一覧表示される。ユーザーはお店とメニューを選び、配達場所と希望時刻を入力するだけだ。支払いもクレジット決済ならキャッシュレス、アプリのみで完結する。もちろん、現金での決済も可能だ。注文するとアプリに配達員の名前と顔写真が表示され、位置が地図上で確認できる。
出前というシステム自体は古くからある。最近だと、「ガスト」「銀のさら」「ドミノピザ」など、デリバリーサービス付きのレストラン、もしくはデリバリー専門のチェーン店も多くなった。だが、ウーバーイーツのお店のラインアップは独特だ。近所のレストランや飲食店に加え、マクドナルドや牛丼店、はなまるうどんなど、普段デリバリーサービスを行っていないファストフード、さらには1点から頼める(チェーン店のサービスは1回の注文が1500円以上など、制限がある場合が多い)のが特徴だ。ウーバーイーツを提供する「ウーバー」が、デリバリーを代行している。飲食店では負担が少なくデリバリーサービスを行え、登録する飲食店も増えつつある。
実はウーバーイーツで料理を運んでいるのは、お店の従業員でもウーバーイーツの社員でもない。いわゆる“一般人”が、空き時間を利用して働いている。「パートナー」として登録すると、スマホに依頼が届き、料理を運ぶことで収入が得られる仕組みだ。
都内ではウーバーイーツのロゴが入った大きなリュックサックを背負い、自転車やバイクにまたがる若者の姿をよく見かける。これがウーバーイーツの「パートナー」だ。ウーバーイーツで働くには、まずウーバーイーツアプリやウーバーのサイトで、「Uber パートナー」として登録する。登録ページには、「好きな時間に働いて報酬を得ましょう」とある。
パートナーは、自分の自転車、バイクなどの乗り物を利用して働く。乗り物のない人は、レンタルを利用してもよい。Webサイトで登録したら、各地にあるパートナーセンターで本登録の後、説明を受ける。例の大きなリュックサックもそこで受け取る。仕事の方法は、働きたい時間に、対象エリアでスマホアプリをオンライン状態にして待機する。通知が来たら指示に従ってお店に行き、料理を受け取り、注文者に届ける。終わったらアプリで完了操作を行う。報酬は週ごとに支払われ、基本料金(受け取り、受け渡し、距離で計算され、手数料が差し引かれる)の他、地域や曜日、時間帯、天候、回数などでボーナスが付く。
このように、空いた時間を利用して自由に稼げるシステムが、学生やフリーター、主婦などに人気だ。収入はもちろん、運動やダイエット、ボーナスシステムがゲーム感覚で面白い、パートナーとして働く自由なスタイルがカッコいいなど、さまざまなところに魅力を感じるのだという。
こうして、好きな食べ物を好きな時間に届けてもらいたいユーザーと、負担が少なく料理を届けて商売を拡充したい飲食店、好きな時間に働いて収入を得たいパートナーという三者を結びつけるサービスがウーバーイーツなのだ。
配送の常識を変える
そもそも「ウーバー」は米国の企業であるウーバー・テクノロジーズが運営する、世界中の600以上の都市と500以上の空港で展開する配車システム。一般的なタクシーの配車に加え、一般人が空き時間と自家用車を使って乗客を運んで収入を得る仕組みを提供する。日本でのウーバーは、2014年にサービスを開始したが、国土交通省から「自家用車による運送サービスは白タク行為に当たる」とされ、サービスを中止。イベント会場への送迎など一部にとどまり、現在に至る。
ウーバーイーツは、そのフードデリバリー版に相当する。日本では2016年9月に東京都の一部でサービスを開始。現在では東京都区内ほぼ全域をはじめ、名古屋市、大阪市、京都市、福岡市など、各地でサービスが拡大しつつある。
筆者は米国でのウーバーの配車サービス開始当初から、一般人が空き時間を利用して収入を得られるパートナーシステムに注目していた。筆者のように物書きという本業を持つ傍ら、空き時間を利用して、副収入や運動不足解消、ダイエットなど利益を得られたらいいな、と思っていた。ただし当時の日本の状況などから、そんなシステムが国内で普及するのは夢の夢だと思っていた。
最近のこのウーバーイーツフィーバーは、IT網の整備やスマホの普及が一役買っている。働く側のユーザーが、ブログなどで登録方法や働くときの注意、収入を上げるコツなどの情報提供も多数行われ、その勢いがうかがえる。
なお、10月からの消費税率アップに伴う軽減税率に、デリバリー(出前)やウーバーイーツでも最近始まったピックアップ(持ち帰り)が対象となっている。税率アップ後も低い税率で利用できるわけだ。今後、さらにこうした出前サービスへの需要が増える可能性は高い。
課題の克服でさらなる広がり期待
ウーバーイーツの出現で、人々の働き方も変わっていくだろう。通勤せずに、自宅で仕事をする、自由な時間に働く、定職を持たずさまざまなジャンルで才能を生かす、子育てや介護の傍らで働くなど、一人ひとりが生き生きと働きつつ、社会的には労働力不足を補う。
ただ、新しいビジネスに問題は付き物だ。例えばウーバーイーツのパートナーは、ウーバーから独立した自営業者として扱われる。そのため、申告は自身で行う必要がある。さらに備品やサービス地域までの交通費は自己負担となる。さらに安全やリスクマネジメント、乗り物の維持管理、健康管理も自分で行わなくてはならない。現状、パートナー一人ひとりが自覚を持って行えているかどうかは疑問が残る。
事故が起きたときの保障は原則、デリバリーを行っている間のみ、など限定的だ。パートナーは、会社のような長期的な社員教育を受けていない。問題を起こした場合、誰が責任を取るのか、保障はどうするのか、一部の人が泣き寝入りするような状態になりはしないかなどの懸念もある。
とはいえ、こうした新しい発想やITを利用した新しいシステムが、みんなの明るい未来をつくっていくのは間違いない。ウーバーの本業、配車サービスについても今後動く可能性がある。他の企業も参入してくるかもしれない。今後の動向に注目だ。