今回、近年の個人情報を扱う機会の増加、個人情報に対する意識の高まり、技術革新を踏まえた保護と利活用のバランス、越境データの流通増大に伴う新たなリスクへの対応の観点から改正が行われた。改正の内容についての詳細は、個人情報保護委員会の「令和2年 改正個人情報保護法について」「令和3年 改正個人情報保護法について」を参照するとよい。
一般的に個人情報保護法と呼ばれるが、「個人情報の保護に関する法律」が正式名称だ。施行は2005年。全文は「個人情報の保護に関する法律」から参照できる。
第1条には、高度情報通信社会の進展に伴い個人情報を扱う機会が増えてきた事情から、個人情報を適切に取り扱うべく、基本理念、政府による基本方針、個人情報の保護に関する施策の基本事項、国及び地方公共団体の責務、個人情報を取り扱う事業者の遵守すべき義務などを定める、とある。さらに、個人情報の適正で効果的な活用が、新たな産業の創出、活力ある経済社会、豊かな国民生活の実現につながるものであることと、個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的とすると記述されている。
個人情報保護法における「個人情報」とは、生存する個人に関する、氏名、生年月日その他の記述により特定の個人を識別できる情報と、個人識別符号をさす。個人識別符号は2017年の改正で加えられたもので、身体の一部の特徴を電子計算機のために変換した符号(顔、虹彩、指紋など)および、サービス利用や書類において対象者ごとに割り振られる公的番号(旅券、免許証、保険証、基礎年金番号、マイナンバーなど)をいう。
「個人情報保護法の基本」によれば、個人情報保護法は「個人の権利・利益の保護と個人情報の有用性とのバランスを図るための法律」であり、「基本理念を定めるほか、民間事業者の個人情報の取扱いについて規定」するものとされる。
注意すべきは、個人情報保護法に反していると判断された場合、懲役や罰金などの罰則を受けることになるところだ。違反が疑われる場合には、報告を求められたり立ち入り検査が行われたり、勧告・命令が出されたりすることにも注目しておこう。
なお、法令そのものを理解するのは敷居が高い。個人情報保護委員会の「マンガで学ぶ個人情報保護法」や、24時間個人情報保護法についてAIが質問に答える「PPC質問チャット」も理解の助けになる。
定期的に見直し改正される。今までの歴史と内容
個人情報保護法の成立と改正の主な経緯は、「個人情報保護法の成立及び改正に関する主な経緯」が詳しい。
コンピューターやネットの進化に伴い、個人情報の扱いについて各国が独自に法律やガイドラインを制定してきたものの、国ごとに差があると情報流通の際に問題が生じる。1980年にOECD(経済協力開発機構)が定めた「プライバシー保護と個人データの国際流通についてのガイドラインに関する理事会勧告」に記述された8原則が、世界的な個人情報保護の考え方の基本となった。
日本では、1988年の「行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律」が日本初の個人情報についての法律。1998年の「プライバシーマーク制度」が民間による日本初のガイドラインとなる。
1999年、個人情報保護に関する法律について、法制化の検討に着手。2003年「個人情報の保護に関する法律案」が成立、2005年に施行となった。「OECD8原則と個人情報保護法の対比」から、個人情報保護法がOECD8原則に基づいているのが分かる。
2015年の改正(2017年施行)で、ほぼすべての事業者に個人情報保護法上の義務が課されるようになった(それまで事業活動に利用する個人情報が5000件以上の事業者が対象)。個人情報に顔や指紋などの個人識別符号が加わったのもこのタイミングだ。さらに、個人情報の保護に関する国際的動向、情報通信技術の進展などを踏まえ、3年ごとの見直し規定が設けられた。
個人情報保護委員会は3年ごとの見直しについて、2019年4月に中間整理として「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しに係る検討の中間整理」を、12月には個人情報保護法の3年ごと見直しの内容を取りまとめた「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直し 制度改正大綱」を公表。さまざまな意見を踏まえ、今回の法改正に至る。なお、4月の改正が3年ごとの見直しにおける初の改正となる。
個人情報保護はどんどん強化される傾向に
時代の変化に合わせて個人情報保護法が作られた。さらに3年ごとに見直される。個人情報保護法の2回の改正でペナルティーが引き上げられたことからも、個人情報保護が国民の経済発展や安心できる生活に欠かせない重要事項になってきたといえる。
ちなみに個人情報保護法は、具体的な義務が書かれているのは事業者のみとなる。行政機関などの義務についてはそれぞれのガイドラインが存在する。こうした事情から、国内には2000個も個人情報についての条例などがある状態となっている。さらには個人情報を守りながらも有益性は活用する理念に拡大解釈がなされ、国税調査や安否確認に関する情報提供の拒否、学校の連絡網が作れない、などの諸問題も発生している。
個人情報保護法に関しては、「常に変化+煩雑な事情」を踏まえ、慎重な解釈と行動が必要だ。事業者には個人情報保護委員会の「中小企業の皆様(中小企業サポートページ)」が、頼りになる。なお、民間による相談窓口やソリューション、プライバシーポリシー作成サービスもあり、必要に応じて活用するとよいだろう。
個人情報関連で事件になると、今や情報はすぐに拡散、下手をすると信用失墜、企業生命を脅かす事態につながりかねない。コロナ禍で再流行し始めたエモテット、ランサムウエアも個人情報を狙う。日々流れるニュースも”明日は我が身”なのを肝に銘じておこう。