最近よく聞く「メタバース」(Metaverse)という言葉。「Meta(超)」と「Universe(宇宙)」を組み合わせた造語だ。SF作家であるニール・スティーヴンスンの「スノウ・クラッシュ」(1992年発表)に登場し、その後、仮想空間サービスが実現した際に英語圏で主に用いられるようになった。
一般的には「仮想空間サービス=メタバース」とみてよいだろう。「多人数が参加可能で、参加者がアバターを操作して自由に行動でき、他の参加者と交流できるインターネット上に構築される仮想の3次元空間」と定義できる。利用者はパソコンやスマートフォン、VRデバイスなどから仮想空間にアクセスし、自分の分身としてのアバターで会話や交流を行ったり、ゲームをプレイしたり、さらには街や建物を散策、会議やイベントに参加したりする。
なお、コロナ禍において世界中で人気を博した、「Minecraft(マインクラフト)」(2011年リリース)、「FORTNITE(フォートナイト)」(2017年リリース)、「あつまれどうぶつの森」(2020年リリース)などのゲームも、メタバースの1つとして語られる。
昨年10月に、米フェイスブックのザッカーバーグCEOがオンラインイベント「Connect 2021」でメタバースについて語り、社名を「メタ」に変更すると発表した。2004年にフェイスブックを開始した同社。人と人とのつながりを中心とする流れのステップアップとしてメタバースに参入し、フェイスブックファーストからメタバースファーストに移行する考えを明らかにした。
加えてメタバースについて「人々があたかも同じ場所にいるように感じられる技術の実現と表現しながら、誰とでもつながり、どこにでもテレポートし、あらゆるものを創造し、あらゆることを体験できるようにする」と語った。締めくくりには「さまざまな体験を提供する手段を気兼ねなく構築できるオープンなプラットフォームを開発、想像力に駆動される巨大な経済を一緒に解き放ちたい」と思いを述べた。
メタは、昨年12月にメタバースサービス「ホライゾンワールド」の一般提供を米国とカナダで開始した。メタのVRヘッドセット「メタ クエスト2」から参加でき、日本では現在、「メタ クエスト2」を用いて各種ゲームおよび、ホライゾンワールドの一部であるVR会議室サービス「ホライゾンワークルームズ」(ベータ版)の利用が可能だ。
これらに加えて、ディズニーがメタバースに関する特許を取得したニュースも話題を集め、国内においても都市連動型メタバースとしての「バーチャル渋谷」が話題となった。バーチャル渋谷では、ハロウィーンフェスなど数々のイベントが開催され、大きな盛り上がりをみせた。
ゲームやライブ、買い物、商品販売、オンライン会議などの利用も
メタバースの世界では、アプリを起動しただけで現実世界を抜け出し、新しい世界を共有できる。好きなアバターで歩き回り、人と語り合う。オフィスで仕事や会議を行ったりすることも可能だ。また、ゲームやイベントに参加する、モノづくりや商売、投資なども行える。どこへでも一瞬でワープ、何でもできる自由な世界だ。
これらの実現に際し、その発展に大きく寄与したのは、VRヘッドセットとブロックチェーン技術を利用した「NFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)」による経済活動、とされる。
ヘッドセットについて言えば、メタはVRヘッドセット大手のオキュラス社を2014年に買収し、端末と仮想世界をセットで提供する体制を整えている。NFTについては、替えが効かない、唯一無二の価値をブロックチェーンによって証明する技術のことだ。従来、デジタルデータは容易にコピーや改ざんが可能なため、現物の宝石や絵画のような資産価値は認められなかった。しかし、デジタルデータにNFTを紐付けることで資産価値が生まれ、「NFTアート」などの取引が始まった。とある「NFTアート」が数十億円で取引されたニュースも耳に新しい。
ブロックチェーン技術を利用した仮想通貨は、地球規模で普及しつつあり、取引も広く行われている。仮想世界の黎明期からアイテムなどの売買や取引は存在したものの、できることは限られていた。仮想通貨+NFTで、デジタルデータはもちろん、仮想世界内のアイテムが、現実のアイテムと同等に流通する可能性はある。これらは今後、大きな市場になっていくかもしれない。
どのように動向を捉え、ビジネスに取り入れていくか
もちろん、生まれて間もない仮想世界は現実世界以上に課題を抱える。デジタルゆえのセキュリティやコンプライアンスの問題は常につきまとう。仮想世界内の取引にトラブルが生じたらどこに相談すればいいのか、法整備は、権利は、プライバシーはどうなっているのかなど、疑問は限りなく湧いてくる。
メタバースの現状に関しては、経済産業省が昨年リリースした「仮想空間の今後の可能性と諸課題に関する調査分析事業報告書」が参考となる。前回取り上げたデジタル庁の「デジタル社会の実現に向けた重点計画」にもメタバースやNFT、デジタル資産に関しての記述があるが、まだ調査研究段階であることは否めない。
メタバースはデジタルツインとともに語られることが多い。実験やシミュレーションが目的なデジタルツインに対し、メタバースは現実世界と同等もしくはそれ以上の「超現実世界」として、ビジネスチャンス含め無限の可能性を秘めている。