5月19~21日の日程で開かれた「G7広島サミット」。ウクライナのゼレンスキー大統領の参加などでも大きく話題となった。サミット冒頭の会合にて、生成AIについての議論が行われ、閣僚級による議論の枠組み「広島AIプロセス」において、国際的なルール作りを進めることで各国が合意した。
サミットでは、参加した7カ国の首脳が「首脳宣言」(コミュニケ)という文書を発表する。ここからAIに対する方向を探っていこう。「前文」には、「我々が共有する民主的価値に沿った、信頼できる人工知能(AI)という共通のビジョンと目標を達成するために、包摂的なAIガバナンス及び相互運用性に関する国際的な議論を進める」とある。本文には、「我々は、急速な技術革新が社会と経済を強化してきた一方で、新しいデジタル技術の国際的なガバナンスが必ずしも追いついていないことを認識する」「人工知能(AI)、メタバースなどの没入型技術、量子情報科学技術、その他の新興技術などの分野において、デジタル経済のガバナンスは、我々が共有する民主的価値に沿って更新し続けられるべき」とある。
この「民主的価値」で思い出すのが、4月29~30日に行われた「G7デジタル・技術相会合」だ。ここでは民主主義的な価値観に配慮する「人間中心の信頼できるAI」をめざすことで合意した。「閣僚宣言」には、「我々は、OECDのAI原則に基づき、人間中心で信頼できるAIを推進し、AI技術がもたらす全ての人の利益を最大化するために協力を促進するとのコミットメントを再確認する。我々は、民主主義の価値を損ない、表現の自由を抑圧し、人権の享受を脅かすようなAIの誤用・濫用に反対する」とある。
この点で、広島サミットのコミュニケに戻ると、「我々は、信頼できるAIという共通のビジョンと目標を達成するためのアプローチと政策手段が、G7諸国間で異なり得ることを認識しつつも、AIガバナンスに関する国際的な議論とAIガバナンスの枠組み間の相互運用性の重要性を強調する」とある。今後、「G7諸国間で異なり得る」アプローチや政策手段をどう方向づけまとめていくのか、また、信ぴょう性の面で課題の残るAIを、「責任ある」「信頼できる」ものにどう整えていくのか、気になるところだ。
また、コミュニケには「我々は、関係閣僚に対し、生成AIに関する議論のために、包摂的な方法で、OECD及びGPAIと協力しつつ、G7の作業部会を通じた、広島AIプロセスを年内に創設するよう指示する」とある。首相は以前「この分野はものすごいスピードで変化している。国も様子を見ていることでは追いつかない」「スピード感を持って取り組んでいきたい」と発言している。今後、多様な角度からの議論が加速度的に進むものと思われる。
G7の成果は?
「G7広島サミット」後、国内では5月26日、生成AIについての政策方向性を議論する「AI戦略会議」の第2回会合が開催、現時点の主な論点が整理され、生成AIのリスクと利用・開発の促進について注力する必要性が訴えられた。松本総務相は、同日閣議後の記者会見において、「広島AIプロセス」の立ち上げとして5月30日に第1回G7作業部会をオンラインで開催すると発表。OECD、GPAIの協力も得つつ、政府内のAI戦略会議での議論も踏まえ、ガバナンスの在り方、知的財産権保護、透明性促進、偽情報への対策、生成AI技術の責任ある活用など諸課題に関するG7間の議論を、日本主導で進めていくという。
そんな中、OECDが生成AIに関する新たな指針を策定するとの報道も流れてきた。OECDのコーマン事務総長は、2019年に策定したAIに関する国際的な指針「AI原則」を見直し、「生成AIによって人々が悪い面にさらされないよう、正しい政策の枠組みを整備する」という。コーマン氏は「破壊的な技術革新には管理すべきリスクや課題がある」と話し、現行のAI原則では対応しきれない部分を見直す考えを示している。OECDはAIのリスク評価や影響分析などでG7とも協力し、指針づくりに生かすという。
OECDは、G7に加えてスペインやメキシコ、韓国など多くの国が加盟する。G7より幅広い枠組みで指針を策定できればより良いが、AIに対して規制を重視するEUと、慎重な体制をとるアメリカなど、対応が割れる国々をどうまとめていくかが、気になるところだ。
今後の行く末は、どうなるのだろうか
現状から考えるに、ネット上の膨大なデータを許可なく学んだAIを「責任ある」「信頼できる」ものに整えるのは、並々ならぬ手間と時間がかかりそうだ。また、G7やOECD、GPAIなどが提唱するのは、現状では拘束力のない「原則」に過ぎず、何らかの法規制があるわけではない。加盟国は原則に従い、法整備などの対策を行うが、これではなかなか足並みはそろわないだろう。
しかし、生成AIが身近になり、社会のさまざまな場面で使われ、影響も大きいゆえに、何らかの法規制を行うべきだという声は世界的に高まっている。EUにおいては、AIによる悪影響を抑制することを目的としたAI規制法案を検討中だ。欧州評議会(Council of Europe)も、法的拘束力のあるAI条約の策定に向けて動いているという。
日本でも、法を見直すべき面があるのではと考えている。例えば、デジタル化・ネットワーク化の進展への対応として2019年に改訂された著作権法だ。「人工知能の開発を行うために著作物を学習用データとして収集して利用したり、収集した学習用データを人工知能の開発という目的の下で第三者に提供したりする行為」が許可されている。国内でも、イラストなどの著作をAIに学習され、類似作品を生み出されることに危惧を唱える制作者は多い。生成AIが普及しつつある現在、時代に合わせて早急に法の見直しが必要と思う。
生成AIにより経済発展をめざす方向も忘れてはならない。経済産業省は5月30日、有識者による、半導体やデジタル産業の成長戦略を検討するための「半導体・デジタル産業戦略検討会議」において、生成AIの利活用に向けた産業戦略を新たに加えた「半導体・デジタル産業戦略」の改定案を示し、出遅れる生成AIの国内開発や人材育成を支援する方針を示している。
先日公開されたChatGPTアプリだが、偽物アプリも横行、ダウンロードには提供元の確認など、注意が必要といわれている。生成AIをかたるフィッシングサイトの存在も既に確認されている。こうした足元からの対策に加えて、将来やあらゆる可能性を見据えた展望が必要だろう。今後も生成AIの動向と、生成AIに対する動きに目が離せない。
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