このコラムでも何回かマイナンバーカード(以下「マイナカード」と略)について言及してきた。保険証や免許証の役目も担う方針や、マイナポイントの効果もあってか、5月28日時点のマイナカードの申請状況は8割に迫る状況だという。
余談だが、3月に私の親戚の集まりで、デジタル嫌いのいとこが「私でさえ作ったわ。みんなはどう?」と言い出し、マイナカードの話題になったが、そこにいた全員が交付を済ませていて驚いた。話を聞くと、従来の健康保険証が使えなくなる危惧から早急に作った、という。そんな折、コンビニの複合機で住民票の写しなどを交付するマイナカードサービスで、別人の住民票が交付されるミスがあったというニュースが届いた。
その後、住民票の誤交付は1件にとどまらずとの報道が相次いだ。加えて、印鑑登録証明書のコンビニ交付で抹消したはずの古い証明書が誤って交付される、公金受取口座の登録が同姓同名の別人と間違う、マイナポイントが誤って別人に付与される、健康保険証との一体化で他人の情報が登録されるなど、ミスはほとんどのサービスに及んだ。
岸田首相は5月26日、一連の事案について「重く受け止める必要がある」と述べ、同日の参院予算委員会で「信頼回復に向けて政府一丸となって対応する」と語った。また河野デジタル相は同日の記者会見で、「現在の誤り事案につきまして、既存のデータ・システムの総点検を行うとともに、新しい誤登録を防止するための対策を徹底」するとしている。
コンビニ交付については、開発会社にシステムの停止を伴う一斉点検を要請し、各自治体で順次実施中で、6月中旬までに終了予定だという。他のトラブルに関しても、総点検および自治体への指導などの対策を講じるという(利用可否は、「コンビニ交付」の「利用できる市区町村」から確認できる)。
「スマホ用電子証明書搭載サービス」については、5月11日から始まったサービスで、マイナカードと同等の機能をスマートフォン(以下「スマホ」と略)に持たせることができる電子証明書機能だ。サービスの概要は、「はじまります!スマホ用電子証明書搭載サービス」が詳しいので参考になる(現在はAndroidで利用でき、使える機種はマイナポータルから確認できる)。
しかし、サービス開始後間もなく、これに関連してある情報を目にした。「サービスに登録したスマホを売却した場合、通常の初期化だけでは、電子証明書が端末に残ったまま消去されないので注意が必要」という話だ。機種変更の際の旧端末をフリマやオークションに出す人も多いため、出品前に電子証明書の失効手続きを行うよう、サービス主催者が呼びかけているのだ。
公式情報としては、デジタル庁の「スマホ用電子証明書を登録しているスマートフォンの利用をやめるときの手続」を参照してほしい。冒頭に「スマホ用電子証明書を登録しているスマートフォンを売却や修理に出すとき、紛失したとき、盗難に遭ったときには、利用者ご自身で電子証明書を失効又は一時利用停止する必要があります」とある。つまり、フリマやオークション以外にも、中古ショップに売却するときや機種変更で下取りに出すとき、紛失、盗難に遭ったときなどは失効手続きが必要となる。また、修理や貸与などで端末が手元を離れる際は、一時利用停止の手続きを行っておくのがよいだろう。手続きの具体的な操作は「マイナポータル:スマホ用電子証明書の利用停止を行う(失効)」を参照しよう。
ただ、この電子証明書が初期化では消えないという点は、別の課題もはらんでいるのではと感じる。スマホは今や広範囲な年齢層に行きわたり、すべての人がスキルや情報を豊富に持っているわけではない。願わくば、デジタルに不慣れな人でも、簡易に登録や手続き、利用が行えて、かつ安全を保てる仕様にすべき、と思う。今のところ、私たちにできることは、こまめに情報をチェックし、状況を正しく判断して慎重に利用していくしかない。
「不具合の可能性を常に考える」という心構えを
1~2件のトラブルで、しかもすぐに対応し修正され事なきを得たならともかく、ここまでバタバタすると、ユーザー側の気持ちとしては不安が募る。こうした大規模なトラブルに対しての信用回復は、並々ならぬ努力が必要となるだろう。
そんな中、マイナカードの利用促進策を盛り込んだ改正マイナンバー法(「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律案」)が6月2日に参院本会議で成立した。マイナカードの利用範囲の拡大、マイナカードと健康保険証の一体化、氏名の振り仮名の追加などが盛り込まれている。現行の健康保険証は来年秋に廃止、1年間の猶予を付ける。以後、マイナカードがない人には「資格確認書」で対応する、という方針だ。
このトラブル続きのときになぜ、との声も聞く。ただし、マイナンバー制度は日本のデジタル化の重要な一歩だ。一連のトラブルは人為的なミスによるものも多い。マイナカードの目的は、さまざまな人為的なミスも減らすことでもあり、原因を究明して対策を練り、堅実に歩んでいくしかない。急速に進むデジタルの世界では、その場で足踏みをしていてはどんどん取り残され、さらにその遅れを悪意ある者に狙われる可能性もあり、トラブルに負けずに進む姿勢も不可欠だ。
この点で「改正法を着実に施行していくことで、マイナンバー制度の信頼の確保に努め、引き続き、デジタル社会基盤であるマイナンバーやマイナンバーカードの利活用拡大に取り組みます」という河野デジタル相のブログ記事が印象的だ。「人為的ミスのリスクを低減させるため、人が介在する機会を減少させるようデジタル化も推進していきます」という、デジタル化の趣旨や方向も頭に入れておこう。
デジタル庁は5月27日、「マイナンバーカード関連サービスの誤登録等の事案に関するご質問・ご不安にお答えします」というWebページを公開、マイナカードサービスの誤登録などについて、自身の登録状況の確認方法、問題を見つけた場合などの問い合わせ先、よくある質問と回答、などがまとめられている。こうした、ユーザーの不安や質問に対応する姿勢も好感がもてる。今後に期待したい。
私たち自身としては、マイナカードに関してはデジタル庁などの公式情報や、各種ニュースなどの情報を常にチェックし、常に不具合の可能性を想定しつつ、慎重に利用していこう。
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