最近よく聞く「デジタルアーカイブ」という言葉。元来、「アーカイブ」(archive、もしくは複数形の「アーカイブズ」)という言葉は、主に文書や記録を保存・保管すること、もしくはそれらの保管所を意味する。IT関連用語にも「アーカイブ」という言葉があり、主に文書や、メール、ウェブページ、画像、音声、動画などのデジタルデータ、紙の書類、書籍、写真などアナログ媒体をデジタル化したデータなどを整理し、保存・保管することをいう。その目的は、情報の整理、や検索性の向上、長期保存、バックアップ、法的要件の充足、歴史的価値の保持などにある。時に、容量や転送時間の節約、機密性の確保のため圧縮や暗号化が行われることも多く、圧縮または暗号化したファイルやファイル群を「アーカイブ」と呼ぶこともある。
では、本題に戻って「デジタルアーカイブ」について考えていこう。この言葉は、「デジタル」と「アーカイブ」を組み合わせた造語だが、ここでの「アーカイブ」は「文書や記録を保存・保管する」という元来の意味で、これに「デジタル」を付けて「デジタル技術を用いて作成されたアーカイブ」という意味となる。
デジタルアーカイブとして、公的な博物館や、図書館、文書館の収蔵資料はもちろん、自治体や企業、個人における文書、図版、画像、音声、映像など有形無形の知的資源をデジタルデータで記録し、クラウドなどに蓄積してネットワーク上での検索を可能とすれば、広く継続的に活用できる。そして蓄積されたデータは、研究や学習支援、地域の振興、防災、経済発展、新たなコンテンツの創作など多様な活用が可能となる。
2023年9月、デジタルアーカイブジャパン推進委員会・実務者検討委員会は「デジタルアーカイブ活動のためのガイドライン」を公開した。このガイドラインは「デジタルアーカイブに関心を持つすべての機関や個人がデジタルアーカイブ活動への一歩を踏み出し、さらにその活動を進める一助となるため」に作成されたものという。
このガイドラインでは、デジタルアーカイブを「人びとのさまざまな情報資産をデジタル媒体で保存し、共有し、活用する仕組みの総体」と定義するが、ここでの情報資産は、デジタルコンテンツの他、「メタデータ」(アナログ媒体の資料・作品も含むコンテンツの内容や所在に関する情報)および「サムネイル/プレビュー」(コンテンツの縮小版や部分表示)も含む、とする。
「デジタルアーカイブ活動」には、アーカイブ機関(博物館、美術館、図書館、文書館などの文化的施設、大学・研究機関、企業、市民団体、観光庁・地方公共団体など有形・無形のコンテンツを保有する機関・団体)にとどまらず、個人が創作活動などでデジタルアーカイブを活用したり、楽しむために閲覧したりする活動も含んでいる。
さまざまな機関や個人がデジタルアーカイブ活動に日常的に関わることで、教育、学術・研究、観光、地域活性化、防災、ヘルスケア、ビジネスなど多様な分野における活用が進み、社会における知識の生産と活用の循環が期待される点が期待されている。ガイドラインは、第Ⅰ章(「デジタルアーカイブ活動」をデザインする)と、第Ⅱ章(「デジタルアーカイブ活動」を自己診断する)から構成されている。ガイドライン本文が難しいと感じる場合は「概要版」を参照しよう。その他「デジタルアーカイブ活動のためのガイドライン(ウェブ版)」に、用語集、よくある質問、マニュアル、事例集なども用意されているので、適宜利用するとよいだろう。
活動の歴史。国ぐるみの「知的財産共有」の輪が広がる
日本のデジタルアーカイブは、東京大学名誉教授の月尾嘉男氏が1994年頃に「デジタルアーカイブ」という言葉を生んだことから始まるとされる。その後、月尾氏らが「有形・無形の文化資産をデジタル情報の形で記録し、その情報をデータベース化して保管し、随時閲覧、鑑賞、情報ネットワークを利用して情報発信する」という「デジタルアーカイブ構想」を打ち出した。
その後、IT機器やネットワークの発展とともに、博物館、美術館、図書館、大学、新聞社、放送局などが所蔵品やメディア作品などをデジタル化、アーカイブ化する動きが現れた。2001年には政府により「e-Japan重点計画」が立案され、「美術館・博物館、図書館等の所蔵品のデジタル化、アーカイブ化」が推進され、その後も情報化推進の施策が発表されてきた。
今回、紹介している「デジタルアーカイブジャパン推進委員会及び実務者検討委員会」の活動は2017年に始まる。その活動記録は、首相官邸の知的財産戦略本部「デジタルアーカイブジャパン推進委員会及び実務者検討委員会」の「取りまとめ」が参考になる。直近の動きは「3か年総括報告書 我が国が目指すデジタルアーカイブ社会の実現に向けて」における「概要」がわかりやすい。それ以前の活動は「デジタルアーカイブジャパン構築に向けた国の取り組みについて」を参照してほしい。
これらによると「知的財産基本法」に基づいて知的財産戦略本部が2003年に設置され、毎年「知的財産推進計画」を策定してきた。その後、2013年に「アーカイブに関するタスクフォース」を公開し、2015年に関係省庁連絡会及び実務者協議会を設置。2017年に「我が国におけるデジタルアーカイブ推進の方向性」についての報告書および「デジタルアーカイブの構築・共有・活用ガイドライン」を策定し、2017年、デジタルアーカイブジャパン推進委員会及び実務者検討委員会が設置された。そして、多様なアプローチを踏まえて2020年8月には、我が国の幅広い分野のデジタルアーカイブの多様なコンテンツをまとめて検索・閲覧・活用するための横断検索プラットフォーム「ジャパンサーチ」を正式公開している。
この国ぐるみのデジタルアーカイブ活動は、社会が持つ知的資源、文化的・歴史的な記録を未来へ伝える役割を果たし、教育、研究、観光、地域活性化、防災、ヘルスケア、ビジネスなどさまざまな分野における有形無形の資源を利活用するための基盤とされる。今回のガイドラインの公開により、あらゆる国民がデジタルアーカイブジャパンの輪に加わり、知的財産の共有が国全体に広がる未来への道を示したといえるだろう。
今後どうなる?傾向と対策
2022年、2023年と国立国会図書館において「デジタルアーカイブフェス」が開催されている。今年のプログラムを見ると、パネルディスカッション「地域アーカイブの可能性―地域価値の再発見と活用―」の他、「地域におけるデジタルアーカイブの構築・連携等」「産業界におけるデジタルアーカイブの活用等」として、ジャパンサーチの概要と連携方法、地域アーカイブの域内連携・活用及びジャパンサーチとの連携事例報告などが行われている。
また、「デジタルアーカイブを日常にする」ための活躍や貢献となる活動を表彰する「デジタルアーカイブジャパン・アワード(DAJアワード)」も行われている。分野・地域を超えて日本の知識を集約するデジタルアーカイブ(デジタルアーカイブジャパン)は、教育・防災・ビジネスへの利活用が期待でき、インバウンドの促進や海外における日本研究への活用にもつながり得る。ジャパンサーチを使うと、コンテンツを検索して印刷など各種メディア、創作物などに利用する以外にも「ギャラリー」などで好きなコンテンツを楽しめる。利用はパンフレットやこの動画が参考になる。詳しい利用方法を知りたい場合、作品など自分(自社)の所有する知的財産をデジタルアーカイブに提供し共有したい場合などは、「利用ガイド」や「利活用事例」を参照して、参加するとよいだろう。
オープンなデジタルコンテンツが皆の力で増えてゆき、デジタルアーカイブの利活用が進んでいく。そして、さまざまな用途でデジタルアーカイブが利活用される社会、いわゆる「デジタルアーカイブ社会」の実現する未来を、「デジタルアーカイブ活動のためのガイドライン」と「ジャパンサーチ」を通じて肌で感じることができる。ぜひ、一度触れてみるとよいだろう。未来に知的財産をリレーするデジタルアーカイブ、自分も参加し一員として、楽しく未来を作っていければいいと思う。
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