これまでも衛星通信インターネットサービスは、静止衛星または周回衛星を利用、広域性、同報性、耐災害性などの長所を生かし、地形上、通信の確保が難しい地域の通信回線確保や非常災害時など緊急時の通信手段として活用されてきた。
確かに、現在ポピュラーなインターネットブロードバンドサービスである光回線は、物理的な「線」であるため停電や故障、災害などで回線が使えなくなるリスクを常に抱えている。衛星通信サービスなら電源さえあれば通信回線がいつでも使えるため、バックアップ回線として衛星通信を備えておくに越したことはない。
スターリンクは、高度500~2000km程度の低い高度を回る衛星を使って通信網を構築した衛星通信サービス。この種の衛星通信サービスは一般的な静止軌道衛星に比べ、低い軌道(地球低軌道、Low Earth Orbit、LEO)を回るため「低軌道衛星通信」と呼ばれる。
「低軌道衛星」とはいえ、雲がおよそ5000~13000m、一般的なジャンボジェットなどの航空機の飛行が10000m(10km)、国際宇宙ステーション(ISS)が400kmの高さにあるため、「低軌道」といえども最大2000km、実際には地上からかなり離れた高い距離ではある。ちなみに、一般的な衛星(「ひまわり」などの静止軌道衛星)は、赤道上空約36000km以上とはるかに遠くなる。低軌道と静止軌道の間を回る中軌道衛星もある。
低軌道衛星は、地球の自転と同じ周期で公転している静止軌道衛星と違い、地上から見ると動いているように見える。1つの低軌道衛星では利用エリアを通り過ぎてしまうと利用不可能になるため、多数の低軌道衛星を連携し、通り過ぎたら切り替えることで通信を途切れさせない工夫をしている。このように複数の衛星を連携・協調させることを「衛星コンステレーション」(「コンステレーション」は「星座」という意味)と呼ぶ。なお、衛星移動通信については、総務省の「小型衛星から構成される衛星コンステレーションによる衛星通信システムの技術的条件」が詳しい。
スターリンクでは、現時点で地球低軌道に3000機を超える衛星が存在する。スターリンクはワシントン州レドモンドにあるスペースXの衛星開発施設で研究、開発、製造、軌道制御を行っているが、スペースXでの最初のスターリンク衛星打ち上げは2018年2月、最新の打ち上げは2023年11月22日(執筆現在)だ。筆者も何度かスペースXの打ち上げのライブ中継を見たことがあるが、スターリンク衛星を何十機も積んでいた。このごろ見上げる夜空には、時たま何十機もの衛星が連なって動いているのが見えるが、それがスターリンク衛星だという。
そのサービス詳細は公式サイトから知ることができる。個人向けでは、アンテナなどの機器を固定で設置して行う「レジデンシャル」、レジデンシャルにプラスして携帯できるアンテナなどの装置を移動先に設置、地球のあらゆる場所で通信が行える「ROAM」、ボートなど海上で移動中にも通信できる「ボート」の3プランなどが提供されている。具体的に「レジデンシャル」プランの月額料金は6600円、意外と手が出せそうなコストとなっている。通信速度は、「下り40~220Mbps以上、上り8~25Mbps以上」とうたわれている。
ビジネス向けには「固定利用」「陸上モバイル(陸上移動時)」「マリンタイム(海上での利用)」「アビエーション(航空機での利用)」の4プランが提供されている。基本的にはこの4つのプランを利用したソリューションを、各社が提供することになる。なお、スターリンク同様の非静止衛星コンステレーションは、イリジウムやワンウェブなどがあるが、先述の総務省資料の最終ページが参考になる。最近は、Amazonが手掛ける衛星インターネットサービス「Project Kuiper」が話題だ。Project Kuiperは2023年10月に最初の衛星の打ち上げに成功。向こう6年間で3200基の衛星の打ち上げを予定している。NTTグループはこのProject Kuiperと協業する方針(プレスリリース)も示している。
スターリンク利用のメリットとデメリット。現状でのコストや機器なども
スターリンクは、中・高軌道衛星に比べ地球との距離が近いため、通信速度が速い、衛星の小型化によりコストと使用電力が低い、多数の衛星を連携させることで地球全域をカバーできるなどが特徴とされる。利用のメリットとしては、光回線などが引けない場所でも高速通信が利用できること。4G/5Gなどのモバイル通信は、地球上のかなりのエリアをカバーするものの、回線速度・通信容量は固定回線にははるかに及ばずリアルタイムな高速通信には向かないが、スターリンクなら場所を選ばずに光回線並みの通信が可能となるのは大きい。
運用コストは個人用プランの例でもわかるとおり、光回線並みなのもメリットだ。ハードウエアの初期費用は少々高め(個人用レジデンシャルプランの初期費用は55000円)だが、固定回線を引くことを思えば、それもわずかなもの、ともいえる。通信プランについては、個人・ビジネスともに「固定」と「移動可」に分かれている。スターリンクの料金プランページを参照するとよいだろう。基本的に装置を電源につなぎ、空に向けるだけですぐに運用可能なのもメリットだ。契約は基本的に縛りがなく、条件と価格を適宜変更でき、いつでも解約可能なのはありがたい。一般的な光回線は年単位などでの契約、モバイルなどとのセット、固定回線など物理的な装置が絡み、小回りがききづらいからだ。なお、スターリンクに関して、通信を行う衛星を切り替えるタイミングで通信が不安定になる可能性がある、多数の衛星を打ち上げるため天体観測のじゃまになる、衛星が寿命を迎えたとき大量の廃棄物(スペースデブリ)をどうするか、故障への対応、電波干渉など、さまざまな問題が取り沙汰されている。
利用のデメリットとしては、スターリンクによるインターネット通信には必ず受信機となる「スターリンクアンテナ」が必要で、モバイル通信などのようにスマートフォンなどからの直接通信には対応していないなどの点が挙げられる。ただし、将来的には直接通信の実現を目指すことが、方針として明らかにされている。写真などから推測して、アンテナがまあまあ大きいことがわかる。住宅地やオフィス街など密集した地域の場合、周囲の建物や立木よりも高い場所や空間を確保できるのかなどが問題といえそうだ。スペースX社では工事を請け負っておらず、紹介や提携もしてないので、アンテナの設置は自己責任において業者などに頼む必要がある。このあたりがデメリットといえるだろう。
今後どうなる?傾向と対策
空に何千個もの衛星を打ち上げて、地球上いつでもどこでもリアルタイムな高速通信を可能に、なんて、まるきりSF映画のようなストーリーだが、これは現実だ。これを、ビジネスに利用しない手はない。今まで回線を引けずに諦めていた場所や、一時的に利用したい場所、イベントや緊急時など、自由にさまざまなDXが実現する。筆者が推奨するのは、まずはスターリンク利用のソリューションの導入を検討すること。スターリンクサービスがあったら自社の事業にどんなことがプラスできるか、用途優先で考える。少し時間をかけてもよいだろう。なぜなら今後、衛星通信の利点を利用したさまざまなソリューションが続々と出てくると思われるからだ。
NTTグループなどの通信各社のソリューションを導入するメリットは、通信手段もセットで導入できること。通信各社が衛星通信を利用したソリューションを提供しているのでぜひ検討するとよい。ソリューションと別に自社で衛星通信を導入するよりも効率的と思う。なお、スターリンクは、プライオリティデータサービス(優先した通信が与えられるサービス)も提供しているが、そうしたプランの選択も、まとめて相談できる。
物理回線から解き放たれる、未来の通信ともいえるスターリンク。まだまだ発展途上ともいえるが、最近はかなりサービスも安定、料金も下がっており、あちこちから利用してみた、導入した、という声も聞かれ始めている。今後の状況を見守り、必要に応じて導入していこう。
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