上記によると12月1日から「安全運転管理者」の業務において、「運転の前後の運転者に対し、①目視等により酒気帯びの有無の確認をするほか、アルコール検知器を使用して確認を行うこと、②確認の記録を1年間保存し、アルコール検知器を常時有効に保持すること」が義務化された。アルコール検知器の使用はしばらく延期されていたため話題を集めており、ニュースなど何らかの形で目についたこともあるかもしれない。
ここでいう「安全運転管理者」とは、次のような内容だ。「事業所等における自動車の安全運転と運行に必要な指導や管理業務を行わせるために、規定台数以上の自動車の使用の本拠ごとに安全運転管理者を選任して、安全運転管理責任の明確化と交通事故防止体制の確立を図る」ため1965年6月に設けられた「安全運転管理者制度」により、「自家用自動車5台以上(自動二輪車は0.5台として計算)、乗車定員11人以上の自家用自動車は1台以上」を有する事業所で選任を必要とする職務。つまり、この条件に該当する事業所は「アルコール検知器でのアルコールチェック義務化」の対象、ということになる。
「確認の記録」については、「確認者名」「運転者」「運転者の自動車ナンバー」「確認日時」「確認方法(対面でない場合は具体的な確認方法)」「酒気帯びの有無」などを記す。なお、アルコール検知器は「呼気中のアルコールを検知し、その有無又はその濃度を警告音、警告灯、数値等により示す機能を有する検知器」と定めている。
酒気帯びの確認は基本的に対面で行うが、対面での確認が困難な場合は、運転者が検知器を携行し、カメラやモニターなどで運転者の顔色、応答の声の調子などとともに検知器による測定結果を安全運転管理者が確認する。もしくは携帯電話や業務無線など、運転者と直接対話できる方法で運転者が応答した声の調子などを安全運転管理者が確認するとともに検知器による測定結果を報告するなどの方法でもよいとされる。これらが、12月1日から義務化されている「アルコール検知器でのアルコールチェック義務化」の概要だ。
飲酒運転による交通事故は、今回の義務化以前から大きな社会問題となっている。確かに、各方面での取り組みや、2007年の飲酒運転厳罰化、2009年の行政処分強化などによって飲酒運転による交通事故は年々減少している。しかし、依然として飲酒運転による悲惨な交通事故は後を絶たない(「飲酒運転による死亡事故件数の推移」)。飲酒運転は、国民一人ひとりが「飲酒運転を絶対にしない、させない」という強い意志を持ち、飲酒運転を根絶することが大切と、警察庁の「みんなで守る『飲酒運転を絶対にしない、させない』」にある。ここでは、行政処分や罰則をはじめ、飲酒運転に関する情報がまとめられているので、ぜひ参考にしてほしい。
今回のテーマであるアルコール検知器の義務化についての経緯は、2021年6月に千葉県八街市で飲酒運転のトラックによる交通事故が発生(下校中の小学生の列にトラックが衝突、5名が死傷する事故が発生)、運転者が乗っていたのはアルコールチェックが義務付けされていない「白ナンバー(無償で自社の人や荷物を運ぶ事業用自動車以外の車両)」のトラックだった。事故後、この事実を受け止め、白ナンバーの自動車の運転者にもアルコールチェックの義務化の新設が検討された、というわけである。運送業や旅客運送業など(バスやトラック、タクシーなど)有償で人や荷物を運ぶ、いわゆる「緑ナンバー」の自動車を保有する事業者については、2011年5月1日より、事業所内でのアルコール検知器の備え付けと点呼時のアルコール検知器の使用が義務付けられている(「自動車運送事業におけるアルコール検知器の使用について」)。
八街市の事故を重く捉え、2021年11月、白ナンバーに対しても、安全運転管理者に対するアルコール検知器の使用義務化規定が新設された。アルコール検知器の義務化は当初、2022年4月1日の施行予定であったが、施行延長を望む声やアルコール検知器の供給状況などを踏まえ、施行が延期、目視での確認と1年間の記録保存のみの義務付けとなっていた。その後、2023年4月のアンケートで全国の安全運転管理者の約7割が「必要台数の全てを入手済」と回答したこと、半導体不足や物流停滞が改善し安定したアルコール検知器の生産・供給が可能と判断されることなどから、アルコール検知器の調達が十分と判断、8月15日の内閣府令により12月1日からの施行となった、という。
対象となる事業所や罰則は?
対象は先述のように「自家用自動車5台以上、乗車定員11人以上の自家用自動車は1台以上」を所有する事業所だ。対象の事業所は「安全運転管理者」を選任、従業員に対する運転指導や車両の運行管理を行う。安全運転管理者は、運転前後の酒気帯び確認と記録・保存の他、運転者の状況把握、運行計画の作成、安全運転の指示、運転日誌の記録、運転者への指導などを行う。自動車の台数が20台以上の場合には、副安全管理者を置き、20台ごとに1人を追加する必要がある。安全運転管理者については「安全運転管理者制度の概要」で詳細を確認するとよいだろう。
チェックの方法や手順は、「道路交通法施行規則の一部を改正する内閣府令の施行に伴うアルコール検知器を用いた酒気帯びの有無の確認等について(通達)」を参照しよう。これによると「運転前後の運転者に対する酒気帯びの有無の確認」は、運転を含む業務の開始前や出勤時および終了後や退勤時に行うことなどで足りる、という。また、「目視等及びアルコール検知器による酒気帯び確認の方法」の「目視等」とは、運転者の顔色、呼気の臭い、応答の声の調子などでの確認だ。酒気帯び確認は対面原則だが、対面が困難な場合にはこれに準ずる方法で実施すればよい。前述のように運転者に携帯型アルコール検知器などを携行させ、カメラやモニターなどの映像、または携帯電話や無線などの音声などを使って直接対話、様子と測定結果を確認すればよい。
アルコール検知器の性能は、呼気中のアルコールを検知、アルコールの有無または濃度を警告音、警告灯、数値などで示せる機器であればよい、とされる。なお、検知器の「常時有効に保持」とは、正常に作動し、故障がない状態で保持しておくことをいう。取扱説明書に基づき適切に使用、管理、保守し、定期的に故障の有無を確認、故障がないものを使用する。記録については、先述した項目について記録、これを1年間保存する。その他アルコール検知器を用いた酒気帯び確認が確実に行われるよう安全運転管理者講習等の機会を通じて周知を図る、業務中の飲酒運転などを摘発した場合には、徹底した捜査と確認を行うこと、などが義務付けされている。
今後の傾向や対策は?
基本的にアルコールチェック義務化そのものについての罰則はない。チェックを怠った結果、従業員が酒酔い運転や酒気帯び運転を行ったり事故を起こしたりした場合、安全運転管理者の業務違反となる。直接的な罰則はないものの、公安委員会によって安全運転管理者を解任されたり、命令違反などで罰則対象となったりする可能性があるので注意が必要だ。仮に従業員が飲酒運転や酒気帯び運転によって事故を起こした場合は、社会的信用を失う危険性もある。企業として万全に対策を行おう。飲酒運転を行った本人および同乗者、酒類提供者、車両提供者への行政処分や罰則は厳しい。「飲酒運転根絶のリーフレット」や先述の警察庁のページをよく読み、チェックや管理を怠ることのないよう、努めるに越したことはない。
しかし、日ごろの業務に、今回の改正に伴う作業が加わるのは厳しいところ。社用車の運転者および安全運転管理者がこれらを行うのはかなりの負担だ。だが、怠るわけにはいかない。そこで専用のITツール、例えばアルコールチェック義務化対応の車両管理システムの導入を検討したいところだ。システム上でチェックの結果を入力・管理でき、検知器と連携したシステムなら測定結果が自動で入力される。また、記録に未記入や未提出があった場合に通知が送信されるなどで負担はかなり軽くなりそうだ。「アルコールチェック義務化対応 ソリューション」などで探してみるとよい。
加えて車両や運転者の情報を総合的に管理、車両の走行距離や運行記録の管理、車両の予約管理機能で効率的に運用する、動態管理、安全やエコに対する運転傾向の分析など、自動車に関するもろもろが総合的に管理できるのはなかなか効率的だ。対象の事業所は、検討してみてもいいだろう。今回非対象であっても今後、社用車を増やすなどで対象となりそうな事業所の場合も、今後に備えて準備をしておこう。
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