マイナポイント事業は本連載でも何度か紹介した。マイナカードは新規取得と、健康保険証としての利用申し込みや公金受取口座の登録を行うことで最大2万円分のポイントがもらえるキャンペーンを実施していた。この事業は2回行われ、2回目の受付は2023年9月30日で終了し、現在公式サイトでは受付終了のお知らせに加えて「事務局を装ったメール・SMSが増えています!」「マイナポイントに乗じた詐欺にご注意ください」との注意喚起がなされている。
その他にも希少物やブランド物などをネットで探していて、格安価格で提供するECサイトが見つかることがある。これらはフィッシングサイトの可能性も高く、注意が必要だ。有名サイトを精巧に模して作られ、一見して分からない外観のものも多い。そして「多様な決済に対応している」にもかかわらず特定の銀行振込に誘導、代金を振り込んでも品物が送られてこない、などの流れで被害に遭うケースが多い。
警察庁・金融庁「フィッシングによるものとみられるインターネットバンキングに係る不正送金被害の急増について」によれば、2023年(令和5年)に件数、被害額ともに前年の5倍に急増している。「12月8日時点において、令和5年11月末における被害件数は5147件、被害額は約80.1億円となり、いずれも過去最多を更新」しているという。銀行関連の詐欺だけでもかなりの数になるため、その他の詐欺も伸びていると推測される。
オレオレ詐欺や預貯金詐欺などの「特殊詐欺」も相変わらず多い(「特殊詐欺認知・検挙状況等について」)。昨夏、筆者宅に市役所職員を名乗る男性から、払い過ぎの健康保険料を還付したいとの電話が掛かってきたが、内容に疑問を抱いたため途中で電話を切り、事なきを得た。これは還付金があると言って預金口座番号や残高を聞き出し、ATMなどを操作させて金銭をだまし取る「還付金詐欺」の類いだ。警察に知らせた際、こうした特殊詐欺は、従来70歳代以上をターゲットとしていたが、最近は比較的若い年齢層にもターゲットを広げている、と言われた。送金手段をATMからインターネットバンキングに広げ、40歳代ぐらいまでを巻き込む感じらしい。
SNSなどのIDやパスワードを盗用した「なりすまし」も増えている。SNSの「友達」に「コンビニでギフトカードを買ってコード番号を連絡して」とのメッセージを送り、電子マネーをだまし取る手口が多い。近頃では、こうした類いの犯罪にAppleのギフトカードが使われるケースが急増し、Apple側も注意を促している。SNSやネットニュース、テレビ・ラジオ番組などで、有名人の詐欺被害エピソードを目にする。内容は、「銀行をかたるフィッシングサイトに情報を入力してしまった」「『パソコンがウイルスに感染した』という警告に驚いてお金を払ってしまった」など、一般人に近い事例が多く、詐欺被害が身近になっていることがうかがえる。
対策は?「添付URLは開かない」「電話には出ない」など。確認すべきポイント
マイナポイントに関わる詐欺への対策は、マイナポイント事業のページおよびフィッシング対策協議会のページ、最初に紹介したデジタル庁、消費者庁、国民生活センターなど公的機関の情報を参考に対策するとよいだろう。こうしたフィッシングや特殊詐欺など、全般の対策については、警察庁の「サイバー警察局」の情報が参考になる。以下、フィッシングをはじめとする詐欺についての対策を筆者なりにまとめてみたので参考にしてほしい。
①パスワードは「使いまわさない」が基本
・IDとパスワードを盗まれた場合、他のサービスでもなりすまされる可能性がある。まずは「使いまわさない」のが安全
②電話は発信元を確認してから出る。非通知や怪しい番号には出ない。
・「非通知は出ない」「登録した番号以外には出ない」などのフィルターが有効。ナンバーディスプレイ契約、電話機の設定などで行える
③怪しいメールやメッセージは開かず削除、判断がつかない場合はURLや言い回しで判断
・件名、送信者名、企業・ショップ名、言い回し、メールアドレスやURL、電話番号などキーワードで検索するのも有効。「それはフィッシング詐欺」という情報に行き当たることがある
④迷惑メールフィルターを利用する
・フィッシングメールが受信トレイに並ばないよう、迷惑メールフィルターを利用する。総合的なセキュリティソフトは、全般的に有効。インストールして正しく設定しておく
⑤メール、メッセージ内のリンクは開かない
・メール内のリンクや添付ファイルは危険な可能性があることを理解、開かないことが原則
・どうしても開きたい場合は、開く前に長押し(スマホ)やカーソルを置く(パソコン)などでURLやドメインを確認する
・常用するサービスは、公式アプリやブラウザーのブックマークからアクセスする
・「トレンドマイクロサイトセーフティセンター」や「SecURL」「詐欺サイトチェッカー」などのオンラインサービスでリンク先の安全性をチェック
⑥怪しいサイトやページを開いてしまった場合は速やかにページを閉じる
・閉じる前に、ブラウザーのURL欄のドメインやサイト情報などを確認
・キャプチャを撮っておくのも有効。サイト名、タイトル、URL、メールアドレス、サイト内のキーワードで検索を試みる
⑦利用中または情報を入力中に疑問を感じたら、作業を中断して情報を探す
・サービスの公式サイトにある注意喚起情報などを確認する。「〇〇などの情報を要求することは絶対にありません」「〇〇を行うことはありません」など具体的な情報が掲げられていることもある
⑧情報を送信してしまった、詐欺に遭ってしまったと思う場合、警察などに通報する
・パスワードなど変更がきく情報は直ちに変更。カード番号は利用停止手続きをする、など臨機応変に対応する
・通報先は最寄りの警察の他、前述「マイナポイントに乗じた詐欺にご注意ください」に記された「警察相談専用電話」「消費者ホットライン」などに相談する。そのほか、国民生活センターの「相談・紛争解決/情報受付」窓口もおすすめ。
今後の傾向と対策
先述の対策にも挙げたが、多くの詐欺電話は家電話に非通知で掛かってくる。番号を確認して非通知なら出ない、非通知は自動で拒否する設定にする、登録した電話番号以外は掛からない設定にするなどが有効だ。これも警察からの話だ。日ごろから大事な電話は携帯電話に掛かるよう工夫するのもいいそうだ。年配の両親のため実家に出向いて対策を行ってくるのも有効だろう。
コロナ禍も終息という社会的な空気感も強くなり、人々の移動や経済活動も自由になりつつある。円安や物価高などで世知辛さも身に迫っている。少しでもおトクを得たい、公共の制度を活用したい、などの気持ちは誰しもある。そんな心理に付け込む詐欺、許すわけにはいかない。
マイナポイント事業の終了や、補助金・還付金などの情報は、日ごろ情報をチェックしていれば分かることでもある。定期的な情報のチェックは怠らずにしたい。ただし、わかっていても、もっともらしいメールや電話は信じてしまいがち。特に長期休暇明けなど、気の緩んだところに悪者は付け込む。筆者宅への電話も、親切で愛想よい口調、市役所と銀行の担当者という二者連携でもっともらしく思わせる、など、工夫が凝らされていた。
対話型AIの進化などで、さらなる巧妙なメールや偽物サイトの作成も可能となっている。悪者と自分たちとの知恵と知識のいたちごっこは続くが、何事も相手を過信することなく正しい判断を行うことが大切だろう。
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