これまで、スターリンクの通信には受信機となるアンテナが必要で、スマートフォンなどとの直接通信に非対応なのが残念といわれてきた。ところが2024年1月3日、スペースXにより打ち上げられたスターリンクの最新鋭衛星6基は、既存のスターリンクと接続してネットワークを構築可能な上に、スマートフォンとのLTE通信を可能とするアンテナを搭載、待望の直接通信実現の第一歩として大きく話題を呼んだ(「スペースX、スマホとの直接通信が可能な衛星の初打ち上げに成功」)。
KDDIとスペースXは、スターリンクとau通信網の活用により、スマートフォンが衛星と直接つながり、空が見えればどこでも通信ができるサービスを2024年内に提供開始予定と2023年8月30日に発表している。先述のLTE通信搭載のスターリンク衛星を使い、5Gや4G LTEで提供が困難だった山間部や島しょ部を含む日本全土に通信エリアを拡張する。
サービスのページには「『エリアカバーの新次元』へ」というタイトルで、「空が見えれば、海でもいつものスマホで家族や友人へ連絡ができます」「空が見えれば、緊急時でもいつものスマホで情報を得ることができます」などのキャッチコピーが書かれている。この「空が見えれば、どこでもつながる」の実現は、前述のごとく2024年内に提供予定だが、まずはSMSなどのメッセージの送受信から、そして音声・データ通信と、順次対応する。
KDDIはこれまで、ユーザーの生活動線におけるエリア整備を積極的に行ってきた。それゆえに4G LTEの人口カバー率(人口が多い地域がカバーされているかどうかの指標)において9割超の高い割合を誇る。ただし、日本は国土面積に占める可住地割合が3割程度と諸外国と比べて低く、地理的条件により基地局の設置が困難な場所が多く存在する。それゆえauの面積カバー率(携帯電話などのサービスエリアの展開の具合を表す指標。サービスの利用できる地域を国土全体に対する割合で示したもの)は約6割にとどまる。
今回の提携により、今後、光ファイバー回線などのバックホール回線を敷設しづらい地域に、スターリンクを利用した基地局を順次展開していく予定とし、面積カバー率が順次上がっていくことが考えられるだろう。
衛星とスマホの直接通信、実現すればどんな通信環境に?どんなことが実現する?
従来の専用アンテナを必要とするスターリンクでは、地球上のどこでも高速通信が可能となり、DXが実現可能となる範囲も広がる、よりリアルな状況把握やリモート操作などが実現する、といった点について2023年12月の記事でも触れた。例えば医療の場合、アクセスの悪い場所でも、たとえ移動中でも、高解像度の動画や画像、音声、診療データなどの高度な情報を共有でき、将来的には遠隔手術なども可能となるだろう。
一方、今回取り上げる直接通信は品質よりもとにかく「つながる」ことが趣旨となる。すべての「空の見える場所」でスマホなどのモバイル機器も含めた通信がつながれば、どんな場所からも連絡がとれ、緊急時でも必要な情報を探せて、情報をシェアできる。これによる大きなメリットは「人間の生存率が上がる」「危機を救える」ことと思う。いつでもどこでも通信がつながることで、遭難や事故、急な発作、その他危機的状況を救える確率が上がる。
筆者、FRのオープンカーで、春先に山にドライブに出掛け、雪の残った道にはまって動けなくなってしまったことがある。助けを呼ぼうと携帯を取り出したら「圏外」。誰も通らないし、日も暮れてきた。車を乗り捨て歩いた先に民家を見つけて事なきを得たが、「そのまま遭難していたら」と思うと肝が冷える。そんなとき、どんな場所でも通信がつながる、というのは大いにありがたい。
なぜ「圏外」な場所があるかといえば、携帯電話やスマートフォンなどとの直接通信には電波を出す「基地局」が必要で、基本的に基地局は光ファイバーなどのバックホール回線で結ばれている。これまで人のいない山岳などの場所や海上などには、物理上もしくは採算上などの理由で、基地局を置けなかった。これが、空の上に回る多数の衛星を利用すれば、地球上の空が見える場所すべてがカバーできる、というわけだ。
「空が見えるすべての場所から通信できる」「アンテナさえ立てれば安定した高速通信が確保できる」という2つが、現状での低軌道衛星通信の柱となる。この2点により、前述の医療系サービスの向上はもちろん、車の自動運転、IoT(モノのインターネット)、物流や交通、海運・航空、災害支援など、あらゆるジャンルで大きな発展や向上が期待できる。
他の通信会社、Amazonのプロジェクト、HAPSなども。今後の見通し
低軌道衛星通信サービスでスターリンクの他、Amazonの「Project Kuiper」が注目と述べたが、2023年11月28日、NTT、スカパーJSATが戦略的協業に合意した。KuiperはスペースXと同様に、低軌道衛星通信により面積カバー率100%の高速かつ安定した通信の実現をめざすが、これを利用してあらゆる場所からAWSクラウドに接続、セキュリティとレジリエンス、柔軟性を活用して事業を変革していくと述べた。
なお、低軌道衛星通信ではないが、「HAPS」(ハップス、High Altitude Platform Station)という、地上約20kmの「成層圏」を飛ぶ無人航空機などに基地局を設置し、災害時でも途絶えない、安定した通信の提供を目指すサービスにも注目したい。2027年の実用化をめざすという。なお、Space Compass、ドコモ、NTT、スカパーJSATは2023年12月7日、「HAPSを介した携帯端末向け直接通信システムの早期実用化に向けた開発の加速と実用化後の利用拡大を見据えた高速大容量化技術の研究開発を開始」している。
このように各通信会社が新技術と自社通信網を連携、将来を見据えた新しい通信サービスを探っている。ところで会社や工場、家や学校など固定した場所での通信は「安定した高速通信」が基本となる。固定通信を提供する各社でも最大おおむね10Gbpsの光回線サービスの提供を行うなど、企業の用途や環境、コスパに応じた幅広い選択肢がある。
またNTTは2023年4月に通信ネットワークの強化に約1600億円を投じると発表し、AIを活用した自動復旧システムで通信障害を防止するなど、日々ユーザーに快適な通信環境を提供するための努力も重ねている。
低軌道衛星通信やHAPS、Wi-Fi7、5G/6G通信など、新技術通信のニュースを耳にするにつけ、従来の通信技術や熟しつつあるサービスと連携し、いつでもどこでもつながり、目的に応じた高速で安定した通信がトラブルなく提供されることが、人々の「困った」を救い、将来の幸せを作ると確信している。通信の今後に注目だ。
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